次の日に大学に行き
彼女の姿を探して学内を歩き回った
運動場、食堂、購買、図書館、講義室

だがどこにも彼女の姿を見つけることはできなかった
狭い学内なのになんで一人の人間を見つけることがこんなにも難しいのだ

結局彼女とは縁がなかったのかもしれない…

僕は夕方にうなだれて家路についた


翌日これが最後なら諦めようと思って
大学に着くとすぐにサークル室に行った
もしかすると新入生の名前を貼り出しているB紙に彼女の名前があるのではないかと思ったのだ

だがやはりそこに彼女の名前はなかった

もう彼女のことは諦めるか

半分そう思ったが
タケさんがいたので
新たなオルグも含めて一緒に短大生の教室まで行ってみることにした


そこでやっと彼女を発見した!

話を聞いてみると

「まだサークルには入ってないです。でもセツルはやってみたいと思います。それでいまは友達が入った違うセツルに入ろうかと思ってます」

とりあえずまだ他のセツルに入ってないと知りホッとした

「もう少し話がしたいから時間を作ってくれないかな?」
と聞くと

「それなら講義が終わる3時半以降ならいいです」

サークル室には行きづらいということだった
みんなでよってたかって強要されるような雰囲気が苦手だということだった
確かにそうだろう
それで図書館で待ち合わせることにした

3時頃に図書館に行くとあぶさんとマサカリが勉強していた
僕は軽く手を上げて挨拶すると二人から離れた場所に座わり
就職活動の為の問題集を広げた

3時半に約束通り彼女がやって来た

「とりあえず外に出ようか」
と言って図書館を出ると
あぶさんとマサカリが驚いたような顔でニタニタしながら僕らを目で追っていた

「どうしよう。ここで話してもいいけど、もう今日は予定もないから帰りながら話そうか?」
というと

「どっちでもいいです」
というので帰りながら話すことにした

校門を出る直前にプッチとナーナとすれ違い
二人が僕らを見て
ニタ~と笑いながら通り過ぎていった

地下鉄や電車の中で各パートの子供の特徴とか実践を話していった
彼女は真剣な顔で話を聞いてくれた

自分が降りる駅になっても話し足りなかったので

駅で降りて近くの喫茶店「さぶりな」に誘って話し込んだ
「さぶりな」はビルの2階にある落ち着いた和風の喫茶店だ


「実は金曜日の日にサークルボックスに行った時にもう入ろうかなって思ってたんです。でもなんとなく言わなくて…そのうち友達が入った他のセツルの一年生集会に出てみたらいいムードだったんで、今日の講義の時、よし!友達のいるセツルに入ろう、って決めたんです」

う~ん、そうだったのか
やっぱり難しいのかなぁ
と思いながらも自分の過去の実践や家庭訪問の話をじっくり話していった
彼女はそんな僕の話を真っ直ぐな目で真剣に聞いてくれた

「本当はうちのセツルでも友達の入っているセツルでもどっちでもいいんでしょう?」
と聞くと

「うん」
と言った

「それならうちにおいでよ。いろいろ面倒見てあげるから」

「うーん…どうしようかな」

「うちにおいでよ」

「入ろうか…」

「決めなよ」

「うん!」

彼女はにっこり笑ってそう言った


よっしゃ~!やったぞ!

「よし、じゃあ入ることはいいんだね」

「うん」

「実は明日、新入生の歓迎合宿があるんだけど、急な話で悪いんだけどできれば出て欲しいんだけど」

合宿は一泊二日だ
急な話だし親御さんとも相談しなくてはいけないだろう
難しいな…
と思っていると

「あのね、日本舞踊みたいなことをやってるんだけど、明後日の午後にその発表会があるの。二日目に早く帰れば間に合うから今日お母さんと相談してみます」
ということになった

それで合宿にもし行けるならその準備をしてくる、合宿が無理でも明日の昼休みにサークル室に来て入セツの手続きをする
ということに決まった

喫茶店を出ると6時を過ぎていた
改札口まで彼女を見送った

彼女はペコリと頭を下げると
ニコニコして何度も振り返りながら駅の中に消えて行った


我ながら今日はよく頑張った…

まるで奇跡のような一日だった

いままで溜まっていたストレスのようなモヤモヤが一気に吹き飛んだようなすがすがしい気持ちだった


次の日に合宿の用意をして大学に行くと
あぶさんがニヤニヤして寄ってきた

「なにさ?」
と聞くと

「昨日のこと、みんなに話ちゃった!」

むむむ

やっぱり喋ったか…
まぁ仕方ないな

彼女が今日の昼休みに来ることを話そうかと思ったが
ちゃんと入セツするまで黙っておこうと思った

へへへ

昼休みにサークル室で待っていると1時頃に彼女がやって来た

Gパンに白い綿シャツ、黄色のブルゾンというボーイッシュな格好で可愛かった

その時サークル室には男ばかりが5人ほどいたのだが彼女がうちのセツルに入ると分かると

「うぉ~!」
という大歓声が起こった

そんな雰囲気だったので新入生の名前を紙に書く手が震えていて可哀想だった

僕が
「合宿はどう?行ける?」
と聞くと

「行ってもいいです」

「えっ?用意してきたの?」

「はい」

「じゃあ、第一陣は3時45分に出発するからその時に来てくれる?」

「はい」


みんなが彼女を見て
「ドングリに似てる~」
と言っていた

ドングリは僕と同じ4年生になる女のコだ

う~ん
自分はそうは思わないんだけどなぁ


僕は午後からサブゼミがあったので第一陣が行ってしまった後にライアンの車に同乗して知多半島の民宿に遅れて行った

7時頃に民宿に着くとしばらくしてから新歓合宿が始まった

まずは入セツ式
先輩から新入生にガリ切りした入セツ証書というものを一人一人に渡すのだ
僕はカメラマンを買って出た

数人後に
「次、コロコロ!」
と呼ばれた

あれ?そんな子いたっけ?

と思っていると
それが彼女のセツラーネームだった。









卒業生が去って
しばらくすると4月になった
また新しい一年が始まるのだ

別れていく人達との寂しさの替わりに
春は新しい出会いを運んでくれる

それにボンヤリしているだけでは何も変わらない


ある人がこう言った

「人生は一冊の書物に似ている。馬鹿者たちはそれをペラペラとめくってゆくが、賢い人間は念入りにそれを読む。何故なら彼はただ一度しかそれを読むことができないことを知っているからだ」


まったくその通りだと思う
僕も愚か者にならないように念入りに人生のページをめくっていきたいものだ


4年生になって
本当だったらサークル活動を引退して
ゼミ活動や就職勉強に専念しなくてはならい時期だった
実際自分もそうするつもりだった


あとは2・3年生に任せて自分の進路の為に時間を使っていこう
そう思っていたある夜
家の電話が鳴った
ジャケイからだった

「あのさ、いま新歓実行委員会が中心になって頑張っとるんじゃけど、オルグ活動が停滞しとるんよね。みんな一生懸命声をかけてるんだけど全然入ってこなくて、みんな自信を無くしてヒヨリそうなんじゃ。4年生にあまり頼っちゃいかんと思うんじゃが、時々サークル室に来てみんなと話したり、たまにオルグを手伝ってもらう訳にはいかんじゃろか」


う~ん
しょうがないなぁ…

面倒というよりも
頼られることをうれしく感じた


翌日から同じ4年生の
あぶさんやライアンに声をかけてオルグを手伝うようにした
サークル室にいる後輩を見つけては

「よし、いまからオルグに行こう」
と声をかけ
キャンパスでウロウロしてる新入生を観察しては

「あの子達がよさそうだ。行ってこい」
とけしかけて
話が詰まっているようなら一緒に加わって話をした

いくつかのサークルから声を掛けられどれにしようか悩んでいる新入生も多くサークル室の前でちらちら覗いている人を見かけると中に入ってもらって話をした

新歓実行委員のミッキーともよく話すようになり昼休みになると食堂前で

「あっ、あの子達この前話した子だ」
とミッキーが言うと声をかけて話していった

中には
「あっ、私セツルに入りたいんです」
と言う女の子もいて
少しづつ新入生が増えていった

ある日そろそろ家に帰ろうかと思って門を出ようとした時に
近くにいた二人組の女の子に声をかけた

なんとその内の一人が自分と同じ町から通っている子だった
うちの大学は地元よりも遠く離れた町からやって来て下宿する学生のほうが多かったので
地元の学生はむしろ少なかったのだ
だから地元の話題で話が弾み
もう一人は用事があると言って帰ったが
その子と一時間以上話す事ができた

