源氏物語イラスト訳【紅葉賀65】葵の嫉妬
「わざと人据ゑて、かしづきたまふ」と聞きたまひしよりは、「やむごとなく思し定めたることにこそは」と、心のみ置かれて、いとど疎く恥づかしく思さるべし。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。朱雀院行幸で、源氏は美しい「青海波」の舞を披露し、昇進しました。藤壺宮が里下がりしたので、源氏は心乱れつつも、左大臣邸へ顔を出します。
源氏物語イラスト訳
「わざと人据ゑて、かしづきたまふ」と聞きたまひしよりは、
訳)「わざわざ女人を側に置いて、大切に扱っていらっしゃる」と、聞きなさったそれからは、
「やむごとなく思し定めたることにこそは」と、心のみ置かれて、
訳)「この上ない女人とお考えになったことであろう」と、気にしてばかりせずにいられなくて、
いとど疎く恥づかしく思さるべし。
訳)ますますよそよそしく気づまりにお思いにならずにいられないに違いない。
【古文】
「わざと人据ゑて、かしづきたまふ」と聞きたまひしよりは、「やむごとなく思し定めたることにこそは」と、心のみ置かれて、いとど疎く恥づかしく思さるべし。
【訳】
「わざわざ女人を側に置いて、大切に扱っていらっしゃる」と、聞きなさったそれからは、「この上ない女人とお考えになったことであろう」と、気にしてばかりせずにいられなくて、ますますよそよそしく気づまりにお思いにならずにいられないに違いない。
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■【わざと】…わざわざ。取り立てて
■【人】…女人。ここでは、二条院に若紫を囲ったこと
■【据ゑ】…ワ行下二段動詞「据う」連用形
※【据う】…そばに置く
■【て】…単純接続の接続助詞
■【かしづく】…大事に面倒を見る。後見する。大切に扱う
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【と】…引用の格助詞
■【聞き】…カ行四段動詞「聞く」連用形
■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒葵上)
■【し】…過去の助動詞「き」連体形
■【より】…起点の格助詞
■【は】…取り立ての係助詞
■【やむごとなく】…ク活用形容詞「やむごとなし」連用形
※【やむごとなし】…この上ない
■【思し定め】…マ行下二段動詞「おぼしさだむ」連用形
※【思ひ定む】…よく考えて決める
※【おぼす】…「思ふ」の尊敬語(葵上⇒光源氏)
■【たる】…完了の助動詞「たり」連体形
■【に】…断定の助動詞「なり」連用形
■【こそ】…強意の係助詞(結び「あらめ」の省略)
■【は】…強意の係助詞
■【と】…引用の格助詞
■【心置く】…気にかける
■【のみ】…強意の副助詞
■【れ】…自発の助動詞「る」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いとど】…ますます
■【疎く】…ク活用形容詞「うとし」連用形
※【うとし】…よそよそしい
■【恥づかしく】…シク活用形容詞「恥づかし」連用形
※【恥づかし】…気詰まりだ。気恥ずかしい
■【思さ】…サ行四段動詞「おぼす」未然形
※【おぼす】…「思ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
■【る】…自発の助動詞「る」終止形
■【べし】…推量の助動詞「べし」終止形
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【大学入試予想:マーク問題】
「わざと人据ゑて、かしづきたまふ」と聞きたまひしよりは、「やむごとなく思し定めたることにこそは」と、心のみ置かれて、いとど疎く恥づかしく思さるべし。
【問】 傍線部の理由として最も適当なものを選べ。
1.葵上は、源氏が自分にうちとけてくれないことを感じ取り、さらに別の恋人ができたのではないかと思ったから。
2.葵上は、源氏が二条院に女人を囲ったことを聞き、自分よりも大切な人ができたのだと不安にかられたから。
3.葵上は、源氏の美しさに魅力を感じ、正妻として源氏に見合わない自身の美貌に引け目を感じていたから。
4.葵上は、源氏に新たな恋人ができたことに嫉妬を覚え、なんとか自分のほうに振り向いてほしいと切望したから。
5.葵上は、父の権力で源氏を手に入れていることに罪悪を感じ、いずれ捨てられてしまうと焦燥に駆られたから。
【理由説明問題】は、直前の状況理解が重要です。今回のように心中会話文があれば、その内容がおそらく解答になると思って、しっかり口語訳していきましょう。
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
答え…【2】