じかんざぶとん⑧
「それはね、おばさん、」
ときちゃんは、どんな椅子にしたいのかを描いて説明するために、ペン立てからフクロウの形をしたエンピツをとりました。おばさんがエンピツの後ろを彫刻したもので、いつも使っているときちゃんのお気に入り。
それから後ろの引き出しから白い和紙をもう一枚、両端をつまんでとりあげ、空中でヒラヒラするのをおさえながら、折れないようにそっと机の上にひろげて、
「私は太陽のサンさんを招待したいと思っているの。」
樫の木おばさんが小さくうなずくと、
ときちゃんは、
「なぜかって、おばあちゃんがお星さまになった時、大好きなのに会えなくなってしまって、
わたし、すごく哀しくて…
だってお話しもできないし、一緒にご飯をつくることも、お家の用事だって、
お空に話しかけても、お手紙を書いても、全然返事がないんだもの。
おばあちゃんに会いたくて、
前みたいに…
だから、明日なんか来るよりも、目が覚めたら昨日に、ずっと前にもどってしまいたいって、いつも思っていたの… 」
いろんな思いが押し寄せてきて、ときちゃんの目の前の景色がだんだんおぼろげに、そのうちに小さな朝露のような涙が一粒頬をつたうと、次から次へとポロポロと流れ落ちてきました。
樫の木おばさんは、彼女を癒すための言葉や、励ましの言葉をかけたいと思いましたが、目の前で泣いているときちゃんを見て、それはちょっとだけ、先まで胸の中にあずけて、
ただ寄り添うように、少しかがんでときちゃんの目線にあわせ、背中に手をあてていました。
そうしてひとしきり涙した後、
道具棚の上の小窓からやわらかな風が流れてきて、机にひろげた和紙がわずかに浮いて、
ふわり、ふわりとすべり、端でとまると、
ときちゃんがふたたび話しはじめました。
「わたしね、あの時はいつも泣いていて、
そう…、お外へ出なかったの、
でも悲しくはなかったわ。だってお外へ出たいなんて全然思わなかったから、」
「だけど…」
「お母さんが眠る前、毎晩お話をしてくれて、短くて面白い話や、何日も続くお話だったり、私が話の中にでるときなんかもあって、明日はいったいどんなお話になるんだろうって、だんだん楽しみになってきて…」
「そしたらね、ある朝起きたら、お部屋が真っ白に見えるくらい窓からいっぱいのひかりでまぶしくて、
お母さんが摘んだデイジーが窓に向かって大きくひらいていたの。思わず"おはよう"って声をかけたわ。
私も同じように窓の外に顔をだして、手を高くかざしてみたら、指が透けるようにひかって見えて、
お空にいるサンさんと握手したみたいに、ここがドキドキして嬉しくなって、」
そう言いながらときちゃんは、両手を胸にあて、
「それでね、またお外へ出たいって思うようになったの。」
「だから私は、お礼にサンさんを招待しようと思っていて、
でもサンさんは下には降りてこれないし、もし降りてきたらみんな熱くて溶けちゃう。
鏡の椅子があれば、サンさんを映してみんなと一緒にいれるんじゃないかって、」
ときちゃんは樫の木おばさんに自分の考えを伝えようと、ふたたびエンピツをもって、もう片方の手をのばして紙を引き寄せ描きながら、
「それに、黒い鏡にしたらみんな眩しくないでしょう?」
と言いました。
おばさんは大きくうなずいて、一度ゆっくり息を吐いてから、ときちゃんに、
「ときちゃん、ほんとうにつらかったね。
話してくれてありがとう。」
「おばさんはね、こう思うんだよ。
今話してくれたサンさんの椅子のように、ときちゃんの心にある鏡にも、いつだっておばあちゃんは遊びにこれるんだって…
ときちゃんが会いたくなったら、目をつむって心の鏡をみてごらん、
一緒に話したこと、笑ったこと、ご飯をつくったこと、お家の用事だって、おばあちゃんが鏡に映ってでてきてくれるよ、きっと…」
「それからね、おばあちゃんと過ごしたいろんなことが、
ときちゃんの話す言葉に、
ときちゃんがつくるご飯の味の中に、
ときちゃんが感じる心に、
いつでも、今もときちゃんの中に生き続けているんだよ…」
さぁ、ときちゃんを笑顔にしてくれたサンさんのためにも、とびきりの椅子をつくらないとね!
もっとときちゃんのつくりたい椅子の話を、
意見を聞かせておくれ。
そう言いながら、ときちゃんをぎゅうっとだきしめてくれました。(つづく)
これまでのお話は、
blogテーマの「じかんざぶとん」
①〜⑦にまとめていきます。
あだちまり日和(一覧のページ)
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完成するまでコトバを何度も書き直したりするかもしれないので、それも含めて楽しんでくださいね。
あなたのほっこりした時間になれるよう…
じかんざぶとん⑦ (前回のお話)
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