ショートカットでちょっとボーイッシュな感じの子で
話す時にしっかり僕の目を見て話してくれた
美人タイプではないがクリッとした目が印象的な可愛い子だった


翌日なぜかその事をみんなが知っていて
プッチから
「わぁ、ナッツさん昨日女の子と2時間も話しとったんやて~」
と冷やかされた


それからその子のことがすごく気になって
なんとかうちのサークルに入れたいと思って学内を探していたのだがなかなか会えなかった

10日以上過ぎてもう諦めかけたある日
彼女に会った

「ずっと探してたんだけど全然会えなかったね。大学に来てた?」

「はい来てました」

「もうサークル決めた?」

「いえ。いろんな人にいろいろ言われて何がなんだか分からなくて」

「そうか…また話したいから話そう」

「でも先輩はこれからあまりセツルやらないんじゃないですか」

「う~ん、家庭訪問とかはいかないけどちょくちょく出るよ」

「……」

「また会ったら話そう」

「はい…じゃあ」

やっぱり話してみると素直で真っ直ぐないい子だった
まだ他のサークルに決めてない事を知ってホッとした
できればうちのサークルに入って欲しいものだ

しかしどうやったらうちのサークルに入ってくれるだろうか?
いままで何年もオルグ活動をしてきたが
これといった決め技を僕は持ってなかった


でも本当は決め技などないのだ
結局決めるのは本人なのだから

それでも悶々とした気持ちのまま日々は過ぎていった

数日後サークル室に行くとタケさんに

「昨日の夕方に『ナッツさんにオルグされました』っていう女のコが来たよ」
と知らされた

どうやらあの子のようだった
結局「他のセツルの話も聞いてから決めたい」
と言って帰ったということだった

ほぉ~
あの子が自分からボックスに来たか
これはかなり脈があるんじゃないかな

それが4月26日のことだった


自分にはちょっと気がかりなことがあった
それは新入生を歓迎する新歓合宿が5月2日にあるということだった

もう新歓期は終わりになろうとしていた
もちろんそんなことを気にしないで後から入セツしてもいいのだが
できればそれまでにサークルに入ってもらって新歓合宿にも参加して欲しいと思ったのだ

合宿に間に合えば同じ新入生や先輩達との交流が深まってサークル活動にすんなり入っていけると思ったのだ

そんなことを考えて校内を探すのだがなかなか彼女に出会えなかった


ある夜夢を見た
僕がサークル室に行くと新入生の名前が張り出されているB紙に彼女の名前が何故かカタカナで書かれていたのだ
しばらくすると彼女がサークル室にやってきて
「良かった、良かった」
と喜んでいるめでたいぐらいハッピーエンドの夢だった


目を覚まして改めて感じた
やっぱり彼女をうちのサークルにどうしても入れたい
できれば新歓合宿にも連れて行きたい

逆算すると今日、明日には彼女を入れなくてはならなかった

僕は彼女に会う為だけに大学に行った。







汽車を待つ君の横で僕は
時計を気にしてる
季節はずれの
雪が降ってる


「東京で見る雪は
これが最後ね」と
寂しそうに君がつぶやく


なごり雪も降る時を知り
ふざけ過ぎた季節のあとで


いま春が来て
君はきれいになった
去年よりずっと
きれいになった


動き始めた汽車の窓に
顔をつけて
君は何か言おうとしている


君のくちびるが
「さようなら」と
動くことが
怖くて下を向いてた


時がゆけば幼い君も
大人になると気づかないまま


いま春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった


君が去ったホームに残り
落ちては溶ける
雪を見ていた


いま春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった