LFL訴訟の行方(5)ウォーカー裁判〈中編〉 | アディクトリポート

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『帝国』のスカウトウォーカー(最初の呼称はチキンウォーカー)のデザインが盗用だと判断した根拠を列挙していくと----

1.見ればわかる。
 
 訴えを起こしたアーティストはリー・サイラーと言って、問題のイラストは本人によれば1976年の作品。
 SFコンベンションでテーブルを確保しては、自分の描いたモノクロのSFアート、あるいはこの種のデザイン画を描いて販売していた。
 本人によれば、このメカはガーシアン・ウォーカーもしくはガーシアン・ストライダーと言って、今で言うトランスフォーマーみたいなメカ生命体の1体だとのこと。
 まあそういう設定はともかく、ジョンストンのチキンウォーカー用の設定A案(右)と、サイラーのアートを左右反転したもの(左)を並べてみれば----
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-チキン1
 このように、頭部形状と足(フットパッド)の部分をのぞいて、つまり中間の脚部構造は、関節の曲がり具合から片脚の上げ方まで含めて、全く同じと言ってもかまわない。
 頭部が異なるのは、当時のSWの帝国軍デザインは全般に直線構成が基本で、サイラーの曲線構成ではそぐわなかったため。
 だから、この頭部形状を直線構成に変えて、フットパッドをAT-AT(四脚型の帝国軍主力ウォーカー)と同形にして、脚の曲げ方を変えたB案も存在する。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-チキン2

 もちろん、これだけでは盗作の決定的な証拠とはならない。
 サイラーの方が後出しジャンケンで、この2枚のデザイン画を両方反転させて、A案から脚をパクリ、B案から頭部とフットパッドをパクって、自分流にまとめ直したという可能性も、ないわけじゃない。
 わざわざそんな面倒くさいことをするかどうかは別にして。

 で、次に挙げる盗作の根拠は、

2.AT-ATに比してデザイン画が少なすぎる。
 AT-AT(全地形対応装甲歩行兵器)は、映画『帝国の逆襲』の主役メカと言うこともあり、それはたくさんのデザイン画が、それこそ何枚も何枚も描かれた。
 全体形、歩行する様子、頭部や脚部のアップ等々。
 頭部など、いったん決定したのに、後で改訂版を描き直す程の念の入れようだ。
↓78年11月16日にいったん決定し(右上)、完成形のボディにも描き添えられた(左)AT-ATの頭部は、3日後の19日には描き直され(右中)、結局は後日に描かれた最終形(右下)に落ち着いた。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-頭部3案

 それなのに、チキンウォーカーに関しては、デザイン画は、たったの4枚しか存在しない。
 しかもそのうちの1枚は、AT-ATのデザインの流れにあるもので、本編に登場するものとはまるで異なっている。
↓AT-ATの二脚型バリエーションでしかない、スカウトウォーカー最初期案
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-没チキン

 というわけで、実質的なチキンウォーカーへの道のりは、たったの3枚のデザイン画で達成されており、そのどれもがサイラーのデザイン画に酷似している。
↓前面の窓の形がA案と異なる最終C案。モデルはこのデザインに準じて製作された。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-チキン3

 つまり、二脚型ウォーカーのデザインは、当初ジョンストンはAT-ATのデザインを少しだけいじって済ませようとしたら、幸いサイラーのデザインを見つけたので、それをパクったという、サイラーがオリジナル、ジョンストンがパクリ、という推論はじゅうぶんに成り立つ。
 C案はパクリ疑惑を攪乱するため、あえてサイラーのデザインを見ないで仕上げたのだろうが、それでも脚部と頭部のバランスは変わっていない。
 だがその逆、ジョンストンのスカウトウォーカーのデザインを見て、それをサイラーがパクるという図式は成り立ちづらい。
 だってより主張を強固なモノにするなら、サイラーはジョンストンのC案の要素も盛り込んだはずではないか。これら4つのデザインは、「アートオブ帝国」と、「帝国スケッチブック」で同時期に一斉に発表されたわけだし。

3.『帝国』劇中でのスカウトウォーカーの、控えめすぎるあつかい

 マニアを驚喜させた『帝国の逆襲』でも、スカウト(チキン)ウォーカーのさりげない登場の仕方は絶賛された。
 なにせ、たったの2ショットにしか登場しないのだ!
 一つめは、手前に大きくAT-ATの頭部が写っている横を、小走りで駆け抜けていく場面。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-小走り

 もう一つは、ルークがAT-ATの下腹から爆弾を放り込み、ケーブルを外して地面に突っ伏したときに、遠景に雪にかすんでたたずんでいる場面。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-たたずみ

 実はもう1カット、スカウトの登場カットは予定されていた。
 雪原を背景に、奥から手前に迫り来るスカウトを、スノースピーダーのコクピット視点からながめたもので、ストップモーション撮影はうまくいっていた。
 そころがつり下げていた背景画が、途中で20センチほどずり落ちてしまい、そのショットは使えなくなってしまった。
↓おそらくこれが、その撮影風景だと思われる。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ミューレンスカウト

 なんにせよ、わずか2~3カットというのは、いくらなんでも少なすぎ、控え目すぎやしないか。

 本当は出したくなかったんじゃないのか?
 遠景で横向きだけの登場って言うのは、その形を堂々とは示したくなかったんじゃないのか?

 ジョンストンとしてはスカウトウォーカーは当初本編に登場させる予定はなく(そりゃそうだ!盗作なんだから)、とりあえず自分でプラモのパーツででっちあげた無可動のディスプレイモデルを作り上げ、ILMの仕事場に飾っておいた。
 そこをルーカスが訪れ、「これ、カッコイイじゃないか! なんで劇中に登場させないんだ?」と提案された。
 ルーカスの言うことは絶対だ。まさか「デザインをパクリました」なんて言えやしない。
 仕方なく、新たにアーマチュア(ストップモーション=コマ撮り人形アニメのための可動間接)が作られ、ディスプレイモデルから部品をはがして、これに再接着。
 一応サイラーのデザイン画とは異なるアングルから撮影し、カット数もごくわずかに制限した。
 資料写真も(裁判結審後の)90年代まで門外不出だったし、しかもモノクロのみで後面の写真が存在しない。
↓『帝国』版のAT-STの資料写真はこの3枚のみ。後面写真が存在せず、しかも全てモノクロ。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-スカウト3態

 しかし『帝国の逆襲』が公開されると、予想外の事態が起き上がった。

 というところで、つづく。
 次回でこの話、終わるのかな……