じかんざぶとん⑦ | あだちまり日和

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和紙あかり作家のライフスタイル。
  日々の工夫や暮らし・食事や子育てのことなどを綴っていきます。

じかんざぶとん⑦


ときちゃんからスケッチの葉っぱを受け取ると、樫の木おばさんは、トランプのように一枚ずつ広げて丁寧に見ていきました。


「どれどれ…」


一人がけの椅子が3つに、

二人掛けと黒い鏡の椅子が1つずつ、

ひょうたんのような形をした大きなテーブルに、ハリネズミのあかちゃんのベッドなどが描かれていました。


「これはまたたくさん描いてきたんだねぇ。」

樫の木おばさんは、ミルクをゴクリと飲んでから、


「きっと何か大切な思いがあるんだね、もう少しときちゃんの希望を聞いてみたいから、

食べ終わったら私の工房で、じっくり打ち合わせをしないとね。」


ときちゃんは笑顔で大きくうなずき、最後の一切れをほおばり、底にたまったはちみつを一度くるりとスプーンでかきまぜ、甘さの増したミルクを味わいながら一気に飲み干しました。


後片付けをして再び樫の木おばさんと玄関をでると、ツリーハウスの底に貼りついていた枯葉が、すでに階段になっていたので、そのままカサカサ上澄みの葉っぱを前に蹴りながら音をたてて軽快に降り、


庭を抜けて小走りで工房へと向かいました。


工房の外側は、曲がった木や枝のうねりをそのままいかして縦に組み上げうねうねしていて、

そのたくさんのうねうねの隙間があることで、夏は涼しく、冬は暖かく、雨や強風からも守られ、室内はいつでも快適。森のいきものもよく遊びにやってきます。


ときちゃんがはじめて来た日には、一羽のルリビタキがとまって鳴いており、その鳴き声がこの隙間に反響して、工房自体がまるで1つのスピーカーのようにのびやかで透明感のある歌声を響かせていました。


樫の木おばさんの家のまわりには、ルリビタキがよくやってくるので、ときちゃんは"青い鳥ハウス"と名付けて呼ぶようになり、彼女が遊びにくる度にいつもその言葉が飛び出すので、おばさんもだんだんその気になって、ある日、扉を鳥と同じようなきれいな青色に塗りかえリフォームすると、


その頃から森の住人たちも、"青い鳥ハウス"と呼ぶようになったんだとか…


樫の木おばさんとときちゃんは、

扉をあけて工房に入り、中央にある大きな作業台に、タラヨウの葉っぱをすべて並べると、もう一度じっくりとスケッチに目をやりました…。


「3つの椅子は皆同じだけれど、1つはロッキングチェアのような脚にしたいんだね。それには何か意味があるのかい?」とたずねると、

ときちゃんは、

「ええ、それはもくもく先生のための椅子なの。先生はいつもお空にふわふわ浮かんでいるから、少しでも同じようにしてあげたくて、

だから揺れるようにした方がいいんじゃないかなって…。」


「なるほどねぇ、それじゃあこの椅子の脚は、弓形に削りだした木に曲がったツルを巻きつけて、ふわっとバネにもなるよう工夫してみようかね。」

樫の木おばさんは、後ろの引き出しから真っ白な和紙を取りだすと、ときちゃんのスケッチを見ながら線をひき、サラサラ図面を書いていきます。


それから二人掛けの椅子

ひょうたん形のテーブルへと話が進み、

双子の赤ちゃんのベッドのところでときちゃんに、


「これはぺぺとピッパのベッドだね、これも揺れるようにしたいのかい?」と聞きました。


「ええ、その方が気持ちよく眠れると思うの。そしたらハリネズミのお母さんも安心してゆっくりできるでしょう?。

それから…、あと2つお願いがあるんです。

ぺぺとピッパがくっつきすぎて、ケガしないよう真ん中に仕切りをつけたいのと、2人が起きている時には楽しめるように、吊り飾りのようなものを取り付けて欲しいんです。」



おばさんは少し上を見上げ、目をつぶってなにやら人差し指を空中で線をひいたり、円を描いているかのように動かして、しばらく考えてから、


「それならこれは魔法の図面にするよ。

木や枝は硬いからぶつけてもいけないし、たくさんの柔らかい若葉をつかって、寝返りに合わせて自在に変化する間仕切りにしたらどうだろうね。それと同じ葉っぱで吊り飾りをつくったら、きっと美しいベッドになるよ、ときちゃん。」



そう言うと、戸棚から岩や鉱石を砕いてつくった絵の具をとりだし、フラワーウォーターで溶いて、いろんなパターンの葉っぱの仕切りや、空中で様々に変化する吊り飾りの絵を描きだしました。


おばさんは、吊り飾りの葉っぱが日差し避けになるようにも工夫してくれているようで、

ときちゃんは興味津々に大きくのぞきこんで目を輝かせながら、絵本のような魔法の図面ができるのを静かにずっと見ていたのでした…。


「はやくつくってみたいわ…」

それから描かれたものに指でそっと触れて、絵を動かしてみたりして想像をふくらませていきました。


そうして描き終わると、

残りのスケッチを見ながら樫の木おばさんの目が、最後に残った一枚の絵を手に取ってすこし不思議そうに、


「ところで、どうしてこの椅子の座面だけ黒い鏡なんだい?」

と、ときちゃんに尋ねました…。(つづく)


これまでのお話は、

blogテーマの「じかんざぶとん」

にまとめていきます。


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完成するまでコトバを何度も書き直したりするかもしれないので、それも含めて楽しんでくださいね。

①から⑥まで読んでみてください…


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じかんざぶとん①

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