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前文
なぜ海外の写真が多いのか?
今でこそ携帯で誰でも自由に写真を撮れる様になったが。
デビューしたばかりのころ、新しいレンズを買うたび、
私は近所へ光の試し撮りに出た。
すると、町は風景を返すより早く、猜疑の影をこちらへ投げた。
ある日など、パトカーが2、3台押し寄せ、警察は令状もなく
玄関を越えようとし、私は狭い敷居の上で、かろうじて
自分の沈黙を守った。そういうことが幾度か重なるうち、
国内の街路は次第に曇り、私の写真だけが海を渡った。
異国の空は遠かったが、特にヨーロッパの人の眼差しは
日本より幾分やわらかかった。
『雨のマテーラ』
マテーラはイタリア南部の洞窟住居群で知られる古都です。
そして、雨の気配が長く続く季節には、
こういう湿り気を帯びたブログがよく似合う。
ちょっと前の事である、
マテーラの街角に立つと、石灰の町は
白亜というより、曇天の下ではむしろ
古い骨の色をして、静かに乾いた歳月を積み上げている。
空はまだ沈黙を守ってゐながら、遠い丘の教会の
かなたから黒い雲が徐々に押し寄せて来てゐた。
石の家々は乾いた光をわづかに宿しつつも、
すでにその色の底に薄い翳りを含み、ほどなく来る
ものの気配を静かに受け入れてゐるやうであつた。

路地は狭く、壁は古く、しかもその古びやうは衰へではなく、
永い歳月に磨かれた気品のやうに見える。
私はその角に立ちながら、晴れと雨との境が、
かうもひそやかに町を包んでゆくのを眺めてゐた。
そして次の日、雨はためらふことなく降り出した。
昨日まで空の奥にとどまつてゐた灰色は、
今や街の上へ低く垂れこめ、石畳もしつとりと濡れ、
白い町並みはいつさう深い陰影を帯びた。
その静かな画面の中央に、ただ一台、紅い車が走り抜けていく。

ささやかなその紅が、雨に沈む景色のなかで
不意に人の世のぬくみを思はせ、
古い石の都にひとしづくの
現在を灯してゐるやうである。
雨は町を曇らせるのでなく、むしろその輪郭を
やはらかに浮かび上がらせる。
マテーラの雨景は、寂しさのうちに
ほのかな艶をひそませ、旅人の胸に静かな余韻を残した。
しかしその後は、雨脚のために、
ほとんどの写真があえなく焦点を失った。
旅には惜しまず金を費やしながら、
撮影機材の新陳代謝が疎かであった。
帰国してから私は、雨に強いレンズを探し、買い求めた。
今にして思えば、あのぼやけた失敗もまた、
旅の記憶そのものには似つかわしいかも知れない。
明晰に捉え得なかったからこそ、雨のマテーラは、
なおさら仄暗く、美しく、心の底に残っている。
最後までご覧頂きありがとう。
今日が良い日となり、
明日がさらに素晴らしい日となりますように
。
インスタフォロー宜しくお願いします↓↓↓
https://www.instagram.com/naoo_kumagai/
撮影 文 熊谷


前文
なぜ海外の写真が多いのか?
今でこそ携帯で誰でも自由に写真を撮れる様になったが。
デビューしたばかりのころ、新しいレンズを買うたび、
私は近所へ光の試し撮りに出た。
すると、町は風景を返すより早く、猜疑の影をこちらへ投げた。
ある日など、パトカーが2、3台押し寄せ、警察は令状もなく
玄関を越えようとし、私は狭い敷居の上で、かろうじて
自分の沈黙を守った。そういうことが幾度か重なるうち、
国内の街路は次第に曇り、私の写真だけが海を渡った。
異国の空は遠かったが、特にヨーロッパの人の眼差しは
日本より幾分やわらかかった。
『雨のマテーラ』
マテーラはイタリア南部の洞窟住居群で知られる古都です。
そして、雨の気配が長く続く季節には、
こういう湿り気を帯びたブログがよく似合う。
ちょっと前の事である、
マテーラの街角に立つと、石灰の町は
白亜というより、曇天の下ではむしろ
古い骨の色をして、静かに乾いた歳月を積み上げている。
空はまだ沈黙を守ってゐながら、遠い丘の教会の
かなたから黒い雲が徐々に押し寄せて来てゐた。
石の家々は乾いた光をわづかに宿しつつも、
すでにその色の底に薄い翳りを含み、ほどなく来る
ものの気配を静かに受け入れてゐるやうであつた。

路地は狭く、壁は古く、しかもその古びやうは衰へではなく、
永い歳月に磨かれた気品のやうに見える。
私はその角に立ちながら、晴れと雨との境が、
かうもひそやかに町を包んでゆくのを眺めてゐた。
そして次の日、雨はためらふことなく降り出した。
昨日まで空の奥にとどまつてゐた灰色は、
今や街の上へ低く垂れこめ、石畳もしつとりと濡れ、
白い町並みはいつさう深い陰影を帯びた。
その静かな画面の中央に、ただ一台、紅い車が走り抜けていく。

ささやかなその紅が、雨に沈む景色のなかで
不意に人の世のぬくみを思はせ、
古い石の都にひとしづくの
現在を灯してゐるやうである。
雨は町を曇らせるのでなく、むしろその輪郭を
やはらかに浮かび上がらせる。
マテーラの雨景は、寂しさのうちに
ほのかな艶をひそませ、旅人の胸に静かな余韻を残した。
しかしその後は、雨脚のために、
ほとんどの写真があえなく焦点を失った。
旅には惜しまず金を費やしながら、
撮影機材の新陳代謝が疎かであった。
帰国してから私は、雨に強いレンズを探し、買い求めた。
今にして思えば、あのぼやけた失敗もまた、
旅の記憶そのものには似つかわしいかも知れない。
明晰に捉え得なかったからこそ、雨のマテーラは、
なおさら仄暗く、美しく、心の底に残っている。
最後までご覧頂きありがとう。
今日が良い日となり、
明日がさらに素晴らしい日となりますように
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撮影 文 熊谷



















































