アクティブエイジング アンチエイジング -26ページ目

[こんなにも面白い医学の世界 第2回 吸血鬼は感染症だった?]

(レジデントノート  2014年11月号掲載)


ハロウィンの時期になると、吸血鬼の格好をした人をよく見かけるようになり
ますね。
吸血鬼はオオカミやコウモリと一緒に現れ、水やにんにく、日光や十字架を
極度に恐がって、夜に凶暴になるとされています。
これらの症状で何か思いつく病気がありませんか?

これらの症状はみんな狂犬病で説明できるといわれています。
狂犬病は、RNAウイルスである狂犬病ウイルスによる人獣共通感染症で、
一度発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。
イヌ、オオカミが最も主要な宿主ですが、ネコ、コウモリ、リスなども
感染し、感染した動物に咬まれることによりヒトに感染します。

最初は風邪のような症状なのですが、ウイルスは咬まれた部分から神経を
介して中枢神経にいたります。
ウイルスは、1日数ミリずつ神経を侵しながら中枢神経に向かうといわれ
ていて、中枢神経からの距離によって、手足を咬まれたら数カ月、顔なら
数日で発症するといわれています。

大脳辺縁系に感染すると、夜に譫妄、凶暴性を認めるようになります。
また、知覚過敏のため、臭いが強いニンニクや光を避けるようになり、
十字架を怖がるなどの先端恐怖症の症状が現れます。

水を怖がるのは、中枢神経障害のために液体を飲み込もうとすると
喉頭けいれんが起き、とても苦しいためといわれています。

狂犬病の患者さんが、生き血を吸ったり咬みついたりすることは実際は
ないのですが、18世紀の前半、東ヨーロッパでイヌやオオカミに狂犬病が
大流行したらしく、そのうえ当時のヨーロッパでは吸血鬼が人々の話題に
なっていたことから、吸血鬼伝説がその当時流行した狂犬病の症状と
結びついて、現在の吸血鬼のイメージが出来上がった可能性があります。

狂犬病の有効な治療法というのはないのですが、ワクチンの曝露後接種でも
感染早期なら発病を防止できるといわれています。
ウイルスそのものはアルコール消毒で不活化するので、動物に咬まれたら
よく洗浄して、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。


狂犬病の患者さんを私は診たことがなく、1957年以降、日本ではイヌ、
ヒトともに狂犬病の発生は報告されていません。
ですが、中国や北米でも患者さんは多く発生しており、2006年に
フィリピンに旅行中に犬に咬まれた人が日本帰国後に狂犬病を発症した事例も
報告されていて、決して無視することができない感染症です。

私がピッツバーグ大学にいたころの話ですが、アメリカの大学病院で
くも膜下出血で脳ヘルニアになったドナーから肝臓、肺、両側腎臓が
4人に移植され、1人は術中の合併症で、残りの3人は3〜4週間後に
急激な脳炎症状の悪化により死亡し、その原因がドナーから感染した狂犬病で
あったというショッキングな出来事がありました。
後でわかったことですが、ドナーはコウモリに咬まれていた事実があり、
それ以来、アメリカでは臓器移植のときは狂犬病の検査がほぼルーチンに
されるようになっています。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115414.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[口にはめて いびきストップ]

(元・東京医科歯科大学教授のエッセイ)
(読売新聞  2008年8月29日)


年に1、2回、仲間と一緒に泊まりがけの旅をすることがある。
久しぶりに仕事を忘れて行く旅ほど楽しいものはない。
温泉につかり、宴会では飲んで騒いで、やがてそれは2次会、3次会へと
果てしなく続く。

夜も更け、さすがに遊び疲れたか、三々五々眠りにつく。
こういう旅の場合、多くは数人で相部屋となるが、ここで運が悪いととんでも
ない悲劇が起こる。
そう、仲間のいびきである。

ライオンの咆哮(ほうこう)もかくありなんと思えるほどの凄まじさ。
ゴーッと行ったかと思えば、クーッと音が帰って来る。
その繰り返しが、しばらく続いたかと思うと、ピタッと止まる。
やれやれと思ったのも束の間、またまたゴーッから始まる。
あーあ、これで今夜も眠れないか。
もちろん、当の本人は気が付いていないから、「ああよく寝た。爽さわやかな
朝だ」なんて、張り倒してやりたい程のセリフをはく。


いびきは、鼻や口から吸い込む空気が喉に至る通り道(上気道という)の
どこかが、さまざまな理由で狭くなったときに発生する。
狭くなった上気道を空気が無理に通るから、粘膜が振動して音を発生する。
笛と同じ原理だという。


気道が狭くなるのは
  ・肥満
  ・大きな舌
  ・鼻づまり
  ・扁桃肥大などが
ある人に起こりやすい。

そうでない人でも、お酒を飲んだ後、睡眠薬、鎮静薬を服用した時、口を
開けて寝る、ストレスがたまっているときなどに起こる。

いびきは他人に迷惑をかけるだけではなく、当人も、空気を十分に吸い込め
ないため、体内は酸素不足になり、脳の働きにも関係する。


さらに重大なのは、「睡眠時無呼吸症候群」である。
気道が狭くなって、ついには空気の流れがストップしてしまう。
大きないびきが、急に静かになるときがあるが、実は呼吸が停止しているので
ある。
そのため夜間に十分な睡眠が取れず、昼間に猛烈な睡魔にとらわれてしまう。
電車やトラックの運転手が運転中に寝てしまい、大きな事故になってしまった
ことは幾度となくニュースで報じられた。


