『リベリオン』に引き続き、人間食べ食べカエルさんの観たい映画を映画館で観よう企画、第3弾ということで観てきました。

 

 

 近畿地方では大阪のテアトル梅田で上映あったんですが、ちょっと東京に行く用事があったついでに千葉県柏市にあるキネマ旬報シアターにて鑑賞。2009年のではなく、1980年のカナダ映画です。

 

 なんかいぶし銀というか、どっしり感あって大変面白かったです。

 主人公は交通事故で妻子を亡くしたばかりの初老の作曲家。喪失感を抱えつつも前に進むために、シアトルに居を移し音楽大学で教鞭をとることに。そこで歴史保存協会から借り受けた屋敷の様子がどうにもおかしいというところからじわりじわりとホラーになってきます。

 で、ホラー映画なんですが、主人公があまりに落ち着いていて、恐怖では取り乱さないので、意外とあんまり怖くなかったかな笑。それでもラップ音やBGMや効果音がめためたに不穏で、そこら辺はしっかり怖い。主人公が作曲家ということで、ピアノを弾くんですが、それがまたきれいだし、そこからの不穏な響きがが良くて。これは音響の良い映画館で観る機会が得られたのは本当に良かったな~。

 さて、やたらと落ち着いたいぶし銀主人公のジョンですが、二日続けて早朝尋常でない物音で目覚めたところでボイラーなどの配管をチェック、問題ないことを確認すると、ひとまずそのままに。その後屋敷内の水道が、ジョンを屋根裏に誘うかのように、キッチン、2階のバスルームと順番に開いたり閉じたりするに至り、屋敷を借りる仲介をしてくれた歴史保存協会のクレアに相談。協会に保存されている記録を探り始めます。この時点で、恐怖に取り乱したりはほとんど見せないんだけど、人でない何ものかがジョンに何かを訴えようとしているというのは当たり前のように受け入れているんですよね。少し不思議な設定です。

 その後協会の記録以外にもいろんな調べ物をするんですが、図書館で信頼できる新聞のマイクロフィルムを閲覧、どこかの記録保管庫で古い地図を年代順に閲覧し、探しているポイントの現状を確認、となんというかちゃんとしている……! 霊能者を探すにしても、まずは科学的に調査をしていそうな研究機関を訪問し紹介してもらうとかで、なんかそういう手順が正統派なんですよね。出典のよくわからないオカルトサイトとか、たまたま町の通りの隅で雑貨店を兼ねている占い師とかじゃなくて、なんかこうとてもかっちりしている印象。

 音楽家って、出版されている楽譜に疑問点があったりすると、自筆譜をコピーした本(ファクシミリ版)にあたることがあると聞いたことがあるんですが、主人公の作曲家兼音楽大学教授という設定が、こういう調べ物の描写に活きているのかなぁと思いました。相棒となるクレア(歴史保存協会の職員)も、多分本業に記録の整理・保管が含まれるんだろうしなぁ。とにかく信頼できる資料や原典にあたるという、当たり前ではあるんだけどそれがちゃんと見てわかるっていう状態(図書館とか記録室とか研究所とか)であるのが、ちょっと新鮮に映ったかな。

 そんなこんなで、屋敷にいる何ものかとコンタクトも取りつつ、資料も手繰って屋敷に隠された謎を紐解くのでした。この辺は結構ミステリぽさある。それが、最初の方にちらっと出てきただけかと思われた人物に結びつくのですんごいよくできてるな!と思ったのでした。

 タイトルである「チェンジリング」とは「取り替え子」ともいい、妖精によってさらわれた子供や、その子の身代わりに置いて行かれた妖精の子供という意味ですが、本作での意味が判明した時のカタルシスがすごい。この辺は本当にミステリ作品を鑑賞している感覚。

 ホラー映画的な描写としては、霊能者を呼んでの降霊会のシーンが良かったな。ウィジャボードではなく、自動書記なのが面白かった。鉛筆が紙を擦る音が緊張感を煽る。ジョンはその模様を手持ちの録音機器(音楽家として使用しているもの、多分とても高機能)で録音するんですが、その再生の様子もま~~~怖い。でもなぜかそれを一人で聴くんですよこのいぶし銀は。怖いものないんか。そしてジョンも相棒のように活動するクレアも、取り乱す原因が、恐怖というよりもそこで判明した、事の真相の方にあるというのが、また面白いというか。聞こえていなかったものが録音されていること自体にはあんまり動じていないように思われるんですよね……。なんか面白い設定だったなぁ。

 なお霊がキレると主人公もキレ返すのでちょっと面白かった。どうもチャンネルさえちゃんとすれば対等に渡り合える関係だと思っている感じ。

 

 本作はアメリカの上流階級の人々が主な登場人物で、1980年当時だと落ち着いていて気品があり、教養深い人々として描かれていますが、時代が下り世代が重なると『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』のドラ息子(クリス・エヴァンス)や『エスター ファースト・キル』のドラ息子が発生するのかと思うと趣深い。いやまあ1980年にだっていたのかもしれないけど、描かれ方がずいぶん違うなぁ、と思ったりしました。そういう点でも大変面白かったです。

 

 さて、キネ旬シアターでの上映では、上映後に本企画を担当している方と、本作のブルーレイを出しているキングレコードの方の対談がありまして、そこで本作はJホラーの人たちがよく影響を受けた作品として挙げるというような話をしていました。『リング』っぽいなと思ったんだよな~。一緒に行った人は『呪怨』を思い浮かべたとのこと。

 対談後は本作のブルーレイディスクを賭けたじゃんけん大会。なんと人間食べ食べカエルさんのサイン付きだったそうです。入場者特典でもらったペーパーにもサインついてたな。食べちゃうよ、ってかわいかった。

 

 いつもつけてる映画.comの作品ページへのリンクですが、本作では解説がミステリパートのネタバレになっている気がしたのでリンクしません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エスターもチェンジリングと言えなくもないかも。ファースト・キル面白かったです。

 

 あと出だしが家族を事故で失うというところで、例によってまた心霊ドクターその時感じたもやもやを思い起こしてしまったけど、本作では妻子の死はある程度乗り越えた体で始まっているし、思わせぶりに娘の霊が出てきたりもしないのであんまり気にならなかったな。本作も人ならざるものと共鳴していしまう原因としてのみ妻子とその死があるような形ではあるんですけど、そこはもう完全に屋敷で起こる事件とは切り離されていて、妙に大切ぶったりもしないのでよかったのかな。むしろ悲嘆に暮れているところをラップ音に邪魔されて主人公の気が悲しみから逸れていた感じはありました。心霊ドクターの方は、当初娘の死に対して自責の念に駆られていたのがだんだん自分の欠落した記憶に焦点が移ってしまって、娘の死よりも自分の記憶とその時の惨事が重要になり、完全に別物であるそちらを解決したことでなぜか娘の死をも乗り越えた感じになっちゃってたからな……物事はちゃんと分けよう……。

 とにかく『チェンジリング』は、脚本がよくできていたなぁと思ったのでした。面白かったな~。