翌日の午前中に
「○○ナカ」の本部に誓約書の提出を延ばしてくれるようにお願いに行った

「大変申し上げにくいことなんですが、実はもう一つ受験しています。父の縁故で、ある化粧品メーカーに無理をいってお願いした会社です。その結果がまだ出てませんので…親の顔をつぶすわけもいかなくて…大変勝手なことなのですが、できましたら20日ぐらいまで提出を延期していただけないでしょうか」

そんな話を終始うなだれてお願いした

「それはどの程度の縁故なの?かなり強いの?そちらに受かったら、そちらにいくわけでしょ。でなかったらご両親の顔を潰すことになるでしょ」

僕は困った顔をするしかなかった

担当者の人は少し考えてから
「それじゃあ、○○君はひとつ保留ということにしておきましょう。それでその結果はいつわかるの?」

「16日に面接があります」
「じゃあ、それがわかったらできるだけ早く電話してください」


良かった…
最高の展開になった

それにしても自分の希望の為とはいえ門戸を開けてくれた会社にウソをつくのは心苦しい気持ちがした


午後に「○ーユー」の面接に向かう頃になると台風の影響のせいか
朝に家を出る時は曇りだった空が
いつの間にか物凄い大雨になってきた

「○ーユー」に着き
待合室に通されると学生が5人ほど待たされていた

話を聞くと今日も朝からかなりの学生が呼び出されて面接をしているという

面接が終わった人に話を聞くと
昨日とは違って今日の面接はシビアそのものだと言っていた

昨日はいなかった爺さんがいて
その人がどえらい陰険で抽象的なことをボンと言ってくるんだそうだ
例えば
「人間には外面と内面がある。内面は積極性とか誠実とかだが、外面は何があるか?」

曖昧な返事をすると
それはどういうことなのかってしつこく聞いてきたり最後には
「わからにゃ、わからんと言え!」
って大声で怒られるんだそうだ

ええ~!
なんじゃそりゃ~!


面接が終わって出てくる学生の表情もさまざまだった
ガックリうなだれて出てくるやつもいれば
顔を真っ赤にして興奮して出てくるやつもいた

なんだか不安になってきた


やがて僕の名前が呼ばれた

面接会場に入ると昨日いた3人の他にかなり年配の男性が2人真ん中に座っていた

ハハ~ン
問題はこの2人だな

かなりいじめられるかと覚悟していたら
何故かみんなにこやかでちょっと拍子抜けしてしまった

「もう一度聞きますが転勤はかまわないわけですね」
「家族構成は」
「車はよく運転しますか」
「自動車は気をつけていても事故を起こすことがありますが、パッと子供が出てきた時に事故を回避するには何が大切だと思いますか?」
などの質問をされた

ちょっと考えて
「反射神経だと思います」
と答えると

「そうですね」
といいながらブツブツと野球選手の例をとって練習によって反射神経を養うことができるという話をしていた

「人間には積極面と消極面とがありますが、その割合を6:4とすると、あなたの場合どちらが6ですか」
とか

「あなたは勇気というものをどう考えますか?例をあげてみてください」
などという質問をされた

僕はサークルで地域に全戸配布した時の話をした

嫌な顔をされても簡単に引き下がるのではなく
一歩踏み込んで違う話題を話していくことによって笑顔になってくれた人の話をして
負けそうな気持ちになっても諦めないことが大切だという話をすると頷いて

「あなたが当社を受験したのは勇気を出して受験したのですか?」
と聞かれ

「はい。そうだと思います」
「だと思う…?」
「いえ!そうです!」
と答えると笑ってくれた

何故か自分に対して好意的な雰囲気があって
僕は不思議な気持ちで面接室を出た

家路に向かう電車の中で
ずっと僕は面接の不思議な雰囲気の理由を考えていた

僕が出した仮説は
きっと何度も会社訪問に行ったことによって
僕を人事の課長さんが認めてくれて
それとなく後押ししてくれたのではないかということだった
特に会社説明会の後に会社訪問をして自分を売り込んだことを好意的に捉えてくれたのだろう
あの時言ってくれた
「私もできるだけのことはしますから」
という言葉を思い出した

今日が最終面接ではないにしろ次の最終面接まで残れそうな気がした


6時過ぎに家に帰って濡れた服を着替えていると電話が鳴った
自分が出ると
「○ーユーですが今日はご苦労さまでした。選考の結果、内定とさせて頂こうと思いますがどうでしょう?」

信じられなかった

「はい。ありがとうございます!よろしくお願いします」


やった~!


