自分の中で少しずつコロコロの存在が大きくなっていった
同じパートになったこともあって4年生でありながら
まだパート会に時々顔を出していた

コロコロと少しでも会う機会を増やしたいという下心もあったのだが
自分の中でそんなやましい気持ちを認めたくなくて
新入生が4人もいるのに
先輩セツラーが2年生のジャケイ1人では可哀想だから自分も手助けしているのだと自分自身に言い訳していた

だがもう6月になろうとしていた
いくらなんでもサークル活動をそろそろ終わりにして就職活動に本腰を入れなくてはいけない
自分の中でコロコロのことをはっきりさせて
就職活動に専念しなくてはいけないと思った


コロコロとは同じ街に帰るので
パート会が終わってから一緒に帰ることもよくあった

まずはデートに誘って自分の気持ちを打ち明けたい
そう思っていた

だが会話が盛り上がる時もあれば全く盛り上がらない時もありコロコロという女のコが僕はだんだんと分からなくなってきた

ある帰り道
その日はコロコロがわりと積極的に話してきた

「4年生ってもうじきあまりこれんくなる?」
「う~ん、そうだね。もう就職活動しないといけないからね」
「昨日ね~、詩舞の大きな大会があったの。土曜日もその練習があったの」
「そうなんだ。だから実践に行けなかったんだ」
「風邪いつ頃からひいてるの?あたしも1ヶ月ぐらいになる」
「僕も長いよ。なかなか良くならないんだ」

ん?なんか今日はいい感じじゃないか

「パート会は慣れた?」
「うん。でもなんか苦痛。なにか聞かれても、言うことがなくて」
「じゃんけんに入ってどう?」
「う~ん、子供はひよっこのほうがあってると思う」
「え~、そうなの?前と言ってることが違うじゃん。それならじゃんけんに引っ張って悪かったかな?」
「…でも、じゃんけんに入って良かったと思ってる」
「それなら良かった」

うんいい流れだ
思い切って映画に誘おうと思った

「なんか最近疲れがとれなくてね、パーっと遊びに行きたいなぁ」
「最近どっか行った?」
「行ってないよ。映画でも見たいな」
「前も言ってたね。寅さんの映画?」
「うん、いいよね。コロコロは映画行きたくない?」
「ううん。あたし映画に行くと頭が痛くなるから。よく家にいたいとは思う」
「うん…そっか」

やっぱり誘いきれないなぁ…


そんな感じの煮えきらない日々が続き
6月中旬になってしまった
あるパート会の後
ヒミコとコロコロの3人で帰った
途中の駅でヒミコが降りてコロコロと二人だけになった

同じ街でもコロコロが降りる駅は僕が降りる駅の少し先だ
でも乗り換えの為コロコロも同じ駅で降りる

「本屋で探したい本がある」
そう言うので僕も暇つぶしに駅ビルの2階にある本屋に付き合った
だが彼女の気に入った本は無かった

「じゃあ帰ろうか」

と言って二人で階段を降りる途中の踊り場で
もう今日言わなければ自分の気持ちを打ち明ける機会はないと思った

「あのさ…」

気の遠くなるような思いでコロコロを呼び止めた

「コロコロ、ちょっといいかな?」

「ん?なに?」
コロコロはキョトンとした顔をしていた

僕は緊張で少し指先が震えていた

「あのさ~コロコロ。いま好きな人いる?」
彼女はいつものようにニコニコしていた

「別にいない」

「う~ん、あの~こんなこと言っていいのか分からんのだけど。僕は…つまり…コロコロのことが好きなんだ」

気が遠くなりそうだった
しばらく次の言葉が出なかった
コロコロはニコニコしたままだった

「ごめんね、急にこんなこと言って。…どう思った?」

「うれしかった」

この言葉を聞いて救われた気持ちになった

「なんて言ったらいいのか分かんないだけど…僕がコロコロのことを前から好きだったっていうこと知ってた?」
「ううん、知らなかった」
「ほんとに言ってどうしようっていう展望は何もなかったんだけど、でもとにかく自分の気持ちを伝えたくて」
「でも、わたし駄目…二重人格っていうか。家に帰るとすごく威張っていて、家族に当たり散らしているの。そんな資格なんてない」
「二重性っていうのは誰でも多かれ少なかれあるんじゃないのかなぁ」
「わたし…なんかちょっと想ってる人がいるんだよね。中学の時の人が」
「その人はいまどうしてるの?」
「知らない」
「う~ん、もっとコロコロと話がしたいから今度また話したいんだけど」
「うん…でも、お付き合いするのって、きっとわたし駄目だと思う」


