手塚/松本/石森と『2001年宇宙の旅』【臨時】 | アディクトリポート

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今回も

『2001年宇宙の旅』IMAX

鑑賞にちなんだ話。
 
IMAX版の感想を述べておくと、
画質は高精細ではなく、
メカのディテールは不鮮明。
 
色調は黄ばんで階調がつぶれ気味で、
デジタルMPX(シネコン)方式=2Kでもつらいので、
レーザー4K(109シネマズ大阪エキスポシティ)でもダメそう。
ekisupo
 
ここいらへんは、
2018年10月6日から14日まで国内で唯一70mmフィルムの上映が可能な国立映画アーカイブにて6日間全12回の上映が行われた、
"Unrestored(非修復)Version"と呼ばれる、70㎜ニュープリント版の方が画質も色調も良かったらしい。
 
なにせ、
自作で65mmフィルムを使い続けるクリストファー・ノーランとホイテ・ヴァン・ホイテマが製作50周年となる2018年本作の4K修復を監修し、
数々の修繕を受けながらソフト化に用いられて来たアーカイヴ用フィルムではなく、
オリジナル・ネガまで遡ったニュープリントで、デジタル補正を一切使用せず、初演時と同様の6ch音声や前奏曲、インターミッション、終演時の音楽まで再現されたバージョンだけに。
 
こんなの、
全然知らなかったが、
国立映画アーカイブについてのみ、

またしてもの「プチよげんの書」といえるだろう。

yogenn

 
負け惜しみではないが、
映像でノーラン版70mmに見劣りしても、
さすがにIMAXの大画面で、
これまで4回映画館で観て、
DVDやテレビでも気づかなかったことに気づいた。
 
  • フロントプロジェクションの強烈な光を受けて
  • ヒョウの目が光っているのはもちろん、バクまでが鈍い眼光を放っている。
  • 無重力トイレは有名なシーンの前に、月着陸船アリエス号のキャビン全景の奥の方に見えていた。

 
IMAX版が勝るのは音響で、
静音部でノイズがありクリアさには欠けるものの、
映像オープニングの『ツァラトゥストラはかく語りき』の、
ハッタリのかまし方が見事に効き、
キューブリックはこの効果こそを狙っていたのかと、
今さらながらに思い知る。
 
これを50年前にやっていたとは!
 
1968年当時の観客にも衝撃だったが、
無理解や戸惑いが大勢を占めたので、
当時衝撃を受けたのは、
むしろ同業者やマンガ家などのクリエイターだった。

 

当初キューブリックは美術担当として漫画家の手塚治虫の協力を仰いだが、当時の手塚は連載漫画の他に、テレビアニメ番組を多数抱え、日本国外での映画制作に携わることは物理的に不可能であったため、オファーを断った。「200名もの人間を食わせなければならないので」云々と云う主旨の返信を送ると、キューブリックは「家族が200人もいるのか?!」と驚嘆したという。手紙自体は紛失してしまったが、封筒の写真は手塚のエッセイ本に掲載されている。

 

手塚治虫は偉大だが、
同氏の「2001年」参加で、実際の完成作品以上の出来になったかはアヤシイと思う。
なぜなら手塚氏には、インダストリアルデザインの素養がなかったからだ。
 
 
もちろん手塚一人で全てをまかなうこともなかったろうが、
そもそものデザイナー陣の厚みが異なる。
 
例えば制作スタッフではなく、完成後の後押しアーティストでも、
欧米の宇宙画の層の厚みを示す人材が、
 
 
 
 
 
 
ここまで描けるアーティストは、日本人にはいない。
同じR・Mでも、ロバート(ボブ)・マッコールは、
ラルフ・マクォーリー(Ralph McQuarrie)とは別人です。

アート

 
日本でメカデザインの素養のあるマンガ家と言えば、
松本零士に尽きるだろうが、
 
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1965(「2001年」本編撮影時)〜1968年(公開)当時は無名だった。
 
松本零士は、クラシック好きで、
上京資金作りにステレオやレコードを売りはらって充(あ)てたそうで、
『2001年』には、いつか自分で使おうと思っていた、
 
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——『ヤマト』の音楽について、思い出があれば教えてください。
 
xほうがい
そうですね、『ヤマト』は音楽に恵まれてましたね。
ヤマトのテーマは、ベートーベンの交響曲第三番の第二楽章みたいなのをと、勝手な注文を出しましたが、宮川泰さんは「よっしゃ、わかった」と。
曲調は違うんだけど、なんとなく雰囲気に通じるところがありますね。
音楽といえば、つねづね自分の作品に『ツァラトゥストラはかく語りき』を使いたかったのに、『2001年宇宙の旅』(1968)を見て、ほぞをかむような、先にやられたかという思いでした。
間に合わなかったかと。
 


06:00あたりから『ツァラトゥストラはかく語りき』を軽めに演奏したものがあてがわれてるが、『2001年』になぞらえてなのか、松本零士の意向なのかは不明。

 
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また、『ニーベルングの指環』に入れ込んでいた松本は、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」も使いたかったが、これも『地獄の黙示録』(1979)にやられて、またしても「しまった」
 
Apocalypse Now
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強情なアーティスト気質と言えば、
自分が手がけるより、明らかに手際の良い作品を見せられても、
「先を越された」と悔しがりこそすれ、
「これはとうていかなわない。参りました」
と降参しないところが面白い。
 
私なんか、
公開から50年後に4回目の映画館体験でも、
  • テアトル東京(1978)
  • 銀座テアトル西友/銀座テアトルシネマ「新世紀特別版」(2001)
  • 新宿プラザ劇場ラストショー』2008/11/2
そして劇中の時代設定が未来から過去に変わっても、
「とうていこれは超えられないな」
と、ひれ伏すしかないんだが。
 
マンガ家の中には、
いさぎよく白旗を揚げ、
臆面もなく、映像から構成までパクッた人もいる。
 
それが石森章太郎(当時表記)の「リュウの道」で、
 
『週刊少年マガジン』にて、1969年の第14号から1970年の第52号にかけて連載された。
単行本の初版は、講談社コミックス(KC)レーベルの全8巻で、発行開始は1970年10月10日。
 
 
——ということで、ガッツリ『2001年』日本公開(1968年4月11日)
1年後だったが、
 
 
 
石森章太郎は、
サイボーグ009でも、
『未知との遭遇』(1977)の一場面をそのままトレースするなど、
(たしか「グリーンホール編」)
 
今では考えられないことを平気でやっていたが、
子供が読まない小説や観ない映画を、
マンガ形式に噛み砕いて伝えるつもりだったのかも知れない。
「サイボーグ009」長編『地下帝国ヨミ編』。『週刊少年マガジン』に掲載。地底人たちを支配するブラックゴーストとの戦いを描く。この戦いでブラックゴーストは消滅し、物語は完結している。同時期には劇場版アニメも制作された。
 
ラストシーンがアメリカのファンタジー・SF作家レイ・ブラッドベリの『万華鏡』(短編集『刺青の男』所収)に触発されたものとしばしば語られる。
 
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『2001年宇宙の旅』については、あと1回記事にするつもりです。