LFL訴訟の行方(6)ウォーカー裁判〈後編〉 | アディクトリポート

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 抜群の存在感を示しながら、他者のデザインを拝借したために、出番が遠慮がちだった『帝国の逆襲』のスカウトウォーカー。
 しかし映画が公開されるや俄然注目を浴び始め、なんとケナー社のトイとして商品化までされ、一気に認知度が上がり、メジャーな存在に昇格してしまう。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-箱
↓自重で「しゃがみこんだ」姿勢になってはいるが、実は撮影用モデルをかなり忠実に模している逸品。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-4態

 このため、『ジェダイ』(1983)では、AT-ATに代わり、地上歩行兵器としての出番が一挙に増した。
↓なんと実物大のセットまで作られ、野外撮影に使用された。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-野外

もともと、この『ジェダイ』版スカウトウォーカー(AT-STとようやく本作で定義)は、『帝国』版と同様のプロポーション、すなわち頭部が小さく、脚が長いスタイルを踏襲するはずで、セット建設用図面でもそうなっていた。
↓隅に『ジェダイ』表記のあるAT-STの図面
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ブルー

しかしそのままでは安定しないため、脚が短く、頭部の大きなプロポーションに変更されている。
↓正面形
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-正面
↓同アングルでも、まるで別物。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ななめ
↓ジョンストンは『ジェダイ』のために、プロポーションを変更した設定画を描き直している。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-比較3

このスカウトウォーカーのメジャー化で、黙っていられなくなったリー・サイラーが提訴に踏み切り、
「パノラマシティ」の記事によれば、
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-記事
四脚型歩行兵器AT-ATスノーウォーカーのデザイン盗用(? 二脚型のAT-STじゃないの?)で、訴えた権利は、『帝国の逆襲』(? スカウトウォーカーがメジャーになった、『ジェダイ』じゃないの?)の商品化権まで含めた全てを要求したらしい。
 それはいくらなんでもボッタクリ過ぎだが、とにかくチキンウォーカー(帝国版の足長ウォーカーの俗称)はサイラーのデザインのパクリだから、そこぐらいは裁判でも認められるんじゃないの、ぐらいに考えてた。

 時は過ぎ、世はネット時代。
 ウィキペディアとかそのSW版のウーキーペディアなどのネット版簡易百科事典には、たいていの情報が載っている。
 ある日AT-ATウォーカーの項を調べていたら、久方ぶりにリー・サイラーの名前があって、彼が(スカウトウォーカーAT-STでなく)AT-ATの盗用で提訴していた旨が記述されていた。
 おまけにもう少し検索したら、件の裁判記録まで閲覧できた。
 どうやら裁判はサイラーが負けて、理由は、提出した証拠が、当時の、つまり『帝国』以前に彼が描いたものでなく、後から描き直したもので、説得力と信憑性に欠けるため、だったらしい。

 この当時(2007年12月)、パノラマシティの該当号も手元になく、その元ネタのスターログ本国版の記事も閲覧できなかった私は、どうしてもあのイラスト(デザイン)をもう一度見てみたく、何か方法はないかと模索した。

 そうだ! ネットがあるじゃん。
 リー・サイラーの名前で検索すると、彼の簡易HPにメアドと連絡先が書いてある。
 しかしそのメアドは死んでいて、出したメールは跳ね返ってきた。
 やむなく、記載されている番号に国際電話。
 女性の声が応答する。
「あの、すみません。日本からなんですけど、リーサイラーさん、いらっしゃいますか?」
電話口の向こうで、「あんた、日本からあんたに電話だってさ」と言う声が聞こえ、
次に男性の「もしもし」と言う声。
「あの、リー・サイラーさんですか? ガーシアン・ウォーカーをデザインした?」
「イエス!」と言う即答。
そしていくつかのやり取りの後、元のイラストをメールで送ってくれる(画像添付してくれる)と言われ、なんでもやってみるもんだ、と思った。
 
 ところが、ほどなくして送ってきたのは、あのイラストではなく、この2枚だった。

オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ヤッターメカ

オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-グレイ

あのー、こう言うのが欲しいんじゃなくて、そのものスバリの、あの1枚だけでいいんですけど。
ところがサイラーは、「あれはなくした」という。
そんなもんなの?
「裁判は控訴する費用が尽きて断念した」らしい。

 色々考えると、チキンウォーカーのデザイン盗用だけでは、なにせ2ショットしか登場してないメカだから、映画の権利を要求するには弱すぎるために、もっと出番の多いAT-ATのパクリまで訴えに含めたらしく、提出した証拠作品は、その訴えに便利なように描き直して、AT-AT(型デザイン)の割合を高めてあるらしい。

 実際はたしかにサイラーもAT-AT風のデザインを描いてはいた。
 ようやくネットで見つけたのが、この画像。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-サイラー版

 だけど厳密に言えば、このタンク型(AT-AT型)のデザインの権利は、サイラーも主張できないはずである。
 なぜなら、この脚や足の機構の元ネタは、サイラーの20年ほど前に、別のデザイナーがすでに描いていて世間に公表されていたものなのだ。
 
 1950年代後半、インダストリアルデザイナーのシド・ミードは、自分のデザイン集をクライアントに示すファイル(ポートフォリオ)を作成し、それには同時期に複数のパターンがあった。収録されているのは近未来風の乗り物のイラストだが、
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-スタイル

そのうちの1枚に、これが含まれていた!
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-雪の日

↓シド・ミード版「ウォーカー」のくるぶしの可動機構と形状は、劇中のAT-AT(上)よりも、検討段階のデザイン(中・下)に色濃く引き継がれている。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-くるぶし

というわけで、結局のところ、二脚型スカウトウォーカーだけでなく、四脚型AT-ATすらSWオリジナルではなく、既存デザインのパクリだったわけだが、同時にサイラーも完全オリジナルとはいえなくなった。
最終的には、シド・ミードこそが偉大だったこと、サイラーのように、正当な権利を主張できる場合も、欲をかきすぎて色々と後工作をしてしまうと、結局証言を信用してもらえなくなる、ということがわかった、ウォーカー訴訟であった。

この話(ウォーカー裁判)は、これでおしまい!