いびきや無呼吸症候群の強い味方になってくれるのが「スリープスプリント」
という治療器具だ。
ボクサーがはめるマウスピースに似た形態で、口にはめているだけで上気道が
確保され、空気の流れがスムーズになる。
もちろん最初はお医者さんの診断が必要だが、その指示のもとに歯科医院で
製作することが出来る。
作るのも比較的簡単だし、軽くて小さいから持ち運びが便利である。


さあ、いつまでも1人で悩んでいないで、相談したらいかがですか?




http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/20080829-OYT8T00390.htm?from=os2


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[受動喫煙でも歯周病リスク]

(共同通信・医療新世紀  2015年10月13日)


<男性、吸う人並みに>
他人のたばこの煙にさらされる受動喫煙が続いた男性は、自分は吸わなく
ても、重度の歯周病になるリスクが喫煙者並みに高まるとの研究を、国立がん
研究センターと東京医科歯科大 などのチームがまとめた。
リスクは、受動喫煙がない非喫煙男性の3倍以上だった。

研究は1990年時点で40~59歳だった男性552人、女性612人が対象。
1990年に喫煙を含む生活習慣などをアンケートで尋ね、2005~2006年に
歯科健診を受けてもらった。

この計1164人を、本人の喫煙歴や受動喫煙の有無によって計6つのグループ
に分け、一定の基準を満たす重度の歯周病との関連を調べた。

すると、喫煙者男性が重度歯周病になるリスクは、たばこを吸わず受動喫煙も
ない男性の3.3倍あることが分かった。

一方、非喫煙者でも、家庭のみで受動喫煙がある男性は歯周病リスクが
3.1倍、家庭に加え職場などそれ以外の場所でも受動喫煙があるとリスクは
3.6倍という結果だった。


研究を中心になってまとめた東京医科歯科大の植野正之准教授によると、
たばこに含まれるニコチンなどの物質は、歯周病菌の病原性を強めたり発育を
促したりする作用があるほか、歯を支える組織も弱めることが分かっており、
その結果、喫煙者は歯周病にかかりやすくなると考えられている。
受動喫煙でも同様のメカニズムが想定されるという。


一方、女性については受動喫煙と歯周病リスクとの間に関連はみられ
なかった。
植野准教授は「理由は不明。さらなる研究が必要だ」としている。





http://www.47news.jp/feature/medical/2015/10/post-1378.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[「あなたの息、大丈夫?」 口臭に関する調査結果を発表]

(ヘルスケアニュース  2017/05/16)


<男性の口臭が気になる女性は約9割!>
スギ花粉やインフルエンザの流行のピークも過ぎ、口元を覆うマスクを外す
人が増えるこの時期、気を配りたいのが口臭エチケットです。
株式会社プラネットが口臭ケアをテーマにアンケートを実施(男女4,099人が
回答)した結果、7割から8割の人たちが、自分についても他人についても
口臭を気にしていることがわかりました。

性別でみると、男性は同性、女性は異性の口臭が気になると答えており、
女性の口臭よりも、男性の口臭の方が気になる人が多いことになります。
「男性の口臭が気になる」と答えた女性は86.8%に上り、ほとんどの女性は
口臭といえば男性と思っているようです。

年代別にみると、自分の口臭については、男女ともに30代が最も気にして
おり、年代とともに下がる傾向にありました。
一方、他人の口臭になると、男女ともに20代は気にしている人が最も少なく、
20代女性に限ると、他人の口臭を「とても気になる」と答えた人が1割
以下で、他年代の半分以下という低さでした。



<会話以外の“密室”でも注意が必要>
口臭が気になるシチュエーションは、自分も他人の口臭も「近くで話す
とき」が断トツでトップですが、注目したいのが自分の口臭についての3番目
「電車、バス、エレベーター内など他の人が近くにいるとき」です。
特に、女性は「話をしなくても近くにいるだけで他人の口臭が気になる」と
感じる人が多く、他人と接近する公共の場面や密室でも、周りを不快に
させないような口臭ケアが必要なようです。

口臭を気にする人が多いなか、ケアについて聞いてみると、1位「歯を
磨く」、2位「口の中を水でゆすぐ」、3位「マウスウォッシュを使う」の
順となり、基本のケアをしている人が目立ちます。
女性の3人に1人は、デンタルフロスや歯間ブラシを使っており、女性に
とって口臭ケアは、身だしなみのひとつとして定着しているのかもしれま
せん。


口臭に関する失敗談のなかには、「夫の口臭がひどくて、あれこれケア用品を
試したが、改善せず、寝室を分けた。くさすぎて耐えられなかった(40代
女性)」といった笑い話ですまない話もちらほら。


自分も周りも不快な思いをしないように、日ごろからケア用品を使ったり、
必要があれば歯医者で相談したりして、息エチケットを守りたいですね。




(菊地 香織)




https://www.qlife.jp/square/healthcare/story62340.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[その口内炎、寝ている間にも原因が?]

