思ったより冷静に話しを聞いてくれてるように思えた。
いつもと言い方変えたからかな。
こないだ親父の終活を嫁の姉ちゃんが考えてるって言ったら怒ったのに。
それどころか。
「この話し、私達は知らないことになってるの?」
「親父にはそうなってる。」
「そうなんだ。じゃあ出てくなんてこと考えないでって言えないのね。」
親父に対して素直な気持ちまで口にした。
逆に。
なんで?
って思えてきて。
Jを見たら、嫁をジーッと見て難しい顔してた。
だからわざと。
「Jからは何かあるか?」
話しを振った。
Jは嫁に
「お前の腹ん中が全く見えないんだけど。感情消してんじゃねーよ。」
思ってもみないことを口にした。
図星だったんだよ。
嫁は黙ったから。
オレはほとんどのことは見たままで判断して受け止める。
でもJは違う。
どんな話しをしても、どんな態度取っても、本当の嫁の気持ちