源氏物語イラスト訳【紅葉賀182】ならひて
ならひて、いみじく心あわたたしきにも、「この君をいかにしきこえぬるか」とわびしさに、ふるふふるふ、つとひかへたり。「誰れと知られで出でなばや」と思せど、しどけなき姿にて、冠などうちゆがめて走らむうしろで思ふに、「いとをこなるべし」と、思しやすらふ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを、義兄の頭中将に気づかれ、密会中に乗り込まれてしまいます。
源氏物語イラスト訳
ならひて、いみじく心あわたたしきにも、
訳)慣れていて、ひどく気が動転している中でも、
「この君をいかにしきこえぬるか」とわびしさに、
訳)「源氏の君をどのようにし申し上げてしまうのか」とつらくて、
ふるふふるふ、つとひかへたり。
訳)震えながら、じっと取りすがっていた。
【古文】
ならひて、いみじく心あわたたしきにも、「この君をいかにしきこえぬるか」とわびしさに、ふるふふるふ、つとひかへたり。
【訳】
慣れていて、ひどく気が動転している中でも、「源氏の君をどのようにし申し上げてしまうのか」とつらくて、震えながら、じっと取りすがっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【ならふ】…慣れる
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いみじく】…ひどく
■【心あわたたし】…気が動転する
■【に】…状態の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【この君】…源氏の君
■【を】…対象の格助詞
■【いかに】…どのように
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【きこえ】…ヤ行下二段動詞「きこゆ」連用形
※【きこゆ】…謙譲の補助動詞(源典侍⇒光源氏)
■【ぬる】…完了の助動詞「ぬ」連体形
■【か】…疑問の係助詞(文末用法)
■【と】…引用の格助詞
■【わびし】…つらい。やるせない
■【に】…状態の格助詞
■【ふるふふるふ】…震えながら
■【つと】…じっと
■【ひかへ】…ハ行下二段動詞「ひかふ」連用形
※【ひかふ(控ふ)】…そば近くにいる。袖をひっぱる
■【たり】…完了の助動詞「たり」終止形
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情人とアバンチュールの最中に、
付き合っている恋人が訪ねて来たとき、
あなたはどうしますか?
いやまあ、…こんな経験は、現代ではあんまりないかもしれませんが、
近年GPSなども発達し、浮気現場も押さえられる状況が増えてくるかもしれませんよね。
源典侍は、以前にもこういうことがあったので、
もの慣れてはいたのですが、
「ふるふふるふ、つとひかへたり」という態度を選択しています。
以前、浮気現場を押さえられたときは、
恋人が逆上して、何やら危険な状況になってしまったのでしょうか?
「この君をいかにしきこえぬるか」と危惧していることから、以前の浮気のときは、自分が怒られたのではなく、浮気相手にその矛先が向いたんだと思います。
このように、『源氏物語』を読むと、いろんなタイプの女性が、いろんな状況下で、その性格に合わせた行動をとっているので、行動心理学の参考にもなり、ほんとに面白いなって思います。
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