(あなたの健康百科  2017年10月13日)


<歯ぎしりから口内炎に>
口内炎ができると、食べものがしみたり、歯が磨きにくかったり、不快な
状態が続きます。
できるなら口内炎は防ぎたいもの。
過労や栄養不足がきっかけとなることもありますが、もしかしたら他の原因が
隠れているかもしれません。


口内炎とは、舌やほおの内側、歯ぐきなど口腔の粘膜に炎症が起こり、潰瘍や
水疱ができる疾患です。
多くみられるのが、「アフタ性口内炎(潰瘍性口内炎)」で、2~10ミリ
ほどの丸くて白い潰瘍ができます。
原因として、過労による免疫力の低下、栄養不足などが考えられます。


一方、傷に細菌やウイルスが入り込み炎症を起こす「カタル性口内炎」も
あります。
入れ歯や矯正器具が接触していたり、ほおの内側をかんでいたり、火傷など、
気づかないうちに口内にできた傷が原因になっています。

他に、ヘルペス性口内炎、カンジダ性口内炎、ニコチン性口内炎もあります。


就寝中の歯ぎしりにも要注意です。
口内の粘膜や舌にこまかい傷がつき、口内炎ができやすくなります。
また、力仕事や何かに集中しているとき無意識に食いしばっている人、
口の中を軽くかむ、舌と歯で挟むなどの癖のある人も、口内炎になりやすいと
いえます。

繰り返す口内炎とともに、朝起きたときに顎が痛む、熟睡した感じがしない、
気づくと口をぎゅっと閉じている、あごや肩がこるといった症状がある
場合は、歯ぎしり、食いしばりの疑いがあるので、歯科医で相談して
みましょう。

そのほか、物理的な口の中の粘膜への刺激として、歯並びの悪さ、差し歯・
入れ歯の不具合、欠けた歯の放置、治療中の歯なども考えられます。
これらがあると粘膜に傷をつけ、口内炎を起こしやすくなります。


また、ドライマウスも口内炎の原因になります。
口内が乾燥すると、ちょっとした刺激でも粘膜が傷つきやすくなります。
また、殺菌作用のある唾液の分泌量が減少しているため、自浄作用が低下し
細菌やウイルスが増殖しやすくなっています。

口の中が乾燥しがちだと思ったら、よくかんで食べるなど、唾液の分泌を
うながしましょう。

しかし、自己免疫疾患など、他の病気が隠れているケースもあるので、まずは
歯科を受診することをおすすめします。

また、口呼吸が原因の場合もあるので、鼻の病気がないか耳鼻咽喉科にて
チェックすることも大切です。


口内炎の治療として、市販のパッチ薬や軟膏を使っている人は多いでしょう。
1~2週間で治ることが多いため、放置しているケースもあるかもしれま
せん。

しかし、頻繁に繰り返す、2週間以上たっても治らないという場合は、歯科や
口腔外科を受診してください。
口内炎は原因を突きとめて、再発を防ぐことが肝心です。






http://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/124748/




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[元マラソン女王の原裕美子被告が万引し有罪 栄光の陰に何があったのか]


(産経新聞  2017年11月15日)
スポットライトを浴びたかつてのマラソン女王が、コンビニエンストアで
菓子パンなどを万引し、窃盗罪で有罪判決を受けた。

陸上の世界選手権(世界陸上)の女子マラソン元代表で現在は無職の原裕美子
被告(35)=栃木県足利市=は11月8日、法廷に立ち、トップ選手だった
時期を含め、苦しんできた17年間の思いを吐き出した。
何がトップランナーを転落させたのか-。

原被告は8日午後、足利市の宇都宮地裁足利支部の法廷に立っていた。
黒い細身のパンツスーツ姿。
足利市内のコンビニエンスストアで今年7月、化粧品や菓子パンなどを盗んだ
として窃盗罪に問われ、この日が初公判だった。

防犯カメラの映像などから特定され、8月に逮捕された。
「事件当時、たまたまボディーミルクが替え時で、お金を使うことが惜しいと
いう気持ちがあった」
「入れようと思ったときに防犯カメラが視界にあったが、捕まって早く楽に
なりたかった。ボディーミルクをカバンの中に入れた」

盗んだときの様子を振り返ったその声はか細く、尋問には涙ぐむ場面も
あったが、はっきりと答えた。

検察側が読み上げた供述調書では「食べ吐きをすると気持ちが落ち着く。
でも吐く物にお金を使うのが惜しい。捕まってもかまわないという気持ちで
ボディーミルクや飲料水、食べ物を盗んだ。1つくらいは払わないと店に
申し訳ないと思い、パンだけ払った」。