夜にライアンから電話があった
ライアンは今日「○○ーフーズ」に内定をもらったんだそうだ

僕が「○ーユー」に内定したと話すとすごく驚いて
「ほぉ~、あんた最近つきまくっとるなぁ」
と言っていた


翌日に大学に行って就職課に内定報告をした

「○ーユーに内定しました」
というと

「ほ~、よくやったな!」
と口をほころばせて喜んでくれた



こんな感じで僕の就職活動は終わりに近づいてきた

そんなタイミングの中でオコシがやって来る日が迫ってきた

僕はオコシが来たらどうやってもてなしたらいいのか考えていた

サークルの人達にもあまり広くは伝えてなかったし
オコシにはきっと個人的に会いたい人もいるだろう
その中で自分はどの程度関わったらいいのだろう

期待と不安の入り交じった中で僕はオコシのことを考えていた。






「○ーユー」に会社訪問に行ったその2日後に「○○ナカ」から速達が届いた

開けてみると採用が決定したので誓約書を10月14日までに郵送して欲しい
ということだった


…困った…


「○ーユー」の面接が13日にある
更にもう一度面接がある確率が高い

「○ーユー」の合否が判明する前に誓約書を出さなくてはならない
誓約書を出す以上は「○ーユー」を諦めなくてはならない


僕は翌日大学に行って就職課の指導担当の先生に相談した

「それなら13日の○ーユーの面接の具合をみて行動しなさい。面接で手応えがあれば○○ナカに正直に事情を話して待ってもらいなさい。ただ○ーユーはなかり難しいぞ」
ということだった


う~ん
とにかく13日に悔いのないように頑張るしかないな
面接で自分がしっかりアピールできるように家で仮想面接をイメージして自分のセールスポイントを文章にまとめてみた


するとその夜オコシから電話があった

「もしもし、○○です…あの~オコシです。17日の朝に名古屋に着く予定で行こうと思ってるんよ」
「え~、ずいぶん早いんじゃない」
「うん、でもそうした方が一番長くそっちにいられるから。だから16日の夜にこっちを出て、朝早く神戸から新幹線に乗れば9時頃に名古屋に行けるから」
「うん。分かった。他の人には連絡した?」
「タゴさんとこもポテトのとこも電話がないから」
「ポテトのところに泊まりたいんでしょう?」
「うん。ポテトといろいろ話をしたいし…ねぇ大学に行く用ない?」
「いいよ。行ってポテトに頼んでおくよ。それでいつまでいられるの?」
「19日の朝に帰るつもり」
「そうか、じゃあ17日に名古屋に着いたらどうする?」
「みんな講義の時間に行っても悪いから、どっかで時間を潰してもいいけど」
「じゃあサークルのボックスにおいでよ。僕も行くから」
「うん、分かった。じゃあまた電話するから。さよなら」


おぉ!なんてことだ!

もう二度と会えないと思っていたのに

一年も経たないうちに
またオコシに会えるなんて…

これは運命かもしれない

いやただの偶然でも構わない

オコシにまた会えるだけで僕にとっては奇跡なんだから


僕はすぐさまライアンに電話した

「あのな~今週、あっと驚くことがあるぞ」
「なに?誰か来るんか?」
「おぅ。誰が来ると思う?」
「ん~?ドッツンか?」
「ブ~。違う」
「オコシか?」
「あたり~!」
「うそや~!」
「本当だ」
「ウソに決まっとるやんか。あのこが来るわけがないがや。第一なんであんたが知っとるんだ?」
「いまオコシから電話があった」
「ははははは!あんたいい加減にせいや!」
「本当だって」
「絶対ウソや!第一あんたのところに電話がくるわけがない!」
「疑り深い性格やな~」
「まず第一にオコシが来るわけがない。それにあんたのところに電話するわけがない」
「完全に信じてないなぁ」
「本当に本当か?」
「本当に本当だ」
「いつ来るんだ?」
「17、18、19日」
「本当か?」
「この秋一番のイベントだな」
「信じられんな」
「ははは…あんた一宮から出てくるなよ」
「あんた…あんまり広めたらあかんよ」
「ははははは!」
「はははは」

