就職活動の中で人事担当者と接するうちに
最終的に合否を決めるのは必ずしも成績表の優の数ではない
ということが段々と分かってきていた

もちろんある程度の学力は必要なのだが
企業が見極めたいのは
困難な状況でも前向きな人生観や人とちがう切り口を持った学生を探しているような気がしてきた


「○○コンタクトレンズ」の面接までにまだ時間があったので
「○○信用金庫」に2回目の会社訪問に行った
学生は自分の他にもう1人だけだった
初めに前回と同じ人事部の人が応対してくれたが途中から50代ぐらいの重役の人も加わって2対2で話をしてくれた
その重役風の人ともう1人の学生が同じ大学で
その人は後輩にばかり見て話し掛けていていた
なんだか疎外感を感じた
これもコネの一つなんだろうなぁ

スーパーの勉強をする為にライアンと
「○ニー」や
「○○ーフーズ」の顔といわれる店舗を8つぐらい見て回った

一番印象に残ったのは3階建てぐらいの広い売り場面積を持った店で
生鮮食品の他に服飾関係の店舗やファーストフード店、子供が遊べる広場や本屋があり
地元の店がテナントとして約3分の1ほど入った大型ショッピングセンターだった
いまではそんな店は当たり前だが当時は画期的な店舗だった
「こんな店で働いたら面白いだろうなぁ」
二人で顔を見合わせて思わず呟いた


やがて「○○コンタクトレンズ」の面接の日がきた
指定された時間に行くと学生が4人
前回見た学生は1人もいなかった
自分の名前が呼ばれた
応接室に入ると重役らしい人が4人並んでいた
真ん中にいるのが社長だった
質問されたのは「希望業種「「健康状態」「父の仕事のこと、勤務年数」「サークルのこと」だった
前回と違ったのは社長以外の重役がにこやかに話してくれたことだった
これが最終面接ということだったが
時間にして10分ほどだった

どうなんだろう
質問に対して無難に答えることはできたが
自分をアピールできたかといえば不充分な出来だった
面接に対して受身だったことに後悔して帰った
とにかく手応えがないのが不安だった

その後は「○○チメガネ」「メガネの○○」をそれぞれ2回ほど回った


数日経っても「○○コンタクトレンズ」からの知らせは一向に来なかった

面接から10日以上過ぎた9月の初旬に「○○コンタクトレンズ」から一通の封筒が郵便で届いた

心臓がドキドキした

震える手で封筒を開けた

…駄目だった…


自分の甘い考えを嫌というほど突き付けられた気持ちだった

最終面接の前に向こうの担当者の言った言葉がふいに思い出された

「今日はもう少し話をうかがって、その中で今までと違うものが出てくると思いますから」

あの言葉の中に
「もう一度チャンスをあげるから、もっと自分をアピールしてください」
そういう意味が含まれていたんだろう

いまになってやっとそれに気がついた
積極的なアピールに失敗したのだから
落とされて当たり前だったのだ

せっかくくれたチャンスを自分は生かせなかったのだ
惨めな気持ちだった
友達に面接の様子を自慢げに話した自分が恥ずかしかった


…だが…戦いは始まったばかりではないか
一つの失敗にいつまでもウジウジしている時間などないのだ
明日から気持ちを切り替えてやり直そう


次の日からまた会社訪問に明け暮れる日々が続いた
「○○チメガネ」
「○○ーフーズ」2回目
「○ーユー」2回目
「○○ナカ」2回目
「○ニー」2回目
「メガネの○○」2回目

そんな中
「○○ーフーズ」に3回目の会社訪問に行くと
「□□さん(僕のこと)は部長に会ってもらいますので別室で待ってください」
と言われた

そこでここのいろんな店舗を見てきたのでその具体的な疑問を6つほど聞くとうれしそうに1つ1つの疑問に答えてくれた

最後に
「もし本気なら他は回らないでこちらの10月3日の会社説明会に来てください。世間でよく言われている内々定ということに今日させてもらいます」
と言われた

やった~!
これでようやく1つ希望が生まれた


ただ気がかりなことがあった
会社訪問が正式に解禁になるのは10月1日からだった
各企業は一斉に会社説明会を指定した日に行う
入社したいのならその説明会には必ず行かなくてはならない
「○○ーフーズ」の説明会は10月3日だった
同じその日に自分も次の第一希望の「○ーユー」の会社説明会もあったのだ

自分の希望する多くの会社が1日と3日に集中していた
いずれにせよどこかを諦めなくてはならなかった


どうしたらいいのだろう?
僕が考えたのはもう一度「○ーユー」の会社訪問に行くことだった

3回目の会社訪問に行ってみると学生は4人だった
もう自分の聞きたい質問は無かった
できれば成績表や推薦状といった大学関係書類を渡したかったのだが
その場の雰囲気で渡せなかった


不安な日々が続いたある夜
電話が鳴った
出ると

「…あの…△○です」

えっ?

それはオコシからの電話だった

「えっ、オコシ!どうしたの?いまどこにいるの?」
「四国の実家にいる。別になんでもないけど…ひまだったから…手紙の返事もなかなか書けんから…」

いまのサークルの状況や4年生の様子を話して
彼女の社会人の近況を聞いた
思っていたよりも仕事が厳しくて
「えらい考えが甘かった」
と言っていた

もし休みが取れたら10月の中旬に名古屋に遊びに行くかもしれないということだった
是非来て欲しい
自分も必ず会いにいく

それから就職が決まったらライアンとタマのいる山口県まで遊びに行く計画をしてて
できれば四国に寄ってオコシに会いたい
と言うと

「もし来たら知らせて」
と言って

「いろいろ案内してくれる?」
「何もないところだけど…でも知らせて」
と言ってくれた

なんだかんだと20分ぐらい話していた

すごくうれしかったけど

どうして自分のところに電話してくれたのだろう

いろんなことを考えて
その夜はなかなか眠れなかった。







30社ほどの企業から取り寄せた資料を何度も読み返し
実際に会社訪問する企業を12社に絞りこんだ
特に本命と考える5社についてはすこしでも早く会社訪問をしなくてはならないと思った

その一つの「○○信用金庫」に電話すると

「7月28日に来てください」
と言われた

まてよ…28日といえばじゃんけんパートのキャンプ実践の日じゃないか
ジャケイから1年生のセツラーばっかりだからキャンプだけでも来て欲しいと頼まれたばかりだった
だが自分にとって今一番大事なのは自分の就職活動ではないか
思わず心の中でジャケイに謝って

「分かりました。では28日の10時によろしくお願いします」
と言って電話を切った

う~ん、困ったなぁ
とりあえずジャケイに相談してみるか
そう考えているとまるで自分の気持ちを見透かしたようにジャケイから電話がかかってきた
やはりキャンプに来て欲しいという話だったので会社訪問の日とダブってしまったことを話すと

「ひぇ~!」
と言って驚いていた

とにかく会社訪問が午前中だから終わったら昼から追いかけてキャンプに参加するということにした

「○○信用金庫」の会社訪問に行くと
まずでかい本社ビルに圧倒された
考えてみれば会社訪問でなければこんな本社ビルに入ることもめったにないだろうな
8階の会議室に通されると学生は自分を含めて5人だった
学生側からの質問をいろいろと受けてから人事担当者がポツリと言った
「うちは成績のいい人しか採りませんから。その中から人物評価で選びます。優は15~20ぐらいないとね。可は5つ以下でないと困ります」
と言われて思わずびびった

う~ん、なかなか難しいみたいだな
でも挑戦したい気もした

結局、説明会は12時ぐらいに終わった
すぐに家に帰って着替えて岐阜県の長瀬キャンプ場に向かった
電車を3つほど乗り換えてキャンプ場に着いたのは6時ぐらいだった
もうみんなが夕食を終わろうとしていた頃だった

「わあ~ナッツが来た~」
と喜んでくれる子供がいて嬉しくなった

カレーの残りを食べるととても美味しかった

暗くなってからキャンプファイヤー、肝だめしをやった
準備不足な感じはあったが仕方ないなぁと思った

キャンプ場の夜は冷えて寒いぐらいだった

次の朝はラジオ体操をしてサンドイッチを作り朝ごはんにして
おにぎりを握ってお昼のお弁当にした

一段落すると山の川で水遊びをした
井戸水のように冷たい水だったが子供達やジャケイ、メンタン、チクワは川に入って泳いでいた

1時頃にキャンプ場を出発して地域に着いたのは4時半ごろだった
疲れたけど楽しくていいリフレッシュになった


キャンプから帰るとまた会社訪問の日々が始まった
スーパー業界に興味が出て
「○ニー」
「○マナカ」
「○ローフーズ」
といったスーパーを立て続けに訪問した

だいたいどこの会社も学生を3人~10人ぐらい集めた単位で訪問に応対してくれた
学生の質はバラバラだったが極端に凄いと思う学生はいなかった
目立ちたがり屋というか何かにつけて口を挟んでくるしつこい奴がたまにいてウンザリした
そういう学生は自分をアピールしたつもりだろうがいい印象は残らなかった
企業の人事の人はどう評価するのだろうか?