<トップ選手時代から>
万引はこれが最初ではなかった。
検察側の冒頭陳述によると、2度の罰金刑が確定。
今回は6回目の摘発だった。

きっかけは、トップ選手だったときに発症した摂食障害だった。
窃盗は過食性の摂食障害にみられる典型的な特徴だという。

平成12年、宇都宮文星女子高を卒業し、実業団のトップチーム、京セラへ。
5年後の平成17年、初マラソンだった名古屋国際女子マラソンで初優勝した。
彗星のごとく登場したシンデレラガール。
同年の世界陸上ヘルシンキ大会への内定を獲得し、同大会ではメダルには
届かなかったものの日本女子トップの6位入賞。
平成19年の大阪国際女子マラソンでも優勝。
同年の世界陸上大阪大会に出場した。

だが、チームに入ってすぐに、過食と嘔吐を繰り返す摂食障害に苦しみ
始めた。
体重制限などより厳しい環境で競技に取り組むようになり、輝かしい成績を
残している陰で症状に苦しんでいた。
「食べては吐いてストレスを解消していた」

京セラを去り、平成22年には名伯楽、小出義雄代表率いるユニバーサル
エンターテインメント(佐倉アスリート倶楽部)に移籍。
同年の北海道マラソンで復活優勝を遂げたが、その後もけがに苦しんだ。

平成25年、ユニバーサルエンターテインメントを退社し、生まれ故郷・
足利市に戻った。
私生活では昨年10月末、地元の男性と結婚式を挙げたが、入籍しないまま
破局。
原被告は「昨年結婚式を挙げたが、結婚詐欺に遭い、400万円の資金が無駄に
なった。つらい思い、悩みから解消されたかった」と述べた。

弁護士は閉廷後、「自分が結婚資金を負担したけれど結ばれなかった。
主観的に結婚詐欺と思ったのだろう」と説明している。

父親は「最近は症状が出ていないと思っていた。
警察が家に来たときはまたかと思った。3年半はそういうのなかったが」と
振り返った。
治療を試みたが、平成27年2月以降は通院していなかったという。



<万引「利欲的でない」>
初公判の法廷は、父親に対する証人尋問や被告人質問が行われ、即日結審。

検察側は「動機が身勝手で再犯の可能性も高い」として懲役1年を求刑した。

一方、弁護側は「実業団時代に極度の食事制限や体重制限から摂食障害と
なり、万引をするようになった。被害者との示談も成立している」と主張、
執行猶予付きの判決を求めた。

原被告は「しっかりと治療を続け、今後このようなことがないよう、事件の
ことを忘れることなく日々を過ごしたい」と更生を誓った。
保釈後、入院治療を受けており、退院後も通院を続けるという。

休廷を挟み、言い渡された判決は懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)。
中村海山裁判官は判決理由で「自ら積極的に入院治療を行い、反省の弁を
述べ、父親が通院に同行することを誓っていることなどから今回に限り、
社会内で更生することを期待する」と述べた。
「窃盗の常習性は顕著」と指摘した一方、摂食障害や精神的に不安定だった
経緯も考慮、「利欲的とは言えない」とした。
判決を言い渡された原被告は裁判官席に向かい深々と頭を下げた。



(宇都宮支局 斎藤有美)




http://news.livedoor.com/article/detail/13894113/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[【塀の中の摂食障害】女子刑務所の患者増加
                ~彼女たちはなぜ万引きを繰り返すのか]

(2017年8月16日)(江川紹子  | ジャーナリスト)


極端な小食でやせ細ったり、むちゃ食いしては嘔吐を繰り返すなどの摂食
障害。
女子刑務所には、この摂食障害を患う受刑者が増えている。
多くは窃盗犯で、服役を繰り返す者も多い。
なぜなのだろうか。
その現状と背景、対応などを4回にわたってレポートする。



<万引きがやめられない>
札幌刑務支所は、最も北に位置する女子刑務所だ。
ここに服役するA子(35)は、南関東の出身。
万引きを繰り返し、何度か捕まった末に、とうとう実刑判決を受け、初めての
服役中だ。
A子は、15年ほど摂食障害に悩まされてきた。

きっかけは、20歳の時、両親が離婚したのを契機に、祖母の家で暮らすように
なったことだ。
その時の寂しさは、何かを食べている時だけは忘れられた。

ついついたくさん食べ、食べ過ぎた後は嘔吐するようになった。
症状は進み、普通に食事をした後、さらに2食分くらいの食べ物を詰め込む
ようになった。
食費の出費が収入をはるかに上回るようになった。

「これくらい大丈夫だろう」という気持ちで、食品を万引きしたところ、
うまくいった。
当初はドキドキしたが、回を重ねるうちに、緊張感もマヒしていった。

いつもたくさん買っている店なんだから、少しくらい盗んでもいいだろう、
などと自分を正当化。
そのうち、ほぼ毎日、どこかの店で食品を万引きするようになった。
手口はどんどん大胆になり、カゴごとレジを通らずに外に出ていたことも
あった。

あまりに大胆過ぎたせいか、なかなか捕まらなかった。
それでも、終いには警察に突き出された。

「なんてバカなことをしているんだ」と、その時は思った。
でも、釈放されると、その気持ちはすぐに薄れた。
そんなことを繰り返し、裁判にかけられた時も、判決に執行猶予がつくと、
すぐに万引きしては過食、嘔吐を繰り返す日常に戻った。

