《2024年5月25日》ー テレアポの笑いと恐怖 | aichanの双極性日記

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昨年、就職活動のためネットの求人情報を見ていて、「テレフォンアポインター」というのを見付け苦笑してしまった。

 

ずっと前、たぶん25年くらい前、私は千歳でその仕事をしたことがあるのだ。

 

そのころ私は喘息のせいでクビを切られて就職活動をしていて、ある広告代理店の求人に応募して採用されたことがある。

 

募集職種は「広告の提案」だった。

 

面接を受けたとき社長が相手をしてくれたのだが、私が職種の詳しい内容を聞いてもなぜか曖昧にしか答えてくれなかった。

 

ただ、「広告の提案」であることは間違いがないようだった。

 

シックリこない感覚を持ったものの、「広告の提案」なら私でもできそうに思い、翌日から出社した。

 

そして私は呆然とした。

 

朝礼が行われ、30人くらいの社員がデスクにつくと、みんな一斉に電話をかけはじめたのだ。

 

その喧噪たるや、耳を塞ぎたくなるほどのものだった。

 

面接のときもオフィスはたぶんそんな喧噪に包まれていたはずだよなと後で思ったが、緊張していたせいか面接のときはまったく気付かなかった。

 

「広告の提案」らしき仕事をしている社員は皆無で、みんなただひたすら電話をかけていた。

 

どういう電話かというと、簡単に言うと個人や会社に電話して「広告を出しませんか?」と営業するのである。

 

つまり、「広告の提案」というのは、求人誌でよく見かける「テレフォンアポインター」だったのだ。

 

「テレフォンアポインター」というのは、電話をかけまくって広告を取ったり商品を売る仕事だった。

 

求人誌で見る「職種」には「なんだこれ?」と思うようなものがたくさんある。

 

「テレフォンアポインター」もそのひとつだ。

 

「コミュニケーター」「アドバイザー」なんて内容の想像がつかない。

 

「デモンストレーター」「PRスタッフ」「顧客管理」などは、何となくわかるようなわからないような…。

 

「テレフォンアポインター」を含めてこれらはすべて「セールス」の仕事である。

 

ちなみに、「営業」という表示もすごく多いのだが、これはたぶん誰でも知っている通り「セールス」のことである。

 

お店が開いていれば「営業」中だしタクシーが流していても「営業」中と言うので、「営業」の2文字で「セールス」を表すのはちょっとした詐欺のようなものだ。

 

「セールス」の仕事は非常に大変なので、なり手があまりいない。

 

それで各企業は横文字や意味の曖昧な言葉を「職種」にして、とにかく人を掻き集めようと考えるのだろう。

 

しかし、セールスの仕事以外でも、横文字は氾濫している。

 

「クリーンヘルパー」なんてのがあった。

 

清掃の仕事だなとはすぐわかるが、何でこんな横文字をわざわざ考えないといかんのじゃと、オジサンとしてはちょっと腹が立ったのだ。

 

さて、「テレフォンアポインター」の話に戻る。

 

「広告の提案」が仕事だと信じて勇んで出社した私は出鼻をくじかれ、上司にうながされて早速「テレフォンアポインター」の仕事を始めた。

 

電話だけ置いてある机をひとつあてがわれ、朝から晩まで電話をかけまくった。

 

どこに電話するかは、電話帳の一部をコピーしたものを見てとにかく順番に次々とかけていくのだ。

 

私の担当区域は道東の厚岸(アッケシ)だった。

 

そんなところでどんな広告を取るのかというと、新聞の折り込みチラシに載せる広告だった。

 

その会社では道内各地のJR沿線の市町村の新聞に、毎月のようにJRの時刻表チラシを印刷して折り込んでいた。

 

その時刻表を飾る広告を取るのが私たちの仕事だったのである。

 

「どこが広告提案なんだ?」と腹が立ちながらも、私は電話をかけまくった。

 

しかし、ほぼ百パーセント相手にされなかった。

 

電話でこちらが名乗った時点で断られるのだ。

 

それでも、中には、少し話を聞いてくれる人もいた。

 

