東洋史が優位に立つ歴史学の世界 | 歴史ニュース総合案内

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発掘も歴史政治も歴史作品も

 ここ20年来広く流通している世界史の定番シリーズを西洋(欧州、北米、オセアニア)と東洋(アジア、アフリカ、中南米)で比較した場合、どちらがより多く歴史の舞台になっているのだろうか。

 

 中央公論新社「世界の歴史」・・・東洋18、西洋10、両方2

 岩波講座世界歴史・・・東洋11、西洋4、両方13

 講談社『興亡の世界史』・・・東洋12、西洋6、両方2

 山川出版社『世界各国史』・・・東洋10、西洋17、両方1

 

 この中で最も浸透度の低いだろう世界各国史以外は東洋の方が強い。岩波講座で両方を扱っている巻では、特に20世紀になるとアジア等の東洋世界を扱うものが並ぶ。こうなったのは、中華と西欧の挟間にあるイスラム世界の扱いを増やしたからだ。

 歴史学の世界を離れても、日本近代史を語るにはアジアの植民地化と征服行為が不可欠だ。歴史戦争と呼ばれる歴史政治は、紛れなく東アジアが主役だ。世界文化遺産は西洋よりも東洋の知られざる遺産に広く報じられる価値を与え、韓国や中国の時代劇が西洋時代劇よりも圧倒的に多く放送されている。

 

 世界史の歴史学で東洋優位は20年以上続いてきた。それでも、他の分野に視野を広げると、一般の関心はまだまだ西洋史優先となるだろう。歴史知識の基礎になる世界史の学習漫画だと、古代中世の東洋と近世以降の西洋は五分五分になる。

 歴史学の世界では東洋の方が強くとも、近世以降の歴史的文学の世界となると西洋が圧倒的に優位だ。近代西洋哲学の前で東洋哲学は過去の遺物となり、芸術だと工芸は東洋側が張り合えても、名画や音楽となると西洋にかなわない。魔法ファンタジーの標準は中華でなく「西洋中世」(ちっとも現実の中世でないが、名前は西洋人)が基本で、近代科学や技術は西洋の独壇場だ。同じくらい説教臭くとも、キリスト教は仏教やイスラムよりも自由主義なイメージがついている。

 東洋は国家と政治の公的な言説空間で優勢だ。だが、人の私的な心理に直接働きかける近代文学や音楽、名画の世界が圧倒的な西洋優位なのでは、出版市場は西洋を志向してしまう。西洋文学専攻は歴史専攻よりも圧倒的に多い。

 歴史談議で人気の戦国武将と幕末談義は、歴史学ではそれほど人気がないことは巷間よく知られている。だが、東洋史を優先する歴史学会の関心のズレは大して指摘されない。