8月に入るとほとんどの企業が会社訪問を受け入れてくれて前から興味のあった
「○○コンタクトレンズ」
に早速行ってみた
ここはコンタクトレンズの製造販売をしている

自分の中では本命上位の会社だった
学生は7人
ビデオで会社説明をしてから質問を受けて
その後に試験をすると言われて驚いた
まだ試験を実施した会社は無かったからだ
適性テスト、一般常識テスト、論文
全部で1時間半に渡る本格的なものだった
終わったのは夕方5時だった

情けなかった
準備不足でもあり自分自身を何一つアピールできなかったことが悔しかったのだ

みんな帰ってしまった会場に自分一人だけが立てずに座っていた

最後に担当者の人に今日のお礼を言って帰った

もっと真剣に準備をしなくては駄目だ
今日の僕にはそれが足りなかった
その為にお前は本命企業への売り込みに失敗したのだ
帰りの電車の中で僕は唇を噛みしめていた


その3日後に別の本命である「○ーユー」に行った
ここはヘアカラーの製造販売をしている会社だ
行ってみると学生は自分1人だけ、まだ会社訪問には誰も来ていないという
やった~!
どんなことでも一番というのは気持ちいいことだ
人事部の課長さんが応対してくれたが
向こうからの質問は10月以降しかしないから
疑問だけにお答えしますというスタンスだった
予め考えておいた質問を5つぐらい聞いた
課長さんはその一つ一つに丁寧に答えてくれた

好印象の残った会社だった


その数日後「○○コンタクトレンズ」から電話があった
8月12日に面接をしたいからきて欲しいということだった
自分は前回のペーパーテストで落とされたと思っていたので驚いた
面接では頑張らなくっちゃ

他に「○本○ナード化粧品」という化粧品会社にも会社訪問に行った
化粧品会社だけあって受付の女性がすごくきれいな人だった
学生は2人だけ
始めは20代ぐらいの若い担当者が出てきて
後から50代ぐらいの人事の責任者といった感じの人がきて質問に答えてくれた
ここは業界4位で採用予定者は25人
毎年400人ぐらいは受験にくるんだそうだ
かなり難しそうだ


「○○コンタクトレンズ」の面接は学生が5人
みんな前回見た顔だった
面接会場に入ると重役っぽい人が4人並んでいて
これで合否が決まるんだなって思った
質問は「学生生活について」「勤務地の希望」「親の仕事」「希望の職種」などだった

ちょっと自信がない出来だった
これで合否が決まるとなると合格するのは難しいだろう

その2日後の夕方に電話が鳴った
「○○コンタクトレンズ」からだった

合格か?不合格か?
心臓のドキドキがマックスになった

「お手数ですが、22日の午後4時にもう一度こちらに来てください」
「もう一度面接ということですか?」
「はいそうです」
「分かりました」

とりあえず首が繋がったような気持ちだった

よし頑張るぞ!






次の日は朝からなんとなく憂うつだった

この前のコロコロの様子はあまり希望の持てるような反応ではなかった
今日自分がどんなに頑張ったところで
彼女の気持ちをこちらに向けるという事が難しいことだということぐらい
僕にも分かっていた