私は上司から「相手が出たらまずこう切り出せ」と教えられ、その通りにやっていたのだが、それがたまに効果を上げるのだ。

 

その方法とは、「私、北海道新聞の折り込みを担当している者ですが」という言葉を必ず最初に話す'''という簡単なものだった。

 

そう言えば、相手は私を北海道新聞の人間だとかなりの確率で思うのだ。

 

北海道新聞というのは北海道の地元紙である。

 

私は最初、この会社が北海道新聞のために広告を取る仕事をしているのかなと思った。

 

ところが違った。

 

この会社が印刷して新聞に折り込む時刻表チラシは北海道新聞とはまったく何の関係もなく、その会社が独自に勝手に折り込んでいるものだった。

 

「北海道新聞」をまず最初に言うのは、相手に北海道新聞の人間のようだと認識させ、すぐに電話を切られるのを防ぐためなのである。

 

まったく詐欺のようなものだが、これにコロリと騙されて私の話に耳を傾けてくれる人が、百人に電話をかけると2、3人いた。

 

そこから私が広告を載せてもらうべく、回らない舌を必死で回転させて説得にかかる。

 

これでほとんどの人は「そういう話なら断る」と言って電話を切るのだが、百人のうち1人くらいは「ほう」とか言って熱心に聞きつづけくれる奇特な人がいるのである。

 

そうなると実は大変なことが起きる。

 

電話をかけつづける私の様子を見守っている上司がいきなり立ち上がって私の机を挟んで向こう側に立ち、

 

「そこだッ! 引くなッ! それ、もう一息ーッ!」

 

とか叫び出すのだ。

 

それも、体を大きく使って、右に動いたり左に戻ったり腕を大きく振り回したりといった派手な動作をしながらである。

 

まるでプロ野球の三塁コーチが腕を大きく振り回しながら「回れ回れ」と叫ぶような感じだ。

 

その上司がタレントの出川くんにそっくりで、その動作も声も似ているので、私は電話をかけながらおかしくてならず、何度も笑いそうになった。

 

しかし上司は大真面目で私にアドバイスし、何とか私に広告を取らせようと必死になる。

 

「いいぞッ! そこで突っ込めッ! 泣き落とせッ! 間をおかずに何かしゃべれッ! そうだッ! それ行けーッ!」

 

物凄い大声なのだ。

 

電話の向こうの人にも聞こえたと思う。

 

それを知ってか知らずか、出川上司はますますヒートアップして私の眼前で踊りまくるように激しく動いては物凄いだみ声の大絶叫をつづける。

 

「仕事熱心な人なんだ」とは思ったが、いくら仕事とはいえ「よくまぁ、こんなバカみたいなことがやれるもんだ」と私は呆れていた。

 

そんなことが日に何度かあり、あとはただひたすら電話をかけては断られ、断れてはまた電話をかけてという繰り返しを続けているうちに、2日目が終わるころになって私は喘息の症状が出るようになってしまった。

 

10時間近くもしゃべり続けていればこれは当然である。

 

3日目には危険を感じた。

 

それでも頑張って何とかその日の営業を終えたが、私の喉は凄いヒリヒリ状態で、軽いながらも喘鳴が出ていて止まらなくなっていた。

 

それで事情を話して退職させてもらったのだが、辞めてよかったと思う。

 

あのまま勤めていたら喘息は確実に悪化したろうし、詐欺のような営業をしているという罪悪感で私はきっと潰れていたと思うからだ。

 

でも、そんな私の営業でも5人の人が広告を出すと言ってくれた。

 

その5人の方には今でも申しわけなく思っている。

 

あの仕事を思い出すたびに、その罪悪感と、あの出川上司の必死こいた身ぶり手ぶりの絶叫アドバイスが甦ってくる。

 

あの人は今でもあの会社で三塁コーチのように腕をぶん回して部下にハッパをかけたりアドバイスをしているだろうかと思うと、つい苦笑してしまう。

 

なお、これと同じ小文はブログ〈Zensoku Web〉にも載せている。

 

 

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