さあ、なんだか元気が出てきたぞ
こうなったら「○ーユー」の面接をビシッと決めてオコシに会うぞ


13日になった
「○ーユー」の面接は午後2時からだった
行ってみるとすでに学生が5人ほど待っていた
もう面接は始まっているようだった

やがて僕の名前が呼ばれた

面接する人は3人
いつもの人事課長さんとあと2人は常務のようだった

「志望動機」「営業希望の理由」「サークル活動について」「家族構成」「営業のバイトをしたことはあるのか」「学生運動をどう思うか」などを聞かれた

時間にして約10分ぐらいだった
昨日準備した成果が出ていつになく熱っぽく語ることができて自分としては満足のできる出来だった

「今日の結果は後日追ってお知らせします」
ということだった


僕はその足で大学まで行って就職課に報告することにした

「まだはっきりしたことは分かりませんが今日は一次面接でした。今日いた学生の中に残る自信はありますが、最終的に残るのは50%ぐらいの自信しかありません」
そういうと

「それじゃあ、明日○○ナカに行ってこちらの事情を話せ。自分としては御社にもう入社するという決意を持っているけれど、もう一つの結果がまだ出ない。そうだな、もう一つは縁故で親がどうしても行けと勧めているということにしたほうがいいな。こんなことは自分でも不甲斐ないと思うがどうしても親の顔も立てないといけないから、あと一週間ほど待って欲しいと。それを熱意を持って頼むんだ。それでも今日まででないと困ると言われたらもうキッパリ諦めろ。僕としては○○ナカは決して恥ずかしくない会社だから○○ナカを勧めたいが、君が○ーユーにどうしても入りたいのならそれだけの覚悟はしろ。そこまで考えているのなら○ーユーも7:3で入れる確率はあると思う。○ーユーもなかなかいい会社だから、まぁ頑張れ」

よし!ここまで来たら当たって砕けろだ
明日は○○ナカに行くとしよう

その後にサークル室に寄ったがポテトはいなかったので彼女の伝言ポストにオコシの件を手紙で書いて入れてきた


夕方家に帰ってしばらくすると○ーユーから電話があった

「明日の午後2時に再度面接をしたいから来てください」
ということだった

良かった
たぶん明日が最終面接になりそうだ

午前中に○○ナカに行って誓約書の延期をお願いして午後に○ーユーの面接に行こう

明日中にどこに行くことになるか決まりそうだ。








会社説明会の正式な解禁日は10月1日だった
その日は
「○ニー」
「○○ナカ」
「○○チメガネ」
が重なっていた
どう考えても1社は諦めなくてはならない
いろいろ考えた末に
午前中に「○ニー」に行き
午後に「○○ナカ」に行くことにした

また10月3日には
「○ーユー」
「○○信用金庫」
「○○ーフーズ」
が重なっていた
この段階で一番の本命は
「○ーユー」だった
本命を選ぶということは後の2社を諦めなくてはならなかった
つまり内々定をもらっている「○○ーフーズ」も諦めるということでもあった

いままでコツコツと会社訪問を重ねてきたのに
その大半を諦めるということはツラいことだった
体が2つあればいいのに
そんなことも考えた


10月1日になった
僕はまず「○ニー」に行くことを選んだ
学生は300~400人ぐらいいたようだった
説明会は10時~12時まででスライドや担当者からの一方的な説明会だった
もう少し中身の濃いものを期待していた僕にはもの足らない内容だった

説明会が終わるとすぐに地下鉄に乗って「○○ナカ」の説明会の会場に向かった
13時から始まった説明会には学生が70人ほどだった
始めに簡単な会社説明があって次にグループ面接があった
会社側の担当者が4人、学生が5人だった
「志望動機」「将来どんなコースに進みたいか」「生活信条」などを聞かれた
「生活信条」では
「私の生活信条は『失敗しない者は何もしない者のみである』です。人は何かに失敗すると冒険を恐れるものですが、私達若者は失敗することによって具体的な勉強課題が見つかるものだと思います。一番大切なのは失敗を恐れない勇気だと思います」
と言うとその話が気にいったのか
それをきっかけに人事部長がいろいろと聞いてくれた
僕達のグループは20分ほど話して終了した