だがここまできたら頑張れるところまで押すしかない

大学に行って就職資料室に行って企業の資料を調べたり図書館に行って勉強しながら時間を潰した

そして3時少し前に図書館の入口でコロコロを待った
時間通りにコロコロが来た

「ちょっと歩こうか?」

「いいよ」

校門を出て少し歩くと隼人池の横の小さな公園に出た
そこのベンチに座って話した

「いま正直にいってどんな気持ち?」
と僕が聞いた

「いまさ~、クラスの係会とかサークルがすごく忙しくて、だから付き合うとかそんな気持ちになれない」

「僕のことどう思う?」

「なんか、話しやすい…先輩っていうより、お兄さんっていう感じ」

「ほかには?」

「う~ん。…ほかには無し。そんなふうには考えられない。だからおしまい」

「コロコロ本当は好きな人がいるんじゃないの?」

「いまはいない。…あっ、いるかな?わかんない」

「この前、僕が言ったときにどう思った?」

「どうって…うれしかったよ。そりゃあ好きだって言われたのは初めてじゃないけど、うれしかった。でも付き合うとかそんな気にはなれない。いまはサークルを真剣にやりたいから余裕がない」

「そんなら、余裕ができたらどうするの?」

「そんな…なんかやだ、そんなふうに言われるのやだ。そんなふうに言われると嫌いになっちゃいそう」

「どうしても駄目?」

「駄目」

「可能性はこれからもない?」

「ゼロ」

「そうか…しかたないね。じゃあこれからは今まで通りサークル員として」

「うん」

「うん。ごめんね」



もう駄目だ

もうこれ以上僕の話せる言葉は見あたらなかった


公園の中の木々の緑が眩しかった
横にある池ではおじいさんが一人
釣糸をたれていた
そういえば以前ここで釣りを何度もしたことを思い出した
僕は虚ろな気持ちで周りの光景を眺めていた

季節は初夏だというのに
僕の胸の中には冷たい冬の風が通りすぎていくような侘しさを感じていた


やがて二人で席を立つと大学に戻る道をトボトボと歩いて
途中でコロコロと分かれた


その日の夜8時からジャケイの下宿でパート会があった
コロコロもいた
なんとも気まずい時間がゆっくりと流れていった
パート会というより方針合宿といった感じだったので終わったのは深夜1時を過ぎていた

コロコロはヒミコの下宿に行き
ジャケイ、メンタン、チクワが送って行った


みんなが帰るとアブさんが
「今日はどこに行ってたんや?」
と聞いてきた

「隼人池の公園

「つきあってくれって言った?」

「あぁ、言ったよ」

「それで返事は?」

「ボツ」

「なんて言われた?」

「う~ん…」

「可能性は?」

「ゼロ」


アブさんは無言で布団を敷いてくれた
それからは全く関係ない話を少しして寝た
もうコロコロのことは諦めよう
諦めて就職活動に本腰を入れて頑張ろう
そう思った

何にしてもここ数ヶ月
自分のうじうじと悩んでいた事に一つの結論が出たのだ
もう彼女のことは忘れて自分の将来を真剣に考えよう


しばらくは硬派に生きるぞ
自分自身にそう言い聞かせるしかなかった


7月になると僕は積極的に就職活動を始めた
公務員試験も受けたが
計画的に勉強をしていたわけでは無かったので当然のように落ちた

それからは企業一本に絞って自分が少しでも興味のある会社を選んで30社ほどに資料請求をした

金融業、スーパー業、メガネ・コンタクト業、化粧品業、宝石業、商社など

夏休みの2ヶ月の間に10社ほどに絞って会社訪問をした
当時は会社訪問は8月に入ってからが一般的で
正式な入社試験は10月1日からと決められていた

ただうちの大学は企業のコネが弱く各人の努力で内定をもらってくるように
と言われていたので自分から売り込むしかなかったのだ
7月の初旬から会社訪問を始め10月の終わりまで就職活動は続いた


ある商事会社の会社訪問で偶然にアナグマと一緒になった
会社の説明会で話を聞いたのだがはっきり言ってあまりピンとこない会社だった
帰りにアナグマと一緒に大学まで戻った
二人で図書館の前を歩いているとコロコロに偶然会った

その時、じゃんけんパートで愛セツ連大会に向けてレポートを作っているのを知っていたから僕は

「レポートできそう?」
と聞いた

「まだ」

「コロコロはどこを書くの?」

「実践の流れ」

「へぇ~。頑張ってな」

「うん。じゃあ 」

そう言ってコロコロは去っていった

アナグマが
「おまえ、企業にアタックする前にあの子にアタックせんとあかんわ。あの子おまえに気があるぞ。顔を真っ赤にしとったが」


う~
アナグマは僕がコロコロに振られたことを知らない
しかしわざわざ実はフラれたんだ
と説明する気になれなかったので曖昧に笑うしかなかった。