母の再婚相手の紹介で、病院に行ったこともある。
食欲を抑える薬を処方されたが、医者が本当に自分のことを分かってくれて
いるのかと、信頼感を持てず、すぐに行くのをやめた。

そうこうするうちに、また捕まり、とうとう実刑判決。
初めて刑務所に入った。



<ここを出るのが怖い>
刑務所では、自由に食品が手に入らず、他の受刑者との共同生活で人の目も
あることから、今は普通の食生活ができている。

「社会に出たら、きちんと仕事をして、貯金もしたい。そのためにも、体力を
落とさないで戻りたいですから」

問題は、今の食生活を出所後も続けていけるか、だ。

「怖いです、正直。ここにいれば、3食出していただいて、きちんと食べて
いるけれど、外に出たらいろんなモノがあふれている。また誘惑にかられて
しまうんじゃないかという怖さがある」

深夜でも食べ物が手に入る時代。
コンビニの普及もあり、誘惑は至る所にある。
A子は、刑務所では規則正しい食生活を送れている。
ただ、外に出たらどうなるか心配



<年々増える摂食障害の女子受刑者>
女子刑務所には、A子のように摂食障害を抱える受刑者が増えている。

そのことが問題視され、法務省では2013年から毎年、「拒食、嘔吐等を
繰り返す等により、他の受刑者と異なる処遇を行う女子受刑者」(摂食障害
受刑者)の数を調査している。
同年には124人で、全国11カ所の女子刑務所と3つの医療刑務所に収容されて
いる女子受刑者4159人の3.0%だった。
それが、その後も年々増え、今年7月1日現在には199人。
女子受刑者の20人に1人以上が摂食障害という状況だ。

しかも……。
「実際にはもっと多い可能性があります」
そう指摘するのは、摂食障害学会副理事長で内科医の鈴木眞理・政策研究
大学院大学教授だ。

「社会では過食嘔吐をしていたけれど、体重はそこそこ普通にあり、医療
機関にもつながっておらず、本人が隠している場合、見逃されてしまうことが
考えられますから」

罪名は窃盗がダントツに多く、今年の調査でも139人と約7割を占める。
中でも132人が食品などの万引きだ。
年齢は20代から60歳以上までと幅広い。



<摂食障害の症状としての万引き>
摂食障害に伴う様々な問題行動の1つとして、万引きがあることは、専門医
にも指摘されている。
A子のように、何度も捕まり、罰金や執行猶予判決を経て、それでも
止まらずに捕まったケースは、いわば氷山の一角。
摂食障害に詳しい高木洲一郎医師らのグループが、自身のクリニックなどを
受診した摂食障害患者を対象に行った聞き取り調査では、患者の44%が
万引きを告白している。

それによれば、万引きをする時に所持金があった者が8割。
買おうと思えば買えたのに、万引きを繰り返す。
動機としては「どうせ食べて吐いてしまうのだから、自分のお金を使うのは
もったいない」「お金がいくらあっても(過食のために)足りないし、
少しでも節約したいから」と、いかにも自己中心的な理由が並ぶ。

けれど彼女たちの多くは、子どもの頃はどちらかと言えば「いい子」で、
道徳心も人並み以上に強い方だという。

なぜ、摂食障害になると、当たり前の倫理観をうち捨てて、万引きに走って
しまうのか。先の鈴木はこう語る。

「摂食障害の患者は、食べても吐いてしまうので、脳が飢餓状態にあります。
それに、食べ物やお金を貯め込んでおかないと不安で仕方がない。摂食障害に
より、食べ物に執着する一方、認知機能が落ち、善悪の判別力や抑制機能が
低下するため、目の前に食べ物があると衝動的に手が出てしまう。摂食障害
患者の万引きの多くは症状の1つ、と言えます」

2013年12月に閣議決定された犯罪対策閣僚会議の「『世界一安全な日本』
創造戦略」でも、「摂食障害等の女性特有の問題を抱えている者」に対する
支援の必要性に触れており、摂食障害と犯罪との関わりは、もはや政府も
認めるところとなっている。



<お姉ちゃんだからしっかり>
出来心で一度か二度というのではなく、A子のように、捕まって一時的に反省
しても、繰り返し事件を起こすのが摂食障害患者による万引きの特徴だ。

そのため再犯者が多い。上記法務省調査でも、刑務所に入るのは2度以上の
者は115人と、摂食障害受刑者の6割近くを占める。



同じ札幌刑務支所に収監中のB子(39)もその1人だ。
ほっそりしているが、病的にやせているわけではない。
長めの髪を後ろで器用にまとめ、化粧気がない肌は、透けるように白い。
時折見せるあどけない笑顔もあって、実年齢より遙かに若く見える。
言葉遣いは丁寧で適確。
しかも楚々とした雰囲気の彼女が、4度目の受刑と聞いて驚いた。

中部地方に生まれ育ったB子は、3人姉妹の長女。
一番下の妹が重い障害を持って生まれ、入退院を繰り返していたことも
あって、幼い頃から「お姉ちゃんなんだからしっかりして」と言われて
育った。
B子自身も、「私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしなきゃ」と自覚して
いた。

