久しぶりの世界の茶商シリーズは、カナダのCamellia Sinensis(カメリア・シネンシス)を取り上げたいと思います。
カメリア・シネンシスとは『茶の木』のこと、茶沼住民はこの言葉を聞くと、なんとなくそわそわし始める魔法の言葉でもあります(笑)
このお店を知ったのは『Tea-History Terroirs Varieties』という本を読んでからです。
Tea: History Terroirs Varieties
直訳すると『茶-歴史、土地、品種』という題名のこの本は、ページのほとんどを中国、日本、台湾、インド、スリランカ、ネパール、ベトナム、東アフリカなどの代表的な茶産地での茶の歴史、製造工程、代表的な品種などをまとめた本です。
英語で書かれた本ゆえに、写真や項目の拾い読みになりますが、ざっくり目を通していくといくつかの特徴がありました。一つ目は下記に示す各国の掲載ページ数です。
一昔前、英語圏の国では『お茶』といえば『紅茶』を意味していました。ですので、お茶に関する本もほとんどが紅茶に特化したものが多かったです。
自ずと『お茶』に関する本も紅茶に焦点をあてて書かれたものが多く、10年ほど前の本屋のお茶コーナーには英国流のお茶の指南書がずらりと並んでいたものでした。
さて、この本の中の各国の掲載ページ数を図示したものを見ていきましょう。
紅茶の主な産地のインドこそ32Pと掲載ページ数は多いものの、他の紅茶産地の東アフリカ(主にケニア)、ネパール、スリランカの扱いが小さいことが分かります。
いわゆる六大茶の全てを作る中国の扱いが54Pと最も大きく、緑茶に特化した日本が36P、烏龍茶に特化した台湾が30Pと東アジア勢の勢いが強いことが分かります。
世界各国の茶商のHPを見ていても、緑茶、抹茶、烏龍茶、台湾茶の扱いが大きくなっていることは感じていたのですが、数字で出すとどこに興味がもたれているのか一目瞭然ですね。
日本茶の今後の伸びしろも見通せる図です。
もう一つこの本の特徴として挙げられるのは、『歴史のうんちくが少ない』こと。これ、割と大事だと思います。
私も世界各国の茶商からポチポチお茶を購入しているのですが、うんちくが長すぎるお店はまず避けます。
お茶は農産物ですので、環境、生産方法、生産時期、生産者の方針など、『どのように作られたか』を丁寧に説明してあるお店を選ぶと、外れ茶葉を引き当てる確率はぐっと下がります。
説明が丁寧=茶商が自ら直接現地に足を運んでいることが多く、中間マージンがカットされるため価格も抑えられていることが多いです。
逆に歴史のうんちくがやたら長く、茶葉の価格が高い店は要注意。雰囲気で茶葉を売ろうとするお店なので、正直コスパが悪いです。
本に関しても同じで、うんちく本は主観的な文章ばかりで写真、図に乏しく内容がスカスカのことが多いです。特に中国語で書かれた中国茶の本は要注意、現物を見ないと絶対に買えません。
Camellia Sinensis
今回取り上げるカメリア・シネンシスは『Tea-History Terroirs Varieties』の著者である4人の白人男性が経営する茶商になります。
経営者のお写真はこちら。好きなことを仕事にしている自由な感じが顔に滲み出ています。
実店舗もあって、カナダのモントリオールに2店舗、ケベックに1店舗を構えているようです。
ケベック州と聞くと高校時代の地理の勉強が頭をよぎりますが、カナダ東部に位置し、カナダ国内では唯一公用語がフランス語となる州です。
それもあってか店舗のHPは英語(EN)と、フランス語(FR)の二つの言語で書かれています。
モントリオールの実店舗の写真です。
ううっ、ずらっと並んだ茶缶が素敵。
茶葉だけじゃなく茶器も充実してます。外出して茶器をふらっと買いに行けない今現在、この写真は目に毒です(泣)
茶沼住民はね、ペタペタ触って感触を確かめてから買いたいんです、茶器に関しては。
更に喫茶部門もあるようです。カナダ東部在住だったら間違いなく通います。寒い異国の地で温かいほうじ茶とか出てきたら泣きそうになる自信があります。
商品のラインナップ
種類別の商品数をグラフにまとめました。
横軸は商品数、分類はカメリア・シネンシスの商品分類に合わせています。
六分類のお茶は全て網羅していて、きれいに白茶から順に分類されています。
紅茶の78商品に対して、緑茶は80商品。著書のページ配分に似て、緑茶の取り扱いが多いのが印象的です。黒茶も35商品と取扱数が多いですね。この数だけ見ても、中国茶、日本茶沼に焦点が当たっている感触がします(笑)
ホームページの特徴
カメリア・シネンシスのHPで素敵だなあと思うのはお茶や茶器の種類を示すアイコン。
可愛らしいだけではなく視覚的にも見やすく、私のような英語、フランス語が母語ではない人間が見ても楽に商品を選択できるようになっています。
そして、アイコンが充実しているためにお茶の絞り込み作業が楽ちんです。緑茶の茶葉を選択してみると、上記のような画面が出てきます。
