ノルマンディー上陸80年の政治学 | 歴史ニュース総合案内

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 第二次世界大戦で連合国軍がフランスに入ったノルマンディー上陸作戦から80周年になるのを祝う式典が6月6日、ノルマンディー地方の各地で開かれた。ジョー・バイデン米大統領はポワンデュホックでの記念式典で演説し、ウクライナを攻めるプーチン露大統領を現代のナチス軍に見立てた。

 半数以上の第2レンジャー大隊が犠牲になっても、オマハビーチやユタビーチから米兵がオック岬の断崖を登る1944年6月6日(D-DAY)からの上陸作戦(オーバーロード作戦)を成功させた事績に触れてバイデンは、彼らが自分の命よりも自由と民主主義の使命を上に立てたと称賛。彼らを見習い、外国および国内の侵略者たちに立ち向かうよう促し、ロシアとの戦いを続けるウクライナを支援するよう呼びかけた。ドワイト・アイゼンハワーが指揮したこの作戦を顕彰して、共和党のロナルド・レーガンも大統領だった時に名演説を行っている。

 式典には欧州の首脳陣が集まったが、ウクライナをネオナチと呼ぶプーチンは招かれなかった。クリミアを併合して間もなかった2014年の70周年式典とは対照的だ。式典後に首脳陣がノルマンディー・フォーマットをつくってミンスク合意でロシア系民兵とウクライナ東部の争いを止めさせたのとは逆に、欧米はイタリアのG7サミットから「平和サミット」に至るまでウクライナへの武器提供を決定している。

 

 ネオナチ掃討を名目に掲げるロシアは、明らかに戦争の大義を立てる上で失敗している。EUの欧州議会選挙で極右陣営が議席をまた伸ばしたが、そんな極右とロシアは仲が良いという。この図式はプーチンがウクライナをネオナチに見立てて攻撃しているのと矛盾しており、欧州の極右は目的達成次第あっさり用済みと切り捨てられる姿しか見えてこない。つまり、彼らと連帯を自己否定するロシアの戦争プロパガンダは落第点である。

 それでもロシアが戦争を戦えているのは、ウクライナ側が敵をプーチンだけにしておけばよいところ、ロシア文化全体を敵に回しているためである。ロシアの芸能界から成りあがって出世した「国民のしもべ(スルハ・ナロード)のヴォロディーミル・ゼレンスキー大統領はウクライナ語で演説してロシアからの離反を煽るばかりだが、ロシア語で演説していれば今頃勝利でき、プーチン政権は崩壊していただろうが、国際マスコミがその失策を糾弾することはない。苦戦が伝えられるウクライナ側最大の失策は目の前にあり、言語問題は今なお極めて重大だ。