源氏物語イラスト訳【紅葉賀133】誰ならむ
「誰ならむ。いとめざましきことにもあるかな」
「今までその人とも聞こえず、さやうにまつはしたはぶれなどすらむは、あてやかに心にくき人にはあらじ」
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は離宮に下がり、光源氏との不義密通の御子を出産しました。四月になり、藤壺宮と御子が宮中に戻りました。源氏は罪悪感に苛まれながらも、紫の君のいる二条院で時を過ごしています。
源氏物語イラスト訳
「誰ならむ。いとめざましきことにもあるかな」
訳)「誰であるのだろう。とても目に余ることであるなぁ」
「今までその人とも聞こえず、
訳)「今まで誰それとも噂されず、
さやうにまつはしたはぶれなどすらむは、
訳)そのように付きまとって遊び興じたりするような人は、
あてやかに心にくき人にはあらじ」
訳)上品で奥ゆかしい人ではあるまい」
【古文】
「誰ならむ。いとめざましきことにもあるかな」
「今までその人とも聞こえず、さやうにまつはしたはぶれなどすらむは、あてやかに心にくき人にはあらじ」
【訳】
「誰であるのだろう。とても目に余ることであるなぁ」
「今まで誰それとも噂されず、そのように付きまとって遊び興じたりするような人は、上品で奥ゆかしい人ではあるまい」
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■【誰(たれ)】…だれ。ここでは、源氏が二条院に囲っている女人が誰なのかということ
■【なら】…断定の助動詞「なり」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【いと】…とても
■【めざましき】…シク活用形容詞「めざまし」連体形
※【めざまし】…目に余る。気にくわない
■【に】…断定の助動詞「なり」連用形
■【も】…強意の係助詞
■【ある】…ラ変動詞「あり」連体形
■【かな】…詠嘆の終助詞
■【その人】…だれそれ
■【と】…引用の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【聞こえ】…ヤ行下二段動詞「きこゆ」未然形
※【聞こゆ】…うわさされる。評判になる。世間に聞こえる
■【ず】…打消の助動詞「ず」連用形
■【さやうに】…ナリ活用形容動詞「さやうなり」連用形
※【さやうなり】…そのようだ
■【まつはす】…つきまとう
■【たはぶれ】…ラ行下二段動詞「戯る」連用形
※【戯(たはぶ)る】…遊び興じる
■【など】…例示の副助詞
■【す】…サ変動詞「す」終止形
■【らむ】…婉曲の助動詞「らむ」連体形(準体法)
■【は】…取り立ての係助詞
■【あてやかに】…ナリ活用形容動詞「あてやかなり」連用形
※【あてやかなり】…上品だ
■【心にくき】…ク活用形容詞「心にくし」連体形
※【こころにくし】…奥ゆかしい
■【に】…断定の助動詞「なり」連用形
■【は】…取り立ての係助詞
■【あら】…ラ変動詞「あり」未然形
■【じ】…打消推量の助動詞「じ」終止形
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「誰ならむ。いとめざましきことにもあるかな」
「今までその人とも聞こえず、さやうにまつはしたはぶれなどすらむは、あてやかに心にくき人にはあらじ」
【問】 傍線部のように女房が言う理由として最も適当なものを選べ。
1.昔からこの女人が誰かも分からないうえに、今回のように、源氏に対して嫌がらせをしたりするような卑劣極まりない女人のようであるから。
2.今まで自分が誰かということも明らかにしようとしなかったうえに、今回のように、源氏のことを独り占めにして離そうとしない女人であるから。
3.昔からこの女人の悪評を聞いたことがないうえに、今回のように、源氏が彼女のそばにまとわりついて離れようとしないほどの女人であるから。
4.源氏の元へ誰かが嫁いだという噂も聞かないうえに、今回のように、源氏の外出を引き止めたりするような、無分別な女人のようであるから。
5.今まで美しいという噂はまったく聞いたことがないうえに、今回のように、悪ふざけして源氏の悪評を流したりするような女人であるから。
傍線部の理由が問われたときは、
まず、直前の状況を押さえます。
今回は、この女房の、傍線部のように言った理由なので、彼女の傍線部より前の発言内容に着目しましょう。
「聞こえ(きこゆ)」は、敬語にもなる多義語です。
⑴ 聞こえる
⑵ 噂される。評判になる
⑶ 理解できる
⑷ 思われる
⑸ 申し上げる(「言ふ」の謙譲語)
と、さまざまな意味がありますが、
ここでは、傍線部につながる根拠として、
⑵の「噂になる、評判になる」の意味で捉えましょう!
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
答え…【4】