次の日曜日特に仁と会う約束はされていませんでしたが、
急に仁に呼び出され、私は仁の社宅へ向かいました。
仁の家に着くと、何やら前日撮った写真をプリントアウトしている様子でした。
私は仁の横に座り、仁が入れてくれたコーヒーを飲みながら
写真を見て、喜んでいました。
「うわ・・・。」
彼が急に小さな声で息をのんだので、、私は、パソコンを覗き込もうとすると、
仁は私の目を隠して、
「ユイ。見ないほうがいいよ!!!!」と大き目の声で言うので、
「どうして??」とゆっくりと仁の両手を私は寄せて、パソコンの画面を見ました。
そこには、私がふわふわのベンチでシロクマを眺めているときの
画像が映っていました。
ただ、私の首から上は、私だとは解らないくらい白くぶれていて、
首元には無数の筋が入り、まるで壁から白い手が出てきて
私の首を絞めているようなそんな写真でした。
私は息をのみ、例え偶然だとしても、恐怖を感じずにはいれませんでした。
仁は何も言わずそのデーターを消し、
私用としても、CD-ROMに他のデーターを焼きうつしてくれました。
その日、仁から彼女からまだ連絡が来ていることを打ち明けられました。
彼女と連絡を取らない日が続いていたそうですが、
彼女から「どうしてもあきらめきれない」と電話が入ったことを教えられ、
私は一瞬、今なら私が傷ついて、それで終わりになるかもしれないと
仁が背負っている荷物少しでも減らすことが出来るかもしれないと
頭の中をよぎるのでした。
そんな中、仁の携帯のメロディーが鳴り、噂をしていた、
彼女からの着信でした。
仁はそのまま1Kの部屋から出て廊下で何やら話をしているようでした。
笑い声はなく、神妙で言葉を選びながら、ゆっくりと彼女に何かを話しているようでしたが
私には、何を話しているかなんてわかるはずもなく、
写真の中で笑っている私と仁を見ると、この写真さえも握りつぶしたくなり、
同じように胸のあたりが締め付けられる感覚になりました。
仁が部屋に入ってくると都合が悪そうに私の横に座りました。
口を開くのは今回は私が先でした。
「仁、もうやめよう。仁は、前の世界に戻って!私たちは何もなかった。そうしよう!!」
私は、仁の方を向き、必死に懇願しました。
けれど、私の目からは涙が零れ落ち、彼の膝の上に置いた手に染みわたるのでした。
仁は何も言わず、私の手に視線を落とします。
「私は、仁の薬剤師の彼女に比べたら、年収も少ないし、学歴だってC大学法学部中退だし、
今は町工場の事務員だよ。 公務員の仁に釣り合わないよ。」
早口で仁にまくしたてる私は、どこかきっと負い目の他に
仁の彼女に対しての引け目を感じていたのでしょう。
「だから・・・やめよう?」
私はやっとの思いでこの言葉を振り絞って、伝えました。
仁は黙り込んだまま、何かを考えいてるようで、ただ茫然としているのです。
いつか、どちらかが言うであろうと予感していた言葉でした。
「私は、、、、これ以上、仁を苦しめたくない。」
仁の表情は苦しそうでした。
苦しそうな表情で、私の顔に右の掌でそっと触れ、
親指で私の涙を拭ってくれました。
苦しむことが罰ならば、仁を開放したいと願いました。
私にできることがあるならば、こうやって仁を突き放すことが正しい事でしょう。
けれど、人は残酷にも引き離されれば、されるほど
お互いを求めてしまう生き物です。
仁は私にキスをして、抱きしめるのでした。
「ユイは、何も考えなくていいから。俺が背負うから。」
この苦しみに酔いしれている二人は、
抜け出すなんて、できるわけがないのです。
この苦しみこそが二人の絆なのですから。
つづく