注目してほしいのは左側の絞り込みのためのアイコンの数々です。上から見ていくと下記のような順に絞り込みができるようになっています。
Tea Style (茶種)
Country (国)
Culture (有機、フェアトレード)
Type (フレーバー、チャイ等)
Format (散茶、ティーバッグ等)
絞り込み機能自体は珍しいものではありませんが、英単語だけで書かれるよりもアイコンがあると選びやすいなあと感じます。
そして、商品のバリエーションの幅広さにも目を見張るものがあります。
日本では緑茶=煎茶、玉露、ほうじ茶、番茶以上。みたいな鉄の掟がありますが、ここでは日本茶、中国茶の普通の散茶に加えて、ニルギリの茎茶や、緑茶のチャイがあったり、もちろんフレーバーティーもあり、自由な世界が広がっています。
私が海外の茶商に惹かれる理由は、このおおらかで自由にお茶を楽しむ姿勢なんだろうなぁ。
国別茶葉銘柄数
国別の茶葉銘柄数をグラフ化しました。
中国の茶葉が多くなりそうなのは先ほどの黒茶の35商品からも察していましたが、ぶっちぎり第一位の96商品。次点はインド56商品ですが、日本も健闘して40商品。
カメリア・シネンシスの地元ケベックが5商品きちんと別項目で記載されているところも好き。
カナダは寒いのにお茶作れるのかしらと思ったら、お茶ではなくハーブティーですね。でも、地元の商品を大事にしてラインナップに入れる姿勢は企業として大事だと思います。
気になる日本茶の商品の内訳をグラフにします。
Wow、マニアック!
煎茶だけで13商品あります。もちろん深蒸しかそれ以外かもきっちり商品表示あり。深蒸しは一種類でした。
英語圏のお店だと、妙に抹茶と玉露がゴリゴリ押されて後は商品展開が適当だったりするのですが、カメリア・シネンシスは日本茶に本気だってことがよくわかります。
和紅茶、釜炒り茶、かぶせ茶というラインナップは、相当日本茶を知り尽くしていないと手に取らない商品です。
それがカナダで普通に売られているというのは驚きです。日本のお茶屋さんの商品数をしのぎそうな気すらします。
日本茶の英語名
日本茶の英語名をまとめてみました。
煎茶 (Sencha)
玉露 (Gyokuro)
抹茶 (Matcha)
番茶 (Bancha)
茎茶 (Kukicha)
玄米茶 (Genmaicha)
ほうじ茶 (Hojicha)
釜炒り茶 (Kamairicha)
かぶせ茶 (Kabusecha)
中国茶とは違い、そのままローマ字読みで表記されることが多いです。
えっ、それでいいの?と若干拍子抜けする直訳加減です。
カメリア・シネンシスの日本茶のラインナップです。上記で半分程度。
この写真だけでも、日本茶へのこだわりがよくわかります。茶葉の写真が美しいですね。
玉露の茶葉の違い(色合い、細さ、直線性)なども写真である程度見分けられます。『玉露』一つをとっても6商品と選択肢が多いため、違いを分かってもらうための工夫が写真に表れているなと思います。
茶葉の紹介ページ
さて、カメリア・シネンシスのHPでは、商品紹介で個々のお茶を紹介するページもまた味わいがあります。
一例として台湾の阿里山烏龍茶(Ali Shan)を見ていきたいと思います。
茶葉を選択するとトップページは上記のようになります。
一瞬、あれテキスト情報少なくない?と首をかしげましたが、じっくり見ていくとさにあらず。
まず、茶葉の写真の下に小さな写真が載せられていてそれを見ていくと、
カメリア・シネンシスの中の人が直接茶畑に足を運び、生産者に話を聞いている写真が載っています。
この時点で美味しいのは決定ですが、この現地情報をきっちりキャッチしている部分が、右下のアイコン表記部分。
Cultivatar (品種)
Producer (生産者)
Altitude (標高)
Date of Harvest(収穫日)
収穫日の記載=茶農家との関係が緊密ということになりますし、生産者が顔を出しているということは、品質の確かさを保証していることを意味します。
収穫日をあいまいにして、古い茶葉を売る店も残念ながら存在しますから・・・。ありがたい情報です。
さらにスクロールして進むと、産地とお茶の飲み方が書かれています。
お茶の飲み方は茶葉の量、湯温、洗茶の有無、一煎目、二煎目、三煎目までの抽出時間が一覧になっています。
二煎目、三煎目がフォーマットとして普通に表記されているのもすごいことです。一煎でスカスカになる茶葉、ありますもの(涙)
地図の仕組みも面白いです。
普通なら産地をテキストで書きたくなるものですが、ここでは地図内に産地がプロットされるだけ。
これで終わりかと思いきや更に一工夫。
地図をクリックすると台湾全体の地図が現れます。
緑色の山マークは烏龍茶、茶色い+マークは紅茶の生産地(日月潭)を示します。
もちろんそれぞれのマークをクリックすると、茶葉の商品ページに誘導される仕掛けです。
すごいこだわり。そして感覚的に扱えるよくできたHPです。意図的に文字情報を減らしてるんだろうな。
そしてページの最後に大事な情報が!
