『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015) | アディクトリポート

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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
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Mad Max: Fury Road


ここ数年、
前評判の良い映画に限って、
自分には期待はずれということが多く、
昨年でその最たる例は、
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だった。
sasa

熱狂に水を差すとブログが炎上しかねないので、
去年は黙っていたが、
ようやく何がダメだったかを指摘すると、
突き詰めが甘く、
せっかくの素材が生かされていないから

——ということに尽きる。

アライグマのキャラ(名前すら覚える気なし!)が象徴するように、
見かけはまったく冴えず、
とうてい大任を果たせそうもない顔ぶれが、
意外な活躍で、存亡の危機を救う。
——という筋立てだったら、
当然ギャップや意外性を演出する仕掛けが欠かせないはずで、
予告篇はそこをくすぐっているのに、
肝心の本編にはそういう伏線や下地作りがどこにもみあたらず、
淡々と即物的な描写の積み重ねが続くだけで、
映画が有機的に機能していない(=生き物として息づいていない)こと、
このうえなし。

こんなので喜べるのは、
ユーチューバーの動画を喜ぶガキンチョレベルの感性と知性で、
想定観客層の中高生あたりがせいぜいだろうと感じたが、
いい年こいた大のオトナまで手放しのベタ褒め状態で、
「俺たちのための映画」に認定するに至っては、
ひとごとながら、「おいおい、きみたち大丈夫か」と心配になった。

監督のジェームズ・ガン
は、観客をナメているんじゃ、
とさえ勘ぐったが、
こう言う場合、
『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイと同様に、
IMAX
監督の知性感性が想定観客のガキンチョレベルか、
時にそれ以下なだけだったりする。

という去年があったので
なんだか周囲は公開前から異様に盛り上がっている
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
だって、実際に自分の目で見るまでは、
他人の評価はあてにならないと、
用心に用心を重ねて、
7月1日に、
『ハンガー・ゲーム FINAL: レジスタンス』の前座として、
natto
2D字幕版で鑑賞。

別に『マッドマックス』が『ハンガー・ゲーム』の前座になったのは、
シネコンのタイムテーブルの都合だが、
鑑賞前の期待値は、意図的に低めに設定していたのも事実。

で、いざ実際に見てみたら…。

まぎれもない傑作!
death
今年は映画をほとんど観てないから、

年末の『スター・ウォーズ フォースの覚醒』を観ないうちから、
2015年ベストは早くも確定。

生涯でもベスト級!


「まだまだ映画でやれることがあるんだ」
と、新たな可能性を示し、
「映画とは、かくあるべし」
を堂々と示した、
真に映画史に残る傑作です。

ドラマ自体にも胸を打たれたが、
7割~8割方進んだ時点で、
映画自体の鮮やかな出来の良さに、はやくも感涙が止まらず、
そのまま滂沱(ぼうだ)の涙で、
きゅう
上映館を出る羽目に。

この涙は、
『ヘアスプレー』(2007)

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『ダークナイト』(2008)
一デカ
——以来の、数年に一度、あるかないかのものである。


始まってからずっと、
今まで見たこともない映像で、
これまで聞いたこともない(=前代未聞な)話が、
テンポ良く語られ、
観客はグイグイと引きこまれていく。

とにかくスキの無い映画で、
◎脚本
◎撮影
◎編集
◎セット
◎プロップ
◎衣装
◎メイク
◎キャスティング
◎役者の演技
◎VFX
◎サウンドデザイン
◎音楽
——と、およそあらゆる構成要素が緻密に計算され尽くし、
しかも計画倒れや消化不良に終わることなく、
きちんと役目を果たし尽くしている。

つまり
「ガーディアンズ~」とは、ことごとく逆を行ったからこそ、
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は成功したとさえいえる。

さりとて、中途半端な巨匠監督にありがちな、
「ねえねえ、ボクってすごいでしょ」という、
これみよがしなテクニックの自慢大会に堕すことなく、

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全ては観客を満足させるためのサービス精神にもとづくものだというのが、
画面からひしひしと伝わって来るので、
ジョージ・ミラー監督がこの作品を作ってくれたことに、
ひたすら感謝の念でいっぱいになる。

いやあ、この映画を観るまで、生きてて良かった!

(以下ネタバレ 赤字部分)

結局これは、人間の可能性と希望の物語。

冒頭で、絶望しかないような未来の地獄図が描かれ、
その状況は圧倒的に絶対で、
とうてい変えようがないように思われる。

しかし、
「人間は、そんなにヤワなもんじゃない」
「生きている限り、希望は必ずある」
と示すように、最後まであきらめなかった者が勝利する。

最後に勝つ者は、登場時の様子からは思いもよらない変化と成長が、
旅を続けることで訪れ、しかもその変化は、他者との関わりでこそ、もたらされる。

反対に負ける者、滅びる者は、変化も成長も見られず、
かたくなに最初のままの自分を押し通す。

そして変革の最大の功労者は、
無名の民から出(い)で、
勝利の後も権力をむさぼることなく、
再び無名の一人として、その場を去って行く。

(ネタバレおわり)


ともすれば大上段にかまえて説教臭くなりそうなこの作品に、
適度なジョークや茶目っ気を随所にふりまく余裕にも恐れ入った!


たとえば日本なら
「激おこプンプン丸子(げきおこぷんぷんまるこ)」
とか
「怒り心頭子(いかりしんとうこ)」
とでも置き換えられそうなキャラ、
フュリオサ(シャーリーズ・セロン)の名前が、通り名ではなく本名だとか、
「んなわけねえだろ!」も、わざとそこここにちりばめられている。

中盤あたりから、
「この映画に文句をつけるヤツなんているのか?」
と思ったが、
後でチェックした、否定意見はたいてい、
「やはり『マッドマックス2』(1981)は越えない」

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とかいう、
『ダークナイト』を見た後でも、
「やはりバットマン映画の最高峰は『リターンズ』(1992)」

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——というのと同じ、
かたくなに自分を変えない者だというのが、
皮肉と言おうか何と言おうか…。

私は最近、3D映画という選択肢がなくなったこともあり、
2Dで作品の魅力がなくなる映画だとは思わないし、
極力デジタル効果を避けて、本物の迫力で押し通した本作のスケール感は、
「ルーカスも『エピソード1』(1999)のポッドレースのシーンを、
ホントはこういう風にやりたかったんとちゃうんか!」
って感じで、2Dでもいささかも減じなかったが、
とはいえ、
家のテレビで見る作品じゃないことだけは確かです!

絶対にお見逃しなく!