両親がキリスト教系新興宗教の信者で、しつけは教えに則って厳格。
ムチで叩かれるなどの体罰を受けたこともあった。
それでもB子は親の期待に応えようと努めた。
甘えやわがまま慎み、週に3日は教団の集会に参加し、母の布教活動にも
必ず付き従った。



<食べ物は嫌なことを忘れさせてくれる>
高校卒業後は進学せず、宗教活動中心にしながらパートで働く生活になった。
そんな彼女に摂食障害の症状が現れたのは24歳の時。

教団内の人間関係に悩んだ。
生真面目なB子は、他の人の教義にそぐわない言動が受け容れられず、
ストレスが溜まった。
母は忙しそうで相談できない。
しかも母は、祖母の死後に変調を来して入院。
見舞いに行ったが、その時に服用していた薬の影響もあってか、娘の顔を
認識できず、「あなた、誰?」と聞いてきた。

一時的な現象ではあったが、B子は大きなショックを受けた。
「私は母に愛されていないのではないか」と疑念が湧いた。

そんな時、大食いすると嫌なことをすべて忘れられた。
食べ物は、気持ちを紛らわせてくれる、と思った。
酒やギャンブルが禁じられた教義に反しない、ストレスのはけ口でもあった。

先の摂食障害の臨床経験豊富な鈴木教授によれば、「摂食障害は、現実から
逃避する手段」。
やせることや食べ物だけに意識を集中させていれば、つらい現実を考えずに
済む。
摂食障害患者は、生真面目な一方、融通が利かず、ストレスをうまく解消する
ことが下手な人が多い。
拒食や過食が、ストレスから逃れる唯一の方法になり、深みにはまる。
B子はまさにその典型だった。 

食べることだけが、心の支えになった。
食べても食べても、なかなか満足できない。
体重はどんどん増えた。
自分でも、この状態はおかしいと思い、精神科を訪ねた。
だが医師は、「大丈夫だよ。太った精神病患者なんていないから」と笑い
飛ばした。

B子は、バカにされた、と思った。
「もう医師を頼ることはできない、自分でなんとかしなければ」
そう思って運動をしてみたが、とても食べた分のカロリーを消費することは
できない。
ベスト体重が45キロのB子が、64キロにまでなった。

その頃、テレビか雑誌で、「吐いてしまえばカロリーはプラスマイナスゼロ」
という発言を見聞きした。
なるほどと思い、試してみた。
指を喉に突っ込んだが、最初は涙と鼻水が出て来るだけで、うまくいかな
かった。
それでも回数を重ねているうちに、スムーズに吐けるように。
半年もしないうちに、指を使わなくても、腹筋に力を入れるだけで吐ける
ようになった。



<吐くことに快感を覚える>
菓子パンと炭酸水の組み合わせが、B子にとっては吐きやすい「王道」
だった。
しばらくして、食べること以上に、吐く行為が快感になっていった。
吐いている間、脳が酸欠気味になるのか、ふわふわとした気持ちよさが
あった、という。
それを求めて、へとへとになるまで食べては吐く日々。

「吐かずには生きていけず、でも、吐くと今度は後ろめたさが募りました」
そんな自分を忘れるために、また食べては吐く。
薬物依存ならぬ、過食嘔吐依存の状態だった。

この異常な食行動は、そのうち母に知られるところとなった。
母は娘を監視し始めた。
トイレに行くと、ドアに耳をつけて中の様子を聞く。
帰宅すると荷物をチェック。
部屋に室内に食べ物を隠していないか、外出している間に捜索する。
みつかると、机の上に並べて「これは何なの?」と詰問した。

B子のストレスはますますたまり、母に隠れてこっそり食べて吐く時だけが
心安らげる時間だった、という。



<”悪魔のささやき”が聞こえる>
母との確執が激しくなる中、食べ物の万引きが始まった。
聖書の教えでも、盗みは強く戒められている。
信仰の世界に生きていたB子だが、衝動にかられ、ほとんど無意識のうちに、
商品に手を出していた。

何度も捕まり、警察に突き出された。
最初のうちは起訴猶予で釈放されたが、後に裁判を繰り返し受けるように
なる。
判決も、服役期間が最初は8か月、次は1年、その次は1年10か月と長く
厳しくなっていった。
教団からは排斥された。

刑務所ではいじめにも遭った。
出所のたびに、「こういう経験はもうしたくない。今度こそがんばろう」と
思う。

それに刑務所内では、食事の量が決められているのと人の目があるために、
吐かずにいる生活ができていた。
もう私は大丈夫……そう思っても、自由に食べ物が手に入る環境に戻ると、
症状はぶり返した。
「吐いちゃいけない」と思うと、余計に吐きたい衝動にかられる。
どこからか「吐け!」という”悪魔のささやき”が聞こえた。
その”声”は、万引きへと彼女を突き動かすスイッチにもなった。