会話が行き止まりまで行ってしまったような感じだった
今日はもうこれ以上話すことができそうになかった

仕方なくコロコロを駅の改札口まで送って別れた

コロコロはいつものように優しい目でニコッと笑ってくれた

彼女の姿が見えなくなってからあれこれ考えた

やっと自分の気持ちが伝えられた
しかしこれはどうなんだ
やっぱり駄目なパターンなんだろうか

いや
まだ結論は出ていない
簡単に諦めなくてもいいんじゃないのか



次の夜に思い切って彼女の家に電話したが留守だった
それで翌日の夜にまた電話した

「あっ、コロコロ?いま帰ってきたの?」
「うん、いま帰ってきた」
「昨日も電話したんだ」
「うん、聞いた。昨日はパチンコをやってた」
「そうなんだ。あのさ~明日か明後日で空いてる時間ない?」
「う~ん、講義やサブゼミがあるから」
「明日はパート会がいつもより遅い時間になるから3時はどう?」
「う~ん、いいよ」
「場所は図書館でどう?」
「うん、図書館の前?」
「うん、そうしよう…じゃあ明日の3時に」
「おやすみ」
「おやすみ」

受話器を置くとため息が出た
緊張したなぁ

明日は気合いを入れて頑張るぞ

そう心に決めて風呂に入った

ベッドに入ってからも明日は何を話すべきかをあれこれ悩みながら考えていた。








新歓合宿が終わってから風邪をひいて体調を崩してしまった
それで1週間ほど大学を休んだ

久しぶりに大学に行くと生協の前でプッチに会ったので
自分が持ってきた新歓合宿の写真をベンチに座って二人で見ていた
すると通りかかったボッチや火星人も一緒になってワイワイと話をした

その後みんなと別れてサークル室に行くとシチューがいて
「ね~ナッツ、いいこと聞いちゃった!」
と言うので

「なに?」

「ナッツ、彼女ができそうなんやて」

といって新入生の名前が書いてあるB紙のコロコロのところを指さした

なんちゅ~やつだ!

しかしヤバいなぁ
自分がコロコロに好意を持っているということがかなり広まっている
それが悪い結果を招かなければいいのだが


自分がいなかった一週間の出来事を聞くと
コロコロはまだどこのパートにするか決めてないということだった
少し前には幼児か児童がいいということで
「ひよっこパート」の実践に行ったらしい
ひよっこに入るとちょっと縁遠くなるなぁ
とふと考えた

それからしばらくして、学内を歩いているとコロコロに会った

「久しぶりだね」
「うん、すごく久しぶり」
「パートはひょっこになったの?」
「まだ決めてないけど」
「実践はひよっこの実践に出たんでしょ?」
「うん」
「よく地域に行けたなぁ」
「あのね、一度大学まで来てそれからみんなと一緒に行ったの」
「そっか、それなら確実だね。でもそろそろパート決定したほうがいいよ」
「うん…、あたしあんまり幼児は合ってないみたい」
「どこがいいの?」
「ありんこ(小学1~2年)かじゃんけん(小学3~4年)とか」
「う~ん、それならどう?今度うちのパートの実践に来てみない?」
「う~ん」
「今度の実践はね、川にハイキングに行くんだ。お弁当を持って。じゃんけんって面白いよ」
「う~ん、どうしよう」

いろいろ話しているうちに次の実践はお試しでじゃんけんに来てみることになった

その日はあぶさんの下宿に行ってジャケイ、ライアン、ちくわ、マサカリと女のコの話で盛り上がった

「ナッツ、コロコロに行け!」
とみんなにうるいほど言われてウンザリしてしまった

マサカリがボソリと
「でもさ、図書館でナッツとその子を見た時、『あっ、お似合いだな』って思ったぞ」
と言った
その言葉はうれしかった


その数日後に実践があった
じゃんけんの実践に集まったセツラーはジャケイ、あぶさん、ちくわ、ヒミコ、僕とコロコロだった
子供は12人
第二公園から歩いて30分ほどの天白川に向かって出発した
初めコロコロは黙ってみんなについて歩くだけだったので僕が
「自分から子供に話かけて行かないと駄目だよ」

と言って女の子達と話しながらそこにコロコロを巻き込むようにしていくと徐々にみんなの会話の輪に入れるようになっていった
川に到着すると早速みんなで川遊びを昼までやった
僕は女の子と男の子の間を交互に回って遊んだ
コロコロも女の子を二人ぐらい連れて一緒に川の中を歩き回っていた

昼になってからみんなでシートをひいて持ってきたお弁当を食べた
僕は弁当を持ってこなかったので他のセツラーの弁当を分けてもらったり子供の弁当を分けてもらって食べた

昼からは川の横の土手でドロジュン(泥棒と巡査という鬼ごっこのような遊び)をした
さんざん走り回ったのでクタクタになってしまった
第二公園まで戻って解散すると3時になっていた

帰りはコロコロと一緒に帰った

「どうだった?じゃんけんの実践は?」
「疲れた」
「そうだね。子供と一緒に遊ぶっていうのは体力がいるからね。その他はどう?」
「う~ん、はじめは緊張したけど、だんだん慣れていくと面白いかも」
「それなら良かった」
「うん」

帰りの電車の中でいろんな話をした
今まであまり聞かなかった家での様子や家族の話を初めて聞いた
コロコロは家ではかなりわがままで自分がいないほうが家族は喜ぶだろうと言うのでちょっと驚いた

う~ん
素直なコという今までのイメージとは本当は少し違うのかも知れない


その数日後
コロコロが僕と同じじゃんけんパートに入ったと聞いた

よし!

結局その年のうちのパートの新入生はメンタン(♂)、ちくわ(♂)、ヒミコ(♀)、コロコロ(♀)の4人になった
良かった良かった
それまでパートの後輩は2年生のジャケイ一人だけだったのだ

慣例によると4年生はあまりサークル活動に縛られなくて
空いた時間の中で自主的に参加するという感じだった
でも僕は、実践、パート会、部活動に時々顔を出すようにはしていた
部活動はサークル対策部に所属していて部長はミッキーだった

ある日学内のベンチで座っているとミッキーが通りかかって話かけてきた

ミッキーはサークル対策部の部員がみんなやる気が感じられなくて部活動が憂うつだと漏らしていた
「なんか元気が出ることってないかしら。も~、どっかに行って何もかも忘れたい。サークル対策部でもこれからどうやっていくのかよく分からないし…新入生の話を聞いてさ~、ショックだったんだよね。一番楽そうだから選んだとか…なんか、部会が一週間の中で一番憂うつなの」

う~ん
想像以上にストレスが溜まっているようだった
誰かに愚痴を聞いて欲しかったのか…
さりげなく誘っているのか…


その日は夜にじゃんけんパートのコンパがあった
山根と天白の合同で場所はポテトの下宿だった
メンバーはあぶさん、ジャケイ、メンタン、ヒミコ、ちくわ、パーマン、チョンコ、ペコ、ピーコ、ゴキボン、他のパートからは火星人、カール、メンチ、ターザン、ボンボンが来た
コロコロは体調が悪くて来れなかった
残念…


パーマンが
「疲れた、疲れた。ちょっと悪いけど横にならして」と言って横になった

新入生のピーコが誰が好みのタイプかという話になると
「ミッキーさんがいい。ミッキーさんがいい」
と繰り返し言っていた

それを聞いたパーマンが
「おいピーコ。悪いけどオレの尻をもんでくれや。痛くて痛くて…ミッキーの尻だと思ってよ」
と言ったのでみんなが大爆笑した

ピーコがうつ伏せになったパーマンの尻をもみながら目を閉じて
「あ~ミッキーさん」
と言ったのでまたまた大爆笑になった

ミッキー人気があるなぁ


ふふふ。










「コロコロって、なんでそういうセツラーネームになったの?」

入セツ式が終わってから彼女に聞いてみると

「あのね、ドングリっていう人に似てるっていわれて、ほら『ドングリコロコロ』って唄があるでしょ。だからコロコロになったの」

「な~んだ、それでか。面白いつけ方だね」

「うん」

それからコンパになって各パートがそれぞれの出し物をやって飲めや歌えやのいつものパターンになった
12時頃にやっとバカ騒ぎが終わった

その後は「夜な夜な語ろう会」だった
これは特に決まり事はなく個人個人で適当に朝まで語ろうというものだった

僕は初めミッキーと話していた

「あたしさ~、この前に地下鉄で痴漢にあった!」
「え~!大丈夫だったのか?」

という話から最近のお互いのいろんな話をして
その後ターザン、タケさん、ポテト、ライアン、赤シャツのグループに合流してゲームをした

新入生も加えたかったので自分がコロコロを引っ張ってきて一緒に遊んだ

ターザンいわく
「アインシュタインの相対性理論に基づく指数関数の法則」というゲーム
と言っていたが
要するにコンパでやるようなその場を盛り上げる簡単な指を使ったゲームだった
「これ基本型。これがライアンで、これがポテト。じゃあこれは誰?」
という感じのものなのだが
それでも分からない人はいつまで経っても分からないゲームで結構盛り上がった

そんことをやっていて
ふと時計を見ると3時半を過ぎていた
まだコロコロが起きているので

「寝なくていいの?」
と聞くと

「ずーっと起きてれば大丈夫」
「少しでも寝たほうがいいよ」
「うん…」
「何の踊りだっけ?」
「あの~詩吟(しぎん)って知ってる?あの舞いで詩舞(しぶ)っていうの」
「級とかあるの?」
「明日がその級のテストなの」

そんな話をしてやっと寝たのは4時半だった


次の朝は8時頃にみんな起きた
外に出てみんなで写真を撮った
朝食後、用のある人は一足早く帰っていった
コロコロも同じ一年生のチッチと一緒に帰っていった
見送りの時にコロコロが何度も振り向いて僕の方を見ながら手を振ってくれたのがうれしかった


コロコロ可愛いなぁ…


一人でニヤニヤしているとライアンがやってきてボソッと言った
「あんた、公園の砂場からいちやく富士山の8合目まで登ってきたな」


ふっふっふ…あほか!


新歓合宿は昼過ぎに終了し
僕はライアンの車に乗せてもらって近くの電車の駅で降ろしてもらい家に帰った

楽しい合宿だった
頑張って入セツさせたコロコロもきてくれて楽しめたようで満足だった
自分にもほんのりとした甘い余韻が残って心が弾んでいた



家に帰るとオコシから手紙が来ていた

少し前に僕からオコシに近況を書いた手紙を送った返事だった

僕は震える手で封筒を切った

オコシの手紙は便箋3枚にわたる丁寧なものだった
そこには故郷に帰って保育士として保育園に勤めるようになった緊張した日々の生活が綴られていた
手紙の終わりにはこんなことが書かれていた

「学生の時はナッツさんに本当にお世話になりました。ありがとう…もっと早くからもっと気軽に話しができていたらなぁ…なんて思います。時々下宿で話しあったことを思い出しています。本当にきりがなくて楽しかった…カセットも録音したのをもらって…わたし『八ヶ岳』とっても好きです。懐かしい感じでよく聴いてます…本当にありがとう。こんな手紙でよければいつでも書きますから…お手紙待ってます」


うれしくて
僕は何度も何度も手紙を読み返した


夜になって机の引き出しから以前オコシの下宿で一緒に撮った写真を引っ張り出して眺めた

そこにはテーブルを前に並んで写る二人の姿があった

テーブルの上にはコーヒーカップが二つ
オコシのカップはピンク
僕のカップは黄緑
ペアカップだった

彼女は赤いハイネックのセーターに白地に黒い線のはいったカーディガン姿だった
ちょっと照れて頬を赤く染めている

僕は茶色のハイネックに白っぽいシャツに白地に紺色の格子柄のコート姿で
口を真っすぐに結んで緊張してこわばった顔をしていた

ふふ
緊張してら

そりゃそうだ
大好きな人と二人だけで撮った写真だもんな


写真だけみれば
まるで恋人同士のようだった

もし本当に恋人同士だったらどんなにか素晴らしかったことだろう…


懐かしいな

まだそんなに昔じゃないのにずいぶん前の事のように思えた
自分の中でオコシの事はもう終わった恋だとふんぎりをつけていたつもりだった

でも本当はどうなんだ?
近況を書いてくれた手紙をラブレターの返事のようにドキドキして読んでいる自分って…


それが自分の本当の気持ちだというのが分かった

でもコロコロに対して芽生えた気持ちも正直なものだった


いったいお前はどうしたいんだ
我ながらいい加減な奴もんだなぁ…

そんなことを考えつつ
いつの間にかウトウとしていた

だってさぁ
どっちも好きなんだからしょうがないじゃないか


結局そう開き直るしかなかった。