アッシェンバッハの彼岸から -63ページ目

人生はお祭りなんだって




みたままつり   みたままつり




三連休は3日目になってようやく、おもてを散歩できるような陽気になったのだ。

朝、目覚めたら天気が良いので洗濯をして、のろのろと珈琲を淹れていたら友人からメールがきた。

「いまから日向ぼっこしに出掛けようとおもったけど、行き先を変えて江戸川公園にする。

夕方から天気が下り坂らしいから早く準備しろ」とかなんとか。

ビートルズを聴きながら、化粧もブラジャーもせずに、ペーパーフィルダの上でぷくーと膨らんでる珈琲豆をぼんやり眺めていたわたしは、にわかにあわてた。


近所でビールを2本買って、公園へむかう。

友人のバッグにはいっていたトランジスタラジオをつけたら、

「今日はハワイアン特集をお送りしていま~す!」

と、バカに陽気にDJは言って、なぜか加山雄三ばかり続けてかかっている。

頭と足を互い違いの方向に向けて仰向けに寝そべり、

加山の上手くもない唄を聴いてたら、友人がもうひとりやってくる。

昼間の1杯は、夜の5杯分。

わたしのなかの時計がぐにゃーっと歪んでくる。

日が傾き、靖国神社の「みたま祭り」へ行こうよ、と立ち上がる。


地下鉄駅から地上に出ると、酒酔いのうるんだ目には、

大鳥居とその周囲のものすごい人ごみが、まるで現実の風景じゃないみたい。

どうにか盆踊りの輪に辿り着いた頃にはすっかり空のいろは群青いろ。

「こっちこっち」と手を振るキシダの姿が視界にとびこんでくる。

盆踊りは、壇上をぐるぐる回るおばちゃんたちを手本にすればなんとなく踊れてしまう簡単さが楽しい。

日本人なのねわたしも。クラブとか大の苦手なのにね。

やっぱり踊っとかないと、とかなんとか言いながらみんなで列に加わる。

ずらーっと参道脇に並んで明かりを放つ、無数の黄色い提灯。

同じ浴衣をきて、永遠にぐるぐる回り続ける、盆踊りのおばちゃんたち。

おびただしい人々の数。色とりどりの屋台と、そこに並ぶセルロイドの原色。いろんな食べ物の匂い。

地響きみたいな太鼓に合わせてひるがえる、手のひら、手のひら、手のひら。

スピーカーから出る、割れた音。

走馬灯みたいに、原色の夜の世界がぐるぐる回っている。

ここはいったいどこなのか。夢なのか現なのか。夜なのか真昼なのか。

黄色い提灯、御霊たち。果てが見えないほど先のほうまで続いている。

回り続けるおばちゃんたちは、永遠に回り続けるゼンマイ仕掛けのオルゴールみたいだなあ。

「人生は祭りだ、ともに生きよう」

という、ある映画の、死ぬほど好きな科白をおもいだす。

人生はお祭りなのだよ。そうなんだってさ。前で踊ってるキシダの背中に問いかけてみる。

もちろん東京音頭に掻き消されたけど。


お祭りが終わるまえに、靖国神社をあとにした。

わたしは小心者なので、小さな頃からそう。帰り道が嫌い。虚脱感だとか真っ暗闇がいちばん怖いのだ。

地下鉄の蛍光灯はやけに寒々しく、下駄はしめった音を立てた。