葉桜の季節
いい加減、図書館で本を借りたい!
そうおもって、土曜の午後に自転車で出かけた。
さてどこの図書館がいいんだろう?よくわからないけれど、一番近いところではなく、
キシダが友人から「レコードの品揃えがマニアック」との情報を得たある図書館へ行ってみることに。
大通りを自転車で走り、公園を抜け、つつじ並木の坂道をのぼり、
静かな住宅街の中に目的の建物をみつけた。
それまで通っていた煉瓦造りの立派な建物とは比較にならないくらい、
なんでもないクリームいろの小さな建物だ。ここにそんなにマニアックなレコードたちが?
などとおもいながら中に入り、カウンタに並んで坐って貸し出しカードをつくってもらう。
どこに何があるのかよくわからないから、とにかく下から順に見て回る。
わ、集合書架なんてある!通ってた大学の図書館みたいだ。
文庫本コーナーも充実してる。ここを端から見て回るだけで、
気がつけばきっと片手に余る本を抱えてることだろう。
で、噂のレコードコーナーを発見した!
コーナーというより「レコード室」って書いてある。
レコードという媒体がこの世の音楽メディアの中心であった時代を物語るように、
80年代までのレコードが、落語からロック、ジャズ、クラシックまでぎっしり。ものすごい数だ。
でもこれ、みんな借りてもどうやって聴くんだろね?家にレコードプレイヤがある人ばかりじゃなかろうに。
なんておもったら、試聴コーナーってのもちゃんとあって、
レコードプレイヤに向かって大きなヘッドフォンした人が、
スコアを前に、熱心にクラシックに耳を傾けていたりする。
小さなころ、黒々と光りながら回転する盤の上の、
小さな針をじっと見つめながら音楽を聴くのが、何よりすきだったのをおもいだす。
映画コーナーの充実ぶりには夢中になった。
古めかしいエイゼンシュテイン全集が揃っていて、ベルイマンに関する本がずらっと並び、
ヴィスコンティについては大学の論文でつかった本が半分以上ある!
その脇にはもちろん、ハリウッド映画やスターに関する本なんかも並んでるのが、
大学の図書館とちがうところで、おもしろい。
立ち読みしてたら止まらなくなったので、ATGが出してる映画の本を手にとって書架をあとにする。
英米文学コーナーでは、なぜかブコウスキーがずらーと並んでるのがふと目に入ってくすっとしてしまう。
予想通り、いつのまに片手は抱えきれないくらいの本でいっぱいに。
レイモンド・カーヴァーをめくってたら、書架のすぐ横にある開け放たれた窓の網戸ごしに、
木綿みたいな春の陽射しと風が頬に触れ、おもわずページから目を上げる。
人々が時折本をめくる音に、隣のテニスコートから聞こえるポーンポーンとボールを打つ音がかさなる。
あれ、今どこ読んでたんだっけ?ま、いいか。
キシダを探したら、彼はCDの棚の前で考え込んでいた。
けっきょく「Bill Evans Alone」と寺山修司作詞の昭和歌謡集を借りて、
数冊の本といっしょに自転車の籠に放り込む。
小腹が空いたから、通りすがりの和菓子屋さんで柏餅をふたつ買って、公園のベンチに坐る。
ひろい公園では葉桜が風に揺れて、ベンチは日向になったり、日陰になったり。
ゆっくり犬の散歩をする人、おしゃべりする人、携帯電話をみつめている人。
蓬の柏餅はやわらかくて青い草の匂いがして、すこし甘い。
黙って頬張りながら見上げると、新らしい、ちいさな葉っぱが春の陽射しを透かして、
半透明にいくつも重なりながら揺れていた。
新しい街での歴史は、まだ始まったばかり。
