最初に書いた通り、今回の企画のルーツは、2007年に開催したリサイタルで、この《Bone Alphabet》を100均グッズのみで演奏したことにあります。

 

今年来日予定のファーニホウは、1943年生まれ、来年が生誕80年となる「新しい複雑性」という潮流を代表する存在です。

例えばリズム記譜だけを見ても、7/16の最初の5/32を7分割し、その中の32分音符5つ分を11連符にする・・・といった難解なものが、しかも複数のレイヤーで全く異なる連符の仕掛けが同居していたりするのです。

 

「そういう楽譜って、もはや、正しいか正しくないか、誰にもわからないのでは?」

 

確かに!

と言いたいところ(ちなみにほとんどの作品ではそれは言い得ています)ですが、この《Bone Alphabet》は、ファーニホウ作品には珍しく、明確な反復性があり、「聴いただけでもある程度その仕掛けがわかる」ようにできているのです。

 

つまり、「ちゃんと正確にやらないと違うことがすぐに分かってしまう」タイプの内容なのです。

 

そんな難解且つ高難度、誤魔化しのきかない鬼畜作品ですが、使用する7つの楽器の全ての選択が演奏者に任されている、というお茶目な設定もあります。

委嘱者のスティーヴン・シックが「スーツケース1個で運べるようなコンパクトな編成で」と委嘱したそうですが、そこでファーニホウは、楽器選択を奏者に一任することにしたわけです。

 

作曲者指定の選定条件は、次の通り。

 

・異なる材質

・鋭いアタック、短い残響という音響的共通点

・音量バランスも同じようなものでレンジを広くとれるもの

・隣接2楽器は同属のものを並べない

・下から上まで7つの音程を感じさせる

 

2007年に挑戦したときはこういう並びでした。

 

 

2007年のときは、マレットも100円で1セットというのを(それは100均ショップではなかったのですが)売っていて、それでやりました。

 

今回のセットは、次のようなものになりました。

左から順に、紙、金属、プラスチック、木、陶器、石、ガラス(陶器っぽく見えますがガラスです)、という具合に、全7種類、異なる素材にこだわりました。それでいてフラットに並び、音程がしっかり高い順になり、且つ、片手2本のマレットでのトレモロ奏法もあるということで広めのマトが必要、等、種々の条件を満たす100円の商品、というのは、なかなか難しいのですが、これでベストな並びになったように思います。

(マレットは、子供向け卓上木琴用の300円1セットのものですので、2007年よりもちょっとだけ値上がりました。)

結果的に、2007年とはだいぶ変わりました。当時無かったもの、また、当時はあったのに今は100円では見当たらないもの(200円商品など、色々なヴァリエーションができたのでかえって100円で出なくなっている)もあり、こうした取り組みも長く行っていると、色々なことがあるものだ、と痛感します。

 

他にも、梅本作品における鉄琴は今は店頭では見当たらないとか、樋口作品で使うはずだったパペットは(彼が想定したものは)どこにも見当たらず、仕方なく似た別のものにしたとか、様々な点で困難さがありましたし、そもそも100均ショップは季節で並びが変わります。今回の企画を決めて以来、シーズンごとにショップ巡りをしていますが、入れ替わりが激しく、収集活動もなかなか大変でした。

 

・・・と、そこまでして何で100円商品にこだわるの?という疑問があるものと思います。とくにこの作品などは、もっと様々な物品や楽器の中から選定した方が、演奏効果も高く、より良い演奏になることが明らかです。

 

背景には、やはり、「楽器は高い」という強い固定観念への抵抗があります。

西洋音楽の難解さを究極的に洗練させたファーニホウの音楽を、敢えてチープな楽器で演奏するという行為の中には、かつてコーネリアス・カーデューが「スクラッチ・オーケストラ」の実践で示した精神があると思います。

 

たった700円(+300円のバチ2セット)でファーニホウの曲を演奏できる!

ということを示したいのです。

 

 

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