透析歴5年、70代の患者様です。
動脈側の穿刺部の止血に30分以上かかってしまうとの相談をうけ診察しました。
右前腕に作成された内シャントです。脱血不良や静脈圧上昇はないとのことです。
ストレートに血管が発達しており、一見よさそうなシャントに見えます。

診察すると… 吻合部でシャント音がしません
(´д`lll)
肘近くまでいくとシャント音を聴取できます。
触診では、吻合部から肘の近くまではシャント血管は拍動しているのみでした。スリルはなく、固い印象です。
前腕なかほどの頻回に穿刺したところを境にしてシャント音とスリルが出てきました。

つまりこのシャントは、頻回に穿刺したことで、シャント血管が荒廃してしまい、シャントそのものがつぶれかかっていました。
荒廃した部分より吻合部側は血液がよどんでいたので触診しても拍動のみ
ただし動脈血流が流れ込んでいるのでかろうじて脱血は出来ていました。
また荒廃した部分より中枢側(体幹側)では血流は少ないのですが、返血するにあたって抵抗はないので、透析中に静脈圧が上がることがありませんでした。
このため詰まりかかった血管をまたいで穿刺していたことでかろうじて透析ができていたのでありました。
しかしこのようなシャントの運命は暗い事が多いです。特に吻合部側の穿刺には大きな問題があります。例えば、
1.内部の圧が高い血管に針を刺すため、止血に非常に時間がかかる
2.止血できても自宅などで再出血しやすい
3.すぐ血栓ができて穿刺できなくなってしまう
4.穿刺部分に瘤(コブ)を作り易く、破裂することもある
このようなシャントは透析で何とか使用できるため、見過ごされがちです。
(>_<)
もしあなたが気がついたのであれば、治療法はあります。
1.狭窄部をスキップして新たにシャント吻合をする(手術)
2.狭くなったところをPTA(血管内に風船をいれて狭いところを広げる)
この患者様と治療方法を相談したところ、2番のPTAを希望されました。
狭いところをバルーンで広げたあとは、吻合部付近の圧が低下して柔らかくなりました。
治療してからは止血時間は短くなり、早く自宅に帰れるようになって本人も満足してくださいました。
実はこの患者さんを初めて診察し治療したのは2年まえのことで、現在でも定期的にPTAを行うことで同じシャントで問題なく透析できています。
この患者様のシャントを高速道路で説明したものはコチラ
”吻合部から連続する、力強く、優しく、しなやかなスリル”
私たちの目指している、健やかなシャントを文学的に表現するとこんな感じでしょうか(^▽^;)
そのシャントは健やかですか?
”とりあえず刺せているからいいや”
私はこの言葉が嫌いです。
健康的なシャントは患者様にも医療スタッフにも優しいものです。
近いうちにスリルとPTAについてお話したいですね。