ブーム去り、悲惨な運命たどる中国のチベット犬 | トピックス

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2015年5月23日17時40分ニューヨーク・タイムズ・ニュースサービスより

超大型のチベット犬、
チベタン・マスティフ。

中国ではつい最近まで、狂想曲とも
いえる異常なほどのブームになっていた。

愛嬌(あいきょう)のあるたれ目に、
よだれをたらした口もと。

ニッブル(Nibble)のような
犬だったら、20万ドル
(1ドル120円で2400万円)で売れ、
石炭長者が郊外に建てた邸宅の美庭を
歩き回っていたかもしれない。

NYタイムズ 世界の話題
 ただし、それも2013年までの
ことだったら、という話だ。

 今年の初め、ニッブルと20匹以上の
哀れなチベタン・マスティフが、他の
150匹ほどの犬とともにトラックの荷台に
乗せられていた。

それも、ニワトリ用の金属製の箱に
詰め込まれていた。

もし、北京の動物保護の活動家たちが、
文字通り身を投げ出すようにして車を
止めなければ、中国東北部の処理場に
送り込まれるところだった。

1匹5ドルほどで、肉は鍋料理の中身に、
皮や毛も冬用の手袋などにされて
いただろう。

 中国のぜいたく品ブームが
はじけた後の光景はすさまじい。

黒色のアウディ車、オメガの時計、
超一流の穀物酒、それに三流都市の
高層マンション。

景気の減速でそうなったものもある。

加えて、当局の引き締めもある。

あまりに目につく買い物は、腐敗摘発の
動きを促す旗印にもなるからだ。

 そこに仲間入りしたのが、
チベタン・マスティフだ。

チベット高原を原産地とする牧羊犬。

一時は、ステータスにこだわる中国人に
とって、必需品のような存在だった。

4年前には「ビッグスプラッシュ
(Big Splash)」という名の
赤みがかった茶色の純血種が、
160万ドルという最高値で売れ、
報じられもした。

もっとも、どんなによい犬でも
25万ドル以上で買う人はいないとの
指摘もあり、この金額は市場価格を
つり上げるためだったとも見られている。

 現在では、チベタン・マスティフの
ブリーダーは、生産力の過剰に
あえいでいる。

買い手がほとんどつかなくなり、
価格もピーク時のかけらほどに過ぎない。

ライオンのようなたてがみとしっかりした
四肢を持つ立派なもので2千ドル前後。

ブリーダーの多くは、もっと値引き
してでも手放したがっているようだ。

 「もし、他にできることがあるのなら、
この商売はもうやめている」と
青海省で長らくブリーダーをしている
チベット人のゴンボはため息をつく。

体重160ポンド(約73キロ)の
犬だと、エサ代に毎日50~60ドルも
かかり、「巨大な負担になっている」
という。

 関連団体によると、13年以降、
チベットのブリーダー95人のうち、
半分ほどが経営に行き詰まってしまった。

大にぎわいだった四川省成都の
「チベタン・マスティフ純血種展」は、
今はペットや熱帯魚の展覧会になっている。

 チベタン・マスティフの例は、
目新しいものに気ままに飛びついては
捨てるという中国人富裕層の移り気な
姿勢を、ある意味では反映している。

この犬は獰猛(どうもう)で
、チベット遊牧民の伝統的な自由奔放さ
にもつながっており、漢民族の所有者に
とってはヒマラヤ文化に接するという
側面もあった、と北京の市場調査会社・
精日伝媒の編集主幹リズ・フローラは
見る。

 「中国の高級品市場で、流行は巨大な
推進力になっている」とフローラはいう。

そして、「漢民族の買い手には、
チベットへのロマンにつながるものなら、
いかなるものにでも出し惜しみを
しない用意があったということだろう」
と分析する。

 チベット遊牧民は、
チベタン・マスティフを長い間、
家畜泥棒やオオカミに対する夜の
番犬として飼ってきた。

ノドの奥深くからほえる古くからの
血統種で、高地の草原の厳しい冬と
薄い空気に慣れている。

オオカミと同じように、雌犬は年に
1回しか子犬を産まない。

 「人や家畜、持ち物をどんな危険からも
ひるむことなく守り抜き、この犬のことを
みんな誇りに思ってきた」とゴンボはいう。

その庭では、杭につながれた3匹の
チベタン・マスティフが、よそ者の
来訪に狂ったようにほえていた。

 チベタン・マスティフ熱のピークでは、
よりたくましく見えるよう繁殖用の雄犬に
シリコンを注入するブリーダーも現れた。

2013年の初めには、犬の顔のしわとり
手術中にその犬が死んだため、飼い主が
動物病院に14万ドルの支払いを求める
訴訟すら起きた。

「自分の犬がよさそうに見えたら、
雌犬の飼い主がペアリングの際に
もっと高いお金を払うから」というのが
報じられた美顔整形の理由だった。

 南京農業大学の教授で
チベタン・マスティフに詳しいリー・チュンに
よると、投機筋が乗り出してきたことも
悪影響を与えた。

加えて、市場価格が急上昇し始めると、
悪徳ブリーダーが他種犬との交雑を始め、
これがこの犬の価値を落とし、
買い手を遠ざけることにもなった。

「2013年までには、
雑種があふれるほどになった」と
リーは話す。

 チベタン・マスティフが人をかんで、
死者すら出るようになったという報道も、
この犬への熱意に冷や水を浴びせた。

決して根っから危険だという訳ではないが、
見知らぬ人に襲いかかる傾向があると
専門家はいう。

 この数年は、中国のいくつかの都市で
チベタン・マスティフの繁殖を禁じる
ところも出ている。

これが需要をさらに鈍らせ、
犬を捨ててしまう事例を増やしていると
見られている。

 冒頭のニッブルと他の犬たちを救出した
動物保護の活動家たちによると、
トラックはゾッとするような状況を
呈していた。

チベタン・マスティフの何匹かは、
四肢を骨折していた。

エサも水も3日間もらっていなかった。

運転手にかねを払って犬を保護したが、
3分の1はすでに死んでいた。

 「こんなことは違法なのに、
警察は何もしようとしない。
どうしていいのか本当に分からなくなって
しまう」とアンナ・リーはいう。

高速道路では、犬を積んだトラックを
止める非常手段にも出るが、普段は
資金運用のファンドを経営している。

 被害にあっているのは、路上で
犯罪組織にさらわれたり、血統を十分に
継いでいないためにブリーダーに
捨てられたりした犬が多いようだ。

救出された雌のチベタン・マスティフの
何匹かは乳首が膨らんでいることから、
子犬を育てているときに捨てられた、
と北京新天地国際動物医院の
経営者メアリー・ペンは見ている。

 ペンが創設したこの医院では、
保護した犬に手当てを施している。

中国に来て25年。さまざまな犬の
流行を見てきた。

いずれも投機的な繁殖で始まり、
大量の投棄で終わっている。

 「10年前はジャーマンシェパードだった。
それから、ゴールデンレトリバー。
そして、ダルメシアン、ハスキー犬」と
ペンは振り返る。

 「それにしても、チベタン・マスティフが
肉の輸送トラックに乗せられているとは。

あの馬鹿げた価格を知っているだけに、
考えてもみなかったわ」
(抄訳)

(Andrew Jacobs)

(C)2015 
New York Times
 News Service
(ニューヨーク・タイムズ・ニュースサービス)



チベット犬のチベタンマスティフ
ブームが去り悲惨な境遇に
直面している。