翌日私は、リン君に1件のメールを送りました。
『昨日、考えたんだけど、私もうリン君と付き合えない。キスもできない。だからごめん、別れて』
その後、何件もリン君から着信があったのですが、
仕事中ということと、出たくないという気持ちが重なって、
彼からくる着信をずっと拒み続けていました。
するとリン君からメールが届きます。
『今までって嘘だったの?訴えるから。』
怖くなって私は、そのメールを削除することにしました。
そのあと、リン君から連絡は来ることが無くなりました。
数日経っても連絡が来なかったので、私は、
つかの間の安息した日を送ることができました。
ずっと、笹原さんを想うことができて、自分に嘘をつく必要が無くなったからです。
私は、なんて最低なのでしょうか。
偽善者ぶって、最後まで本当のことを言わず、
傷つくことが怖くて、人を傷つけてもなお、誰かに恋をするなんて、
そんな自分がおぞましいのに、笹原さんを想うだけで救われました。
勝手に笹原さんを共犯者にしたてあげ、
自分の罪を少しでも軽くするために、彼に頼るなんて、
こんな自分は幸せになんてなれるわけがないと、
自分を戒める自分がいるのも事実でした。
そして、私は笹原さんとT町の湖にいきました。
車中ずっと、笹原さんの左手は私の右手を握りしめ、
私は彼の左腕に寄り添いながら、まるで他の人から見たら、
なんの問題もない幸せそうな恋人同士に見えたことでしょう。
「ユイしってる?」
「何が?」
「この湖に浮かんでるお姫様の銅像を恋人同士でみると、別れちゃうんだって。」
彼はいたずらっぽく私に言います。
「そんな!!!じゃあ見ない!」
私は彼の手を離して、左側の車窓から、舞落ちる雪を見つめました。
「大丈夫だよ。」
そう言って、笹原さんは私の手を引き寄せました。
そう、だって私たちは恋人同士じゃないから『大丈夫』と皮肉にも
私はそう思ってしまいました。
「仁、雪が降ってるよ」
私はうつろな表情で彼に言いました。
「雪の中、山道って俺たちチャレンジャーだよね」
「そうだね。きっと誰もいないよ。」
「そうだね。」
つづく