3月22日(日)18時32分配信 産経新聞より
神奈川県川崎市の中学1年生の殺害事件
など、青少年が巻き込まれる殺伐とした
出来事が相次ぐ中、高校生が命の尊さ、
生きるということの尊厳に真正面から向き合う
姿に心を打たれた。
青森県十和田市にある県立三本木農業
高校(生徒数604人、滝口孝之校長)。
三本木農高といえば、ご存じの方もいると
思うが、松方弘樹さんや柳葉敏郎さんら
実力派俳優が出演し、盲目の馬とパートナ
ーとなる馬術部の少女の絆を描いた物語
「三本木農業高校、馬術部~盲目の馬と
少女の実話~」(平成20年10月公開)の
舞台となった。
和田市は旧陸軍が軍馬充部を設置する
など、古くから馬との関わりが深い
土地柄でもある。
その三本木農高で3年前から、青森県
物愛護センター(青森市)で殺処分された
犬、猫の骨を譲り受け、土に混ぜて花を
育てるという活動が続けられている。
名付けて「命の花プロジェクト」。きっかけは、
動物科学科愛玩動物研究室の当時、
年生の女子生徒が同センターを見学した際、
事業系廃棄物としてゴミと同様に処分される
現状を目の当たりにし、何とか殺処分ゼロの
社会を実現したいと思い立ったことだ。
「何の罪もないペットが人間の勝手な都合で
捨てられ、そしてゴミとして扱われる」「もっと
生きしたかっただろうに…」。そんな
やりきれない忸怩(じくじ)たる思いと、
土に返して花として育てることで新たな
命を吹き込むという、ある意味崇高な
使命感のようなものが生徒たちを
立ち上がらせたと思うと胸が熱くなる。
育てた花は地域のイベントなどで住民に
配布しているが、当初は「動物の骨が入って
いて気持ち悪い」「教育現場としてはいかがな
ものか」といった批判にさらされたという。
それでも学校は地道に活動し、今では地域の
理解も得られているという。
同センターでは毎年、2千匹以上の犬や猫が
殺処分されている。センターの担当者によると、
殺処分の数は年々減っているという。病気、
住環境の変化などさまざまな要因はあるに
せよ、それでも殺処分が行われているという
現状に、言葉を発せない動物が狭い空間の中
で命を絶たれるというシーンを想像するだけで
涙があふれ、胸が締め付けられる思いがする
のは自分だけだろうか。
わが家でも4年ほど前に雌犬を病気で亡く
した。わずか10年の命だった。
ペット専門の業者に焼いてもらい、骨は専用
の墓地に埋葬し、毎年、お盆などに供え物を
して供養している。自宅には今でも元気だった
ころの写真を飾り、妻が毎朝、水をあげている。
当時、“わが子”を失ったショックで、しばらく
ペットレス症候群に陥ってしまったことを思い
出す。
「こういう悲しい思いは二度としたくない」と
思いながら、性懲りもなく今もまた雌犬を
飼っている。
つい余談になってしまったが、ペットを
飼っている者として声を大にして言いたい
のが、言葉を発せない動物の感情を分かる
努力をし、自分の子供と同様に愛情を
持って接しているかということだ。
一時の感情だけで手に入れ、人間のエゴ
だけで命を絶つということは決してあっては
ならない。
命の重さは人間も動物も同じ、尊いものだ
ということを改めて問い直したい。
愛玩動物研究室の1人の女子生徒が
言った。「殺処分は減ってもまた捨てる人が
いる。助ける人もいれば、捨てる人もいる。
動物を飼うということはどういうことなのか
飼い主に意識してほしい」。この言葉に
すべてが凝縮されている。
学校の敷地内にある動物舎では、
愛玩動物研究室の5人の女子生徒が
毎日、犬や猫の管理をし、土・日曜日は
当番制で世話をしている。「辛くないの?」
と質問して返ってきた答えは、満面の
笑みで「動物が大好きですから」。
薄緑色の作業着に長靴で世話をする
その姿にたくましささえ覚えた。
生徒たちは将来、ドッグトレーナーや
動物看護師に就きたいという。命と
真摯(しんし)に向き合う彼女たちなら
必ず夢がかなうだろうし、ぜひ、これからも
応援していきたい。
彼女たちが卒業しても命の花プロジェクトは、
これからも後輩に脈々とその精神が
受け継がれていくに違いない。
いつか殺処分ゼロの日が来ることを願って-。(福田徳行)