源氏物語イラスト訳【紅葉賀80】中将の君
中将君は、いとど思ひあはせて、御修法など、さとはなくて所々にせさせたまふ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。朱雀院行幸で、源氏は美しい「青海波」の舞を披露し、昇進しました。一方、藤壺宮は離宮に下がり、出産の時を迎えようとしています。
源氏物語イラスト訳
中将君は、いとど思ひあはせて、
訳)中将の君は、ますます思い当たって、
御修法など、さとはなくて
訳)御祈禱などを、それとは知らせずに
所々にせさせたまふ。
訳)あちこちの寺々にさせなさる。
【古文】
中将君は、いとど思ひあはせて、御修法など、さとはなくて所々にせさせたまふ。
【訳】
源氏中将の君は、ますます思い当たって、御祈禱などを、それとは知らせずにあちこちの寺々にさせなさる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【中将君】…光源氏。当時は近衛中将であった
■【は】…取り立ての係助詞
■【いとど】…ますます
■【思ひあはす】…思い当たる。合点がいく
■【て】…単純接続の接続助詞
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒神仏)
■【修法(しゅほふ)】…密教で、加持祈禱をすること
■【など】…例示の副助詞
■【さ】…それ。そのよう
■【と】…引用の格助詞
■【は】…取り立ての係助詞
■【なく】…ク活用形容詞「なし」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【所々】…あちこちの寺々
■【に】…場所の格助詞
■【せ】…サ変動詞「す」未然形
■【させ】…使役の助動詞「さす」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【大学入試予想:マーク問題】
中将君は、いとど思ひあはせて、御修法など、さとはなくて所々にせさせたまふ。
【問】 傍線部の説明として最も適当なものを選べ。
1.「させ」も「たまふ」も尊敬語で、ここはぬ重刑語だね。中将君は、けっこう身分の高い人物なのがわかるよ。
2.あれ。中将君は、藤壺の女房じゃなかった? ここは、単純接続だけど、「御修法」から主語が変わって、仏神に対する敬意表現だよ。
3.「させ」は使役なんじゃない?「寺々に修法などをさせる」という意味で捉えたほうが、文意はスムーズにつながるよ。
4.じゃあ、「たまふ」のみ尊敬語ってことか。中将君は、「中将」ってあることから、けっこう身分が高い人物なんだね。
5.当時は「君」とついたら、公卿クラスの人物をさしていたんだ。この中将君は、三位以上の人物ではないかと思われるよ。
【させたまふ】の解釈は2つあります。
「させ」が尊敬の場合と、使役の場合です。
ちなみにここは、どう考えても、「中将君」が主語ですよね。「中将君」とは、たんなる女房名で、特に身分が高いわけではありません。ではなぜ、ここで敬語「たまふ」が使われているのでしょうか…?
おそらく、自然なつながりとして「中将君」が主語ですが、女房である中将の君が加持祈禱を寺院に頼むとしたら、それは主人である藤壺宮の存在が念頭に置かれますよね。ここは、「藤壺の命令によって~させなさる」というのが、常識的に想定されるため、ラストに「たまふ」という尊敬語が置かれたのではないでしょうか。
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
答え…【3】