源氏物語イラスト訳【紅葉賀172】はしたなくや
「あまりはしたなくや」と思ひ返して、人に従へば、すこしはやりかなる戯れ言など言ひかはして、これもめづらしき心地ぞしたまふ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
「あまりはしたなくや」と思ひ返して、
訳)「あまりにそっけないのではないか」と思い直して、
人に従へば、
訳)源典侍に従って部屋に入ると、
すこしはやりかなる戯れ言など言ひかはして、
訳)少し軽薄な冗談などを言い交わして、
これもめづらしき心地ぞしたまふ。
訳)これも珍しい経験だという心持ちがしなさる。
【古文】
「あまりはしたなくや」と思ひ返して、人に従へば、すこしはやりかなる戯れ言など言ひかはして、これもめづらしき心地ぞしたまふ。
【訳】
「あまりにそっけないのではないか」と思い直して、源典侍に従って部屋に入ると、少し軽薄な冗談などを言い交わして、これも珍しい経験だという心持ちがしなさる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【あまり】…あまりにも
■【はしたなく】…ク活用形容詞「はしたなし」連用形
※【はしたなし】…そっけない。無愛想だ
■【や】…疑問の係助詞(結び「あらむ」の省略)
■【と】…引用の格助詞
■【思ひ返し】…サ行四段動詞「おもひかへす」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【人に従ふ】…人による。または、典侍に従って部屋に入る
■【已然形+ば】…順接確定条件の接続助詞
■【すこし】…少し
■【はやりかなる】…ナリ活用形容動詞「はやりかなり」連体形
※【はやりかなり】…軽薄だ。軽率だ
■【戯れ言(たはぶれごと)】…冗談
■【など】…例示の副助詞
■【言ひかはし】…サ行四段動詞「いひかはす」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【これ】…源典侍とのやりとり
■【も】…強意の係助詞
■【めづらしき】…シク活用形容詞「めづらし」連体形
■【心地(ここち)】…感じ。気持ち
■【ぞ】…強意の係助詞(結び「たまふ」)
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
文章を読んでいくときに、
逆接の接続詞などがあれば、
このあと、どう展開していくのかが、見えてきます。
前回、光源氏は、あまりのしつこい源典侍の和歌に辟易して、スルーしたいって気持ちバンバンでした。
けれども――
と、逆接展開になっているので、
このあと、どう展開していくのかが、なんとな~く、見えて来ますよね。
「人に従へば」の部分は、いろんな解釈ができます。
わたしがよく参考にさせてもらっています、渋谷栄一先生の『源氏釈』によると、
「人に従ふ」=相手による
として訳出されています。
もちろん、この考え方もあると思うのですが、
わたしは、このイラスト訳において、
「人に従ふ」=源典侍に従う
という解釈をさせていただきました。
「押し開けて来ませ」とあったので、
この人に従って、中に入ってみると…
すこし、軽~いジョークなんか言い合ったりして、
まあ、こうした流れも、また悪くないかなぁ…。
「めづらし」は、もちろん、「珍しい」という語義の古語ですが、平安時代では、プラスの文脈に用いられることも多いということも、知っておくと、源氏の心情も、見えてきますね。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。