推しの流れ弾 | *ゆるめてサボって上手くいく*成松藍

*ゆるめてサボって上手くいく*成松藍

こころとからだは繋がっています。あなたのこころは全て知っています。あなたのからだは全て持っています。自分を取り戻すには動きたいように動き、やりたくないことをサボるだけ。自分を信じてね。元劇団四季/シングルマザー/恋も仕事も自分らしく楽しもう♡



「新人の方がいいじゃないか」




入団8年目くらい

ある演目のアンサンブルに
キャスティングされ

入団ホヤホヤの新人の子が
私のセカンドキャストについていた

長年その演目に携わっている
先輩が私に
幕開きのソロダンスパートを
任せてくれたのだけど

その頃の私は
荒波に揉まれて
ヨタヨタで
大役を任された喜びより

ちゃんと務められるか
不安の方が大きかった



四季では
同じ演目を長期間
何回も上演するため

キャストチェンジをした時
スムーズなように
同じ役の人は舞台上で
(演目によっては舞台裏まで)

踊る場所から
芝居の立ち位置
通り道まで
同じになるように
決めていく



なので必然的に
私と同じ役に入った
ホヤホヤ新人の子も
同じソロダンスパートを
踊ることになるわけだが



新人の子が踊ってみたあと
演出家が言い放ったのが
冒頭のセリフだった



悔しいけれど
私から見ても
何の恐れもなく
のびのびと踊る
その子のダンスは
素敵に見えて




「ですよね」




と思ってしまった




今は劇団の形態も
だいぶ変わったと思うが

当時はまだ劇団創立者の
浅利先生が在団していて
全てが鶴の一声で動く時代

あっという間に
新人の子がファーストキャスト
私がセカンドキャストになった




その演目の稽古は
とにかく
きつかった記憶しかない



セリフを喋れば
一語一句ダメ出しされて

クビになりかけたかと思えば
翌日呼び戻されたり



大ベテランの先輩には

「浅利先生は
セリフが喋れてきたな
と思う俳優に
あえてああいう叱り方をする
がんばりなさい」

と励ましてもらったが



その演目の全国ツアー中
突然浅利先生は
劇団を退団された



名古屋の劇場の
リハーサル室で
俳優総会の録音を聞いて
事の顛末を知った私は



どこか現実の出来事と思えず
結局その事実を
受け入れられないまま
最後までふわふわとしていた



本当にあのダメ出しの嵐が
叱咤激励だったのか
今となっては知る由もない



今でもふと
あのまま先生が
在団していたら
私の事を認識してくれていたのか

もう少し違った
俳優人生になっていたのかと
考えるときがある

たられば論は
言ったって
しかたないのだけれど





話しを戻して

その全国ツアーが始まる
前日のゲネプロでも
私はセカンドキャストのままで

ファーストキャストが
全幕通したあとの

2回目の通し稽古に
出ることになった



ゲネプロやらせてもらえるだけ
ありがたいことだし

新人ちゃんに
すっかり降参していた私は
特に挽回してやろうみたいな
気概もまったくなく

とにかくやる事をやるだけ
という精神状態だったのが
なんだか良い感じに働いてしまって



とにかく身体が
めちゃくちゃ自由に動いて
めちゃんこ良い感じに
出来てしまったのである



したらば

余計なことに

明日の初日は
やっぱり
私が開幕キャストで出る

ってなっちゃって




ほんと
そういうの
もーーいーーからーーーー笑い泣き笑い泣き笑い泣き




って
ガタガタのメンタルで
迎えた初日





もう



信じられないくらい



回転という



回転で




失敗したよね魂が抜ける





役を降ろされは
しなかったけど

初日終わって
ドン叱られて

情けないのは
自分が一番分かってるけど
さらに落ち込んで




しかもその後
その初日
新人ちゃんのお母さん
チケット買って
観に来てたのも知っちゃって




色々申し訳なさすぎて
消えてしまいたかった





その後別の演目で
私の持ち役の人手が
足りなくなってしまったので

結局そのソロダンスがある役は
あんまり出演できずに
終わってしまった




世界フィギュアの
友野くんを観ていて



あの時の気持ちが



ブワァァァァァァァァ



って蘇ってきて



しばらく
泣いてしまった




自分が一番
どうしたらいいか
分からない

自分の身体が
自分の身体じゃ
なくなってしまう
あの恐怖感

何の恐れも知らず
立ち向かってくる若手と

手が届きそうなところで
すり抜けていく
「あっち側」の世界のはざまで



どうしたら
そっちに
行けるんだ


どうして
自分はこんなに
平凡なんだ


なにがそんなに
違うんだ



今まで
積み重ねてきたものが
サラサラと崩れて
その砂に埋もれていく



ほとんどの人が
這い上がれずに


人知れず



静かに静かに



埋もれていく






絶対に這い上がるんだ

もがき続けるだけでも
尊い

心身共に
メタメタになる世界



もちろん
それに勝る
喜びがあるから
やれるんだけどね



ここぞという場面で
決められる人

「あっち側」に
行ける人の方が





異常なんよ凝視





十分素晴らしいよ
記録より記憶だよ
私はあなたの表現が
大好きだよ



友野くんに
かけてあげたい言葉を
自分にも
かけてあげる



でも
人は記録で
人を見る



あーーーーー




つらい





うーーーーー





くやしいね





どれだけ

あなたは素敵だよ

って言ってくれる人がいて

嬉しくて

幸せで

報われた気持ちになっても






あのとき






くやしかったんだよね






くやしかったね





もっと出来るって

思ってたから





くやしかったんだ