紫式部日記に挑む古川日出男 | 歴史ニュース総合案内

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 作家の古川日出男が古典「紫式部日記」を題材に『紫式部本人による現代語訳 紫式部日記』を2023年11月に刊行した。河出書房新社の日本文学全集で池澤夏樹に源氏物語を担当させてもらえなかった無念を晴らした。

 藤式部(紫式部)が1000年代につけていた日記の内容を現代語訳。とはいっても、紹介の段階で「ブルーでグルーミー」と横文字が使われているように謹厳な訳文でなく、会話体による勝手な訳文である。河出の日本文学全集では前近代の古典を現代作家が結構自由に訳しており、古川も平家物語で自由な訳文を披露していたが、それ以上に崩れている。古川に源氏物語は任せられぬと池澤にダメ出しされ、角田光代に源氏を回された古川が、『女たち三百人の裏切りの書』で紫式部の怨霊に源氏の宇治十帖の世界を語らせた経験をもとに挑んだ。

 藤原彰子に仕えた藤式部の紫式部日記は1008年の記録が最も多く、1010年まで続くが叙述に体系性がないという。同時期に出仕したことのない清少納言への否定が特に著名だが、和泉式部や赤染衛門(匡衡衛門)のような同僚への人物評もある。

 

 河出書房新社の雑誌「文藝」で、古川は『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』を連載していた(6月18日に単行本化)。コヴィッド19の中で文化人と交流したり、京都紀行したりする同作では、小野篁や紫式部や三島由紀夫を現代に転生させるというネット小説展開を実行。この中のレディ・ムラサキは現代語訳の紫式部と接続している。といっても、古川紫式部日記はネット文学と違って、現代人に寄り添ってくれない文体である。

 

 (パンデミックオペラをカクヨム等ネット文学の新人賞に出したら「現代の若者の好む文体ではない」との理由で一次予選落ちになるだろう。この辺りのネット文学界の異世界の本質があらわれている)