源氏イラスト訳【若紫336】迎ふ
大夫も、「いかなることにかあらむ」と、心得がたう思ふ。
参りて、ありさまなど聞こえければ、あはれに思しやらるれど、さて通ひたまはむも、さすがにすずろなる心地して、「軽々しうもてひがめたると、人もや漏り聞かむ」など、つつましければ、「ただ迎へてむ」と思す。
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【源氏物語イラスト訳】
「軽々しうもてひがめたると、人もや漏り聞かむ」
訳)「軽率にも風変わりなことをしていると、世間の人もそれとなく聞くかも知れない だろう」
など、つつましければ、
訳)などと、遠慮されるので、
「ただ迎へてむ」と思す。
訳)「いっそ迎えてしまおう」とお考えになる。
【古文】
「軽々しうもてひがめたると、人もや漏り聞かむ」など、つつましければ、「ただ迎へてむ」と思す。
【訳】
「軽率にも風変わりなことをしていると、世間の人もそれとなく聞くかも知れない だろう」などと、遠慮されるので、「いっそ迎えてしまおう」とお考えになる。
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■【軽々しう】…シク活用形容詞「軽々し」連用形ウ音便
■【もて―】…語調をととのえる接頭語
■【ひがめ】…マ行下二段動詞「ひがむ」連用形
※【ひがむ】…ゆがめる。風変わりなことをする
■【たる】…存続の助動詞「たり」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【人】…世間の人々
■【もや】…~かもしれない
※【も】…強意の係助詞
※【や】…疑問の係助詞
■【漏り聞く】…それとなく聞く
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【など】…引用の副助詞
■【つつましけれ】…シク活用形容詞「つつまし」已然形
※【つつまし】…遠慮される
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【ただ】…ただひたすら。いっそのこと
■【迎へ】…ハ行下二段動詞「迎ふ」連用形
■【て】…強意の助動詞「つ」未然形
■【む】…意志の助動詞「む」終止形
■【と】…引用の格助詞
■【思(おぼ)す】…「思ふ」の尊敬(作者⇒光源氏)
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「迎ふ」というのは、
妾(めかけ)として、女を自分の手元に「据え置く」という意味です。
当時の結婚形態は、
妻の元に男が通っていく「通い婚」が主流でしたが、
こうして、自邸へ「迎え入れる」事実上の結婚形態もありました。
現在の感覚でいうなら、
後者のほうが、格の高いようにも思うのですが、
実は、平安当時は、
「通い婚」のほうが、礼儀にかなった、正式な結婚形態だったのです。
光源氏は、若紫を、正式な結婚相手とは考えておらず、
事実上の「妾」として、囲いたかったようですね。