卒業生が去って
しばらくすると4月になった
また新しい一年が始まるのだ

別れていく人達との寂しさの替わりに
春は新しい出会いを運んでくれる

それにボンヤリしているだけでは何も変わらない


ある人がこう言った

「人生は一冊の書物に似ている。馬鹿者たちはそれをペラペラとめくってゆくが、賢い人間は念入りにそれを読む。何故なら彼はただ一度しかそれを読むことができないことを知っているからだ」


まったくその通りだと思う
僕も愚か者にならないように念入りに人生のページをめくっていきたいものだ


4年生になって
本当だったらサークル活動を引退して
ゼミ活動や就職勉強に専念しなくてはならい時期だった
実際自分もそうするつもりだった


あとは2・3年生に任せて自分の進路の為に時間を使っていこう
そう思っていたある夜
家の電話が鳴った
ジャケイからだった

「あのさ、いま新歓実行委員会が中心になって頑張っとるんじゃけど、オルグ活動が停滞しとるんよね。みんな一生懸命声をかけてるんだけど全然入ってこなくて、みんな自信を無くしてヒヨリそうなんじゃ。4年生にあまり頼っちゃいかんと思うんじゃが、時々サークル室に来てみんなと話したり、たまにオルグを手伝ってもらう訳にはいかんじゃろか」


う~ん
しょうがないなぁ…

面倒というよりも
頼られることをうれしく感じた


翌日から同じ4年生の
あぶさんやライアンに声をかけてオルグを手伝うようにした
サークル室にいる後輩を見つけては

「よし、いまからオルグに行こう」
と声をかけ
キャンパスでウロウロしてる新入生を観察しては

「あの子達がよさそうだ。行ってこい」
とけしかけて
話が詰まっているようなら一緒に加わって話をした

いくつかのサークルから声を掛けられどれにしようか悩んでいる新入生も多くサークル室の前でちらちら覗いている人を見かけると中に入ってもらって話をした

新歓実行委員のミッキーともよく話すようになり昼休みになると食堂前で

「あっ、あの子達この前話した子だ」
とミッキーが言うと声をかけて話していった

中には
「あっ、私セツルに入りたいんです」
と言う女の子もいて
少しづつ新入生が増えていった

ある日そろそろ家に帰ろうかと思って門を出ようとした時に
近くにいた二人組の女の子に声をかけた

なんとその内の一人が自分と同じ町から通っている子だった
うちの大学は地元よりも遠く離れた町からやって来て下宿する学生のほうが多かったので
地元の学生はむしろ少なかったのだ
だから地元の話題で話が弾み
もう一人は用事があると言って帰ったが
その子と一時間以上話す事ができた

ショートカットでちょっとボーイッシュな感じの子で
話す時にしっかり僕の目を見て話してくれた
美人タイプではないがクリッとした目が印象的な可愛い子だった


翌日なぜかその事をみんなが知っていて
プッチから
「わぁ、ナッツさん昨日女の子と2時間も話しとったんやて~」
と冷やかされた


それからその子のことがすごく気になって
なんとかうちのサークルに入れたいと思って学内を探していたのだがなかなか会えなかった

10日以上過ぎてもう諦めかけたある日
彼女に会った

「ずっと探してたんだけど全然会えなかったね。大学に来てた?」

「はい来てました」

「もうサークル決めた?」

「いえ。いろんな人にいろいろ言われて何がなんだか分からなくて」

「そうか…また話したいから話そう」

「でも先輩はこれからあまりセツルやらないんじゃないですか」

「う~ん、家庭訪問とかはいかないけどちょくちょく出るよ」

「……」

「また会ったら話そう」

「はい…じゃあ」

やっぱり話してみると素直で真っ直ぐないい子だった
まだ他のサークルに決めてない事を知ってホッとした
できればうちのサークルに入って欲しいものだ

しかしどうやったらうちのサークルに入ってくれるだろうか?
いままで何年もオルグ活動をしてきたが
これといった決め技を僕は持ってなかった


でも本当は決め技などないのだ
結局決めるのは本人なのだから

それでも悶々とした気持ちのまま日々は過ぎていった

数日後サークル室に行くとタケさんに

「昨日の夕方に『ナッツさんにオルグされました』っていう女のコが来たよ」
と知らされた

どうやらあの子のようだった
結局「他のセツルの話も聞いてから決めたい」
と言って帰ったということだった

ほぉ~
あの子が自分からボックスに来たか
これはかなり脈があるんじゃないかな

それが4月26日のことだった


自分にはちょっと気がかりなことがあった
それは新入生を歓迎する新歓合宿が5月2日にあるということだった

もう新歓期は終わりになろうとしていた
もちろんそんなことを気にしないで後から入セツしてもいいのだが
できればそれまでにサークルに入ってもらって新歓合宿にも参加して欲しいと思ったのだ

合宿に間に合えば同じ新入生や先輩達との交流が深まってサークル活動にすんなり入っていけると思ったのだ

そんなことを考えて校内を探すのだがなかなか彼女に出会えなかった


ある夜夢を見た
僕がサークル室に行くと新入生の名前が張り出されているB紙に彼女の名前が何故かカタカナで書かれていたのだ
しばらくすると彼女がサークル室にやってきて
「良かった、良かった」
と喜んでいるめでたいぐらいハッピーエンドの夢だった


目を覚まして改めて感じた
やっぱり彼女をうちのサークルにどうしても入れたい
できれば新歓合宿にも連れて行きたい

逆算すると今日、明日には彼女を入れなくてはならなかった

僕は彼女に会う為だけに大学に行った。