前刑を終えた後、東京に住まいを移した。
仕事を始めた後、ある男性と知り合い、交際が始まった。
実家を離れたせいか、あるいは恋にときめいていたせいか、症状はかなり
治まっていた。
プロポーズされ、ためらいながらもそれを受けた。
摂食障害や前科は隠していた。



<結婚式の直前に……>
幸せの絶頂期。
それが暗転したのは、結婚式を3週間後に控えて実家に帰った後だった。
実家で母親と喧嘩になった。
それが引き金になったのかもしれない。
東京に戻り、職場の上司を訪ねる際の手土産を買おうとデパートに入った時、
あの「吐け!」という声が聞こえた。
その後の記憶はない。
気がつくと、和菓子を万引きしたとして、警備員に捕まっていた。

これまでの事件も、万引きする時のことはほとんど覚えていなかった。
店内のビデオを見ると、自分が商品を盗っているのは確かなのだが、
どうしても状況が思い出せない。
後に、2つの医療機関から「解離性障害」と診断された。
摂食障害は、このように他の障害や病気と重なる場合もある。

B子は、前科もあることから、常習累犯窃盗罪で起訴された。
結婚は破談になると覚悟した。
けれども、すべてを知った婚約者は、「病気なら治せばいい」と言って
くれた。
彼の両親も、「娘として待っている」という言葉を伝えてくれた。



<治療とカウンセリング>
今度こそ、本当に治そうと強く心に誓った。
保釈後、依存症の専門病院に入院。
そこでは、同じ摂食障害の仲間がいて、自分の気持ちも正直に話すことが
できた。
カウンセラーの資格も持つ弁護人が、気持ちをじっくり聞いてアドバイスを
してくれたこともあり、自分の問題をじっくり考えることができた。

「どうせ吐いてしまうのにお金を出すのはもったいないという気持ちが
なかった、というと嘘になるけれど、今考えると、聖書の教えで戒められて
いる盗みをすることで、母に心配してもらいたい気持ちが根底にあったと
思う」

人間関係の悩み、とりわけ母親との関係が背景にある摂食障害患者は少なく
ない、と聞く。
B子は、セラピーのワークショップにも参加し、母との関係を見つめ直した。

「母にとってみれば、右手には障害のある妹、左手にはもうひとりの甘え
上手な妹を抱え、両手が塞がって、私に手をさしのべようと思っても、
できなかったのかもしれない。自分から『お母さん、お母さん』と甘え
られなかった私にも原因があるのかな、と」

裁判は、一審が懲役2年の実刑判決だったが、控訴。
結婚後に立ち直った姿を見せて、控訴審で執行猶予をつけてもらうことを
目指した。

ところが……。



<反省や決意や誠意では克服できない病>
勤務先が北関東に変わった夫との新婚生活が始まった。
環境の激変で、ストレスがたまり、またもや食べ吐きの衝動を抑えきれなく
なった。
ある日、買い物に出掛けると、また「吐け!」の声が聞こえた。

はっと気がついたら、警備員に捕まって、店の事務所に連れて行かれていた。
カバンにパンやお総菜を詰め込んでいたのだった。

「またやってしまったのか……」と激しく落ち込んだ。
もう死ぬしかない、と思い詰めた。
夫は「僕がいてもダメなのか…」と失望し、離婚を告げた。

控訴審での執行猶予はもちろん認められず、新たな事件も合わせると、
服役期間は3年半と決まった。
人生のどん底だった。

そんな中でも、まったく希望がなかったわけではない。
専門病院に入院中に知り合った患者仲間が、遠方から夜行バスで拘置所まで
面会に来た。
盗癖について、「1人で抱え込まないで、なんでもっと早く言わなかった
の?」と叱ってくれ、「応援してる」とも言ってもらえた。

これまでは、服役していたことを隠すために、経歴などで嘘をつかなければ
ならなかったが、同じ摂食障害を持つ仲間には、隠さず何でも話そうと
思った。

「摂食障害が犯罪に直結してしまうので、絶対に治さないと。そのためには、
治療を受けるのはもちろん、自分の中に貯め込まないで、少しは人を頼って、
弱い自分の気持ちも話していきたい。自分の中に負荷ががかかりすぎると
危ないので」

B子は、プライバシーにわたることまで、私の質問のすべてに、1つひとつ
真っ直ぐに答えた。
後日、かつての弁護人をみつけて確かめたところ、彼女の話は、自分をよく
見せるための誇張も隠し立てもなく、すべて事実だった。

私の取材を受けた理由を、B子はこう語った。
「こんな私の話がお役に立って、誰かが同じ苦しみをしなくて済むんだった
ら、と思って……」

こうした誠実な人柄も、やりとりの際の言葉の選び方に感じた聡明さも、
「今度こそ」という決意も、過食嘔吐やそれに伴う万引きの再発を防ぎ
きれない。
その現実に、この病の深刻さを感じる。

それでも、病を克服しなければ、再犯のリスクはつきまとう。
出所後の彼女が、本当に今度こそ、適切なサポートと治療に巡り会えるように
と、祈らずにいられない。

(敬称略)




【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案
した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを
負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で
行っています。】






https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20170908-00075205/




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[こんなにも面白い医学の世界 第1回 火薬が心臓病を治す?]

