源氏物語イラスト訳【紅葉賀81】藤壺出産
「世の中の定めなきにつけても、かくはかなくてや止みなむ」と、取り集めて嘆きたまふに、二月十余日のほどに、男御子生まれたまひぬれば、名残なく、内裏にも宮人も喜びきこえたまふ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。朱雀院行幸で、源氏は美しい「青海波」の舞を披露し、昇進しました。一方、藤壺宮は離宮に下がり、出産の時を迎えようとしています。
源氏物語イラスト訳
「世の中の定めなきにつけても、かくはかなくてや止みなむ」
訳)「世の無常につけても、このようにはかなく 終わってしまうのだろうか」
と、取り集めて嘆きたまふに、
訳)と、あれやこれやと一緒にして嘆きなさるうちに、
二月十余日のほどに、男御子生まれたまひぬれば、
訳)二月十日過ぎ のころに、男御子がお生まれなさったので、
名残なく、内裏にも宮人も喜びきこえたまふ。
訳)すっかり心配も消えて、宮中でも宮家の人々もお喜び申し上げなさる。
【古文】
「世の中の定めなきにつけても、かくはかなくてや止みなむ」と、取り集めて嘆きたまふに、二月十余日のほどに、男御子生まれたまひぬれば、名残なく、内裏にも宮人も喜びきこえたまふ。
【訳】
「世の無常につけても、このようにはかなく 終わってしまうのだろうか」と、あれやこれやと一緒にして嘆きなさるうちに、二月十日過ぎ のころに、男御子がお生まれなさったので、すっかり心配も消えて、宮中でも宮家の人々もお喜び申し上げなさる。
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■【世の中】…この世。世間
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【定めなき】…無常
■【に】…対象の格助詞
■【つけ】…カ行下二段動詞「つく」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【も】…強意の係助詞
■【かく】…このように
■【はかなく】…ク活用形容詞「はかなし」連用形
※【はかなし】…はかない。取るに足りない
■【て】…単純接続の接続助詞
■【や】…疑問の係助詞(結び;「む」)
■【止(や)み】…マ行四段動詞「やむ」連用形
※【止む】…終わる
■【な】…強意の助動詞「ぬ」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【取り集め】…マ行下二段動詞「取り集む」連用形
※【取り集む】…あれやこれやと一緒にする
■【て】…単純接続の接続助詞
■【嘆く】…なげく。悲しむ
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【に】…時の格助詞
■【二月(きさらぎ)】…旧暦二月
■【―余】…~過ぎ
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【ほど】…ころ
■【に】…時の格助詞
■【男御子(おのこみこ)】…藤壺の御子。実際は光源氏が父親
■【生ま】…マ行四段動詞「生む」未然形
■【れ】…受身の助動詞「る」連用形
■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒御子)
■【ぬれ】…完了の助動詞「ぬ」已然形
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【名残なく】…ク活用形容詞「名残なし」連用形
※【名残(なごり)なし】…すっかり気が晴れた。未練がない
■【内裏(うち)】…宮中。帝
■【に】…場所(対象)の格助詞
■【宮人(みやびと)】…宮家の人々
■【も】…列挙の係助詞
■【喜び】…バ行四段動詞「よろこぶ」連用形
■【きこえ】…ヤ行下二段動詞「きこゆ」連用形
※【きこゆ】…謙譲の補助動詞(作者⇒御子)
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒帝・宮人)
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【大学入試予想:マーク問題】
「世の中の定めなきにつけても、かくはかなくてや止みなむ」と、取り集めて嘆きたまふに、二月十余日のほどに、男御子生まれたまひぬれば、名残なく、内裏にも宮人も喜びきこえたまふ。
【問】 傍線部「なむ」と同じ用法のものを1つ選べ。
1.かばかりになりては、飛び降るるとも降りなん。
(徒然草)
2.はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、
(伊勢物語)
3.かかる仰せごとにつけても、かきくらす乱り心地になむ。(源氏物語)
4.長くとも四十に足らぬほどにて死なむこそめやすかるべけれ。(徒然草)
5.風も吹きぬべし』と騒げば、船に乗りなむとす。
(土佐日記)
【「なむ」の識別】は、大学入試頻出の文法事項です。
基本的に、直前の接続で見分けられますが、
今回の選択肢2の用に、上二段・下二段活用の場合は、未然形・連用形が同じ活用なので、文脈的な見分けが必要になります。
また、選択肢1・5のように、同じ「確述用法(連用形+な+む)でも、選択肢が2つあるときは、「どちらがより傍線部の文法的意味に近いか」を、相対的に見抜くことが求められます。
「む」は、スイカカエテと多義的な意味があるので、今回どの意味になるかを考えてみてください。
ちなみに傍線部は、疑問の係助詞「や」があるため、この「む」は推量ですね。
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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答え…【1】