春のツバメ vs スズメ
ツバメの巣にチュンの魔の手!!
応援するなら、どっち!?
桜前線をみちびくように、
ツバメたちの姿が各地で
目撃されるようになりました。
日本で子育てするために、
南の国から帰ってくる渡り鳥たち。
季節は
「雀始巣(すずめはじめてすくう)」の頃。
冬を越したスズメたちも巣作り&
子育てを始めます。
そんな両者には、
いろんなバトルが発生するようです!

かわいい顔して、チュンったら。
いじめて乗っ取るなんて!?
「だって邪魔なんだもん」
シュッとしたツバメ族と、
まるっとしたスズメ族。
どちらも人の近くで
子育てするキュートな小鳥ですね。
共通点が多いだけに、
春の子育て本気シーズンには、
いにしえから深~い確執があるようです。
南の国から命がけの旅をして、
やっとマイホームにたどりついた
ツバメ夫妻。
そんな愛の巣を、
虎視眈々とねらっているのがスズメ!!
じつは ツバメの卵・
ヒナ死亡の半分近くは
チュン攻撃が原因といわれて
いるくらいなのです。
住まい探し中のスズメにとって、
ツバメの持ち家は好物件。
なんなら卵やヒナを突き落として
でも立ち退かせたい・・・と、
まるくて茶色い体には黒い欲望が
渦巻いているのですね。
スズメにしてみれば、
日本の過酷な冬に耐え、
やっとこれから子育てするぞ~!! と
はりきっていた矢先、南の国から
しゅるっと戻ってきたおしゃれな
夫婦が生活圏内のあちこちで
マイホームを構え出すのですから、
疎ましいったらありません。
しかもやつら(ツバメ)は、
人間を怖がるどころか用心棒のように
外敵から守ってもらう方針らしい。
野鳥なのに子育て中のヒナまで
見せちゃって「かわいい♪」とか
チヤホヤされていい気になってる
らしい・・・と、それはそれは
妬ましげに(イメージです)襲いに
くるのでした。
もちろんツバメも応酬するのですが、
太い足と頑丈なクチバシでキーキー
騒ぐスズメと、ほっそり軽量なツバメ
では押し出しに差があるのか、
たいてい巣は大ピンチに。
親ツバメがエサとりにでかけている
隙は絶好のチャンスです。
ツバメ一家を追いはらうと、
スズメは前住人の荷物を撤去!
かわりに枯れ草など運び込んできて、
お気に入りのインテリアに模様替え♪
こうして「ツバメの巣」は
「スズメの巣」に・・・。
ときにはそれを破壊しにまた
ツバメが戻ってきたり、スズメは
軍団を作って嫌がらせしたりと、
小鳥界では悲喜こもごものバトルが
繰り広げられているようです。

おしゃれなツバメ夫妻
ツバメ(←良)とスズメ(←悪)は、
何かと比べられ。
古代エジプトの象形文字
ヒエログリフには、『ツバメ』も
『スズメ』もあるそうです。
尾羽以外の形はそっくり。
それなのに、ツバメの文字は
「大きい、良い」を表し、
スズメの文字は「小さい、悪い」と
真逆の意味に用いられたというでは
ありませんか。
さらに、ツバメは飛ぶ姿が星形に
見えることから「聖なる鳥」とされ、
小鳥では唯一ミイラにされているの
だそうです。
日本でも、
「ツバメが巣を作るとその家は栄える」
といわれ、飛翔する精悍な姿は
いろんなマークにもなっていますね。
農業国にとって、スズメは大事な
穀物を食べてしまう農害鳥、
ツバメは(作物を食い荒らす)害虫を
食べてくれる農益鳥。
それが扱いの差に現れているようです。
ツバメが人を恐れず、スズメが人に
心を許さないのは、こんな歴史が
あるからかもしれません。
もっとも現代では、ツバメのフン
(昔は肥料などとして喜ばれていたとか)
が迷惑になると巣を撤去されたり、
人を恐れない新タイプのスズメが
登場したりと、事情はだいぶ
変わっているようです。
ところで、日本にはこんな
昔話があるのをご存じでしょうか。
ふだん虐待しているスズメへの
罪滅ぼしにつくられた話とも
いわれていますが・・・
「その昔、ツバメとスズメは姉妹だった。
親が危篤という報せがあったとき、
妹のスズメはなりふりかまわず
普段着のまま駆けつけたので、
親の死に目にあえた。
ところが、姉のツバメは紅をさし、
お歯黒して美しく着飾ってから
出かけたので、親の死に目に
間に合わなかった。
それで神さまは、
孝行なスズメには、手近な場所で
人間と同じ五穀を自由に存分に
食べて暮らせるように計られた。
けれども親不孝なツバメは、
虫しか食べられず、実りの秋に
日本にいることを許されなかった
という」
(『燕不孝』)

普段着ノーメイク
ツバメも外見にまけず
「黒い」一面がありますよ☆
ツバメのヒナをいじめるのは、
スズメだけではありません。
カラスやヘビやネコは
もちろんですが・・・意外な
盲点が、「ツバメ」?!
なんとツバメのオスがヒナを
くわえて巣から落とすというのです。
彼の正体は、継父。
ツバメにも黒い感情が
あるのでしょうか。
「自分以外の遺伝子は排除せよ」
という脳の指令に粛々と従って
いるのでしょうか。
また、体の小さい子などを親が
わざと巣から落とす例も
あるそうです。
スズメと気づかずツバメの巣に
戻された(?)迷子のヒナが、
ちゃんとエサを食べさせてもらって
すくすく育っているというニュースが
ありました。
お米を食べるイメージが強い
スズメですが、赤ちゃんが育つときは
ツバメと同じく昆虫食なのです。
ツバメの親鳥は、1日に600回以上も
エサ運びをするといいます。
鮮やかな黄色いヒナの口の中を見ると、
ついエサを入れたくなってしまう
のだとか。自分の子を殺めることも
宿敵の子を大事に育てることも
あるなんて、ツバメの親って
ミステリアスですね。
ツバメとスズメは、日本や中国では
もともと「燕雀(えんじゃく→
小鳥の代名詞、小人物のたとえ)」といって
一緒にされてきた間柄。
どちらも「スズメ目」なのです。
日本人的には
「どっちもちっちゃくて
可愛いから がんばれ~」
という思いですが、巣を作れる
場所が限られてくると、
身近な鳥どうしのバトルは ま
すます熾烈になってしまうの
でしょうか・・・。

虫!虫!虫!
おちたヒナを拾わないで!!
もし、巣から落ちたと思われる
ヒナを発見したときは
どうしたらよいのでしょう?
人として何かしてあげたくなって
しまいますが、基本的には
「拾わない」でそのままにしておくのが
鉄則なのだそうです。
人間のそばにいて、小鳥世界の機微を
見せてくれるツバメとスズメ。
巣立ちまでは、ほんの数ヶ月。
それぞれがんばる子育てを
あたたかく見守って
あげたいですね。
<参考>
『ツバメのくらし百科』大田眞也(弦書房)

元気に巣立ってね♪