フレーバーホイール、つまり香りの傾向を示した図です。下記の六種類に分類されています。
Floral (花)
Fruity (果実)
Wooded (樹木)
Earthy (大地)
Spice (香辛料)
Vegetal (野菜)
オンラインショップでお茶を買うときに困るのが、『どのお茶を買うべきか?』ということ。
カメリア・シネンシスで台湾烏龍茶を選ぶと16商品が出てきます。
この中からどれを選ぼうかというときにはまず『香り』から選ぶと予想と違った・・・という外れが少ないと思います。
華やかな香りがお好きな方はFloral(花)、
果実の香りがお好きな方はFruity(果実)
野菜の香りがお好きな方はVegetal(野菜)、
私は焙煎の強い鉄観音が好きなのでWooded(樹木)、Earthy(大地)が強いタイプを選ぶと、好みのお茶が届く確率がぐんと上がります。
100gが飲みきれない問題
ここまで見てきて、カメリア・シネンシスは購買者への気配りが行き届いた会社だなぁと感じ入っているところなのですが、私が一番素晴らしいと感じたのはなんといっても『サンプル』。
あれこれ飲みたい茶沼住民を悩ませる問題の一つは、
「50g、100gが多すぎて飲みきれない」
これもうねえ、結構切実ですよ。
毎日入れ替わり立ち代わり、世界各国のお茶をいただきたいのに、販売単位は高級茶を除いて『50g』もしくは『100g』のことが多いんです。
私は大体一回に4gの茶葉を使うのですが、100gだと25回飲まなきゃいけないんですよ。
しかも中国茶は半日飲めたりするから25日同じ茶葉を飲み続けるとか・・・、拷問です。
ただしそのお茶の個性をつかみ取るまでに3~4回程度かかりますので、15g~20gのパッケージがあると本当にありがたいんです。
さて、そんな茶沼住民の願いを実現しているのがカメリア・シネンシス。
青でマーカー引いた箇所に、サンプルが別項目である!
で、サンプルをぽちっと押すとずらっと商品が出てくるんですが、その数なんと
162商品!
すっごい。茶葉が全268商品なので約半数にサンプルが存在することになります。
先ほどの阿里山烏龍茶の商品選択の部分をクリックすると、
サンプル15g、25g、50g、100g、250g、500g、1kgから商品を選ぶことが出来ます。
ティーバッグや、贈答用の箱入りのお茶以外は全てサンプルが存在します。
内容量は10g~20g程度で、価格も$3.37~$7.57程度。嬉しい値段設定、$10以下だと財布の紐ゆるゆるになります。
これ、紅茶沼であれこれダージリンの飲み比べをしてみたい人や、普洱茶沼で餅茶を買う前にサンプルで味を確かめたい方にもうれしいサービスだと思います。
おわりに
すごいなというのが書き終わった印象です。
お茶に対する造詣の深さ、経験値の高さがビシバシ感じられるお店です。
それでいて購入者への目配りも忘れない、お茶の敷居を低くしようとする努力もあちこちに見られました。もちろん価格的にもお手頃です。
私、近い将来にサンプルをしこたま買ってしまいそうです。中国緑茶が飲みたい。
オリジナルで普洱茶を作っている店には弱いなあ。絶対美味しいと猛進してしまう(笑)
久しぶりに購買意欲に火が付いた茶商でした。
世界の茶商シリーズ