(レジデントノート  2014年10月号掲載)


狭心症発作のときにニトログリセリンを使うことは、皆さん知っていると
思います。
このニトログリセリンは、ダイナマイトの原料でもありますが、火薬がなんで
狭心症に使用されるようになったんでしょう?


昔ヨーロッパで、火薬工場で働いていた作業員が、休暇明けに出勤して仕事を
はじめると、ひどい頭痛やめまいに悩まされるという苦情が相次ぎました。

一方で、狭心症を患う従業員が、自宅では発作が起こるのに工場では起こら
ないというエピソードがあり、これに注目した医師が「火薬には血管を拡張
させる作用があるんじゃないか?」と考えて研究したことで発見されたと
いわれています。

このメカニズムは長年未解明だったんですが、1990年代になって、ニトロ
グリセリンが加水分解されて硝酸ができ、さらに還元されて一酸化窒素
(NO)が産生され、それが血管拡張のシグナル伝達物質である、という
ことが発見され、1998年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました。

一酸化窒素(NO)のような気体が、血管拡張や神経伝達、免疫反応の
メディエーターとして働いているという発見は、生理学や薬理学の発展に
大いに貢献し、世界を大きく変えたといっても過言ではありません。


ちなみに、現在医薬品として使われている硝酸化合物は、硝酸イソソルビド
などのニトロ基をもつ硝酸系の薬品が主で、医薬品のニトロをいくら集めても
爆薬にはならないし、医薬品が爆発事故を起こすこともありませんよ。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115391.html




 

 

 

 

 

 

 

 

[こんなにも面白い医学の世界 第36回 バンジージャンプで失明?]

(レジデントノート  2017年9月号掲載)


バンジージャンプはもともと南太平洋のバヌアツ共和国で、成人の通過儀礼と
して行われていたものです。
男子が勇気ある成人男性となるために超えねばならない壁であったのですが、
今では日本を含め世界各地で体験することができます。

私は高所恐怖症ですし、学生のころデートで絶叫マシンに乗った後に嘔吐して
振られて以来、絶叫系は控えています。


バンジージャンプはロープが切れたり落下したりという事故以外に、飛んだ
後に視力障害を訴える患者さんが増えており、われわれも注意しておく必要が
あります。
これは、バンジージャンプによって息こらえをして胸腔内圧が上がること、
また、逆立ちの状態(倒立位)で急激に減速すること、この2つの理由で
上半身および眼内の静脈圧が急激に上がり、網膜の血管が破裂することに
帰因します。
このような“胸腔内圧の急増に続発して起きる前網膜出血を特徴とする特別な
形の網膜症”を「バルサルバ網膜症」と呼んでいます。


バルサルバ網膜症は、胸腔内圧が上がる場合、例えば性交などでも起きるの
ですが、バンジージャンプは倒立位となるため、より症状が出やすいとされて
います。

治療は保存的に血腫の吸収を待つことですが、血腫を穿刺して排出する手術的
治療が選択される場合もあります。


ちなみに、研修医の先生方にとって比較的なじみが深いバルサルバ手技は、
イタリアの解剖学者、アントニオ・マリア・バルサルバが用いたことに
ちなんで命名された手技で、ご存知のとおり、頻脈のときに息をこらえる
ことで脈を遅くするというものです。
10秒ほど息を吸ってからこらえることにより胸腔内圧が上昇し静脈還流量が
減少することで、一過性の血圧低下、1回拍出量低下が生じ、反射的に
交感神経が緊張し頻脈となります。
息こらえをやめると、胸腔内圧上昇により抑えられていた静脈血が一気に
心臓に戻るので、1回拍出量が増加し、結果として頸動脈洞の圧が上昇し、
逆に反射性の徐脈を引き起こします。
つまり脈が遅くなるのは、息こらえをやめた後であり、このことは意外と
知られていません。


脱線しましたが、急な眼の症状を訴えた患者さんを診たとき、胸腔内圧の
上昇が考えられるエピソードを病歴聴取で聞き出したら、「バルサルバ
網膜症を疑っているんですが」といって眼科の先生に相談してみましょう。
素晴らしい研修医だな、と思われますよ。





中尾篤典先生(岡山大学医学部 救急医学)




https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115926.html?ad=m30910



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[咀嚼筋障害]
 ・口が開きにくい
 ・口を開ける時、下顎の角部が痛い
 ・口を開ける時、下の親知らずのあたりが痛い
 ・口を開ける時、こめかみが痛い


[滑膜や靭帯損傷(顎関節の周囲組織炎)]
 ・口を開ける時、耳の穴の付近が痛い


[復位性円板前方転位雑音]
 ・口を開閉時、カクンカクンと音がする
 ・口を開閉時、ザラザラ(ザワザワ)と音がする


[クローズドロック]
 ・口が開きにくい
 ・朝起きたら、口が開かない
 ・口を開閉時、ザラザラ(ザワザワ)と音がする


[その他の雑音]
 ・口を開閉時、ザラザラ(ザワザワ)と音がする
 ・口を大きく開けた時(あくび)のみカクンと音がする