2日は特に本命といえる企業がなかったので
「○○光学」の説明会に午後から参加した
自分の希望は営業職だったのだが
ほとんどが全く取引のない小売店への飛び込み営業で月のうち20日以上が出張だという事だった
営業部長の話によれば
「帰れ!と言われてバケツで水を頭からぶっかけられたこともある」
ということだった
その後ペーパーテストと面接があって終わったのは5時過ぎだった
ちょっと自分では勤まらないかなぁ

家に帰って翌日のことを考えていると8時頃に
「○○ナカ」から電話があった
「10月5日の朝8時30分に本社の5階会議室に来てください。適性テストと面接をします」
ということだった

やった!とりあえず一次は通過ということか


3日は結局「○ーユー」に賭けることにした
それは「○○信用金庫」と「○○ーフーズ」を諦めることでもあった

「○ーユー」の説明会は13時からで学生は70人ぐらいだった
まず社長の会社説明会があって、次に各部署の担当者と学生の質疑応答があって、適性テストと常識テストを2時間ぐらいかけてやった
終わったのは5時頃で13と14日に分けて面接をするということだった
やはりここも簡単には終わりそうにないなぁ

5日は「○○ナカ」の面接だった
学生は40人ぐらい
今日が最終面接ということで今回も学生が4人で先方が社長、常務、人事部長、人事担当者の4人のグループ面接だった
「趣味」を聞かれた時は

「大学の友人の下宿を泊まり歩くことです。一緒にご飯を作って食べたり、布団を並べて恋愛話をするのが面白いんです」
と言うとかなりウケていた
「将来の希望コースは」には
「私はスペシャリストよりもオールラウンドプレーヤーになりたいと思っています。ですからまずは生鮮3品なら安心して任せてもらえるようになりたいです。今のところ店長コースとスタッフコースを考えていますがとにかく3~4年は生鮮の現場でみっちり勉強したいと思います。そこから自分の将来進むべき道がおのずとはっきりすると考えています」

昼食を挟んで午後からは適性テストだった
午後からは「○○チメガネ」の説明会に行く予定だったが結局諦めるしかなかった

3時過ぎに全ての予定が終わった

「結果は3~4日したら電話します。もし電話が無かったら悪しからずご了承ください」
ということだった

家に帰って夕食を食べていると7時半頃に「○○ナカ」から電話があった

「今日はお疲れさまでした。本日の面接の結果、私どもの『○○ナカ』で頑張って欲しいということで内定とさせて頂きます」

やった~!

とりあえず働き口が決まった
問題は「○ーユー」をどうするかだ

いろいろ考えた末に僕が出した結論は
明日もう一度会社訪問に行くということだった

翌朝「○ーユー」に電話した
「先日の会社説明会に参加させて頂いた者ですが、面接の日までまだ日もありますので、もしご迷惑でなければもう一度訪問させて頂きたいのですが」
というと

「いいですよ。それでは明日の朝の10時に来てください」

よし!やった!
明日は頑張るぞ!


翌日の7日に「○ーユー」に行った
本当はもう聞くことなど何も無かった
とにかく自分を売り込んで印象に残るようにしたかった
面談室に通されると学生は自分1人だけだった
相手はいつもの人事課長さんだった

昨日2人学生が来て適性テストをやったそうだが
説明会の後に会社訪問に来たのは自分だけだということだった

「実はもう聞くことはありません。どうしても御社に入りたくて、今日は自分を売り込みに来ました」
というと課長さんは笑っていた

今年の営業職の採用予定者は7人だということを聞き驚いた
えっ?その中に入らなくてはならないのか?
前回の適性テストと書類選考で13人ほど足切りをしたという
自分は通過したと聞いてホッとした

「私は成績表を見て頂くとわかりますが大学の勉強は大したことはありません。その代わりに人には負けないことをこの4年間やってきました。それは地域ボランティアというサークルです」
と言ってサークルの実践活動を語っていった
「どんなことであれ長い時間をかけて一つのことに打ち込むことは自分でも気がつかないような強い力を身につけてくれます。きっとそれは社会に出た時に役に立つはずです」
そんな話を僕は続けた
理路整然とは話せなかったが熱意は伝わったと思う
課長さんはウンウンとうなづいて聞いてくれた

最後に
「まぁ、13日の面接は頑張って下さい。あなたのそうした考え方というのは大切なことだと思いますよ。私もできるだけのことはしますから」
と言ってくれた

結局1時間ぐらい話していた
いま自分にできることはできたのではないか
思い切って来て良かった

僕は充実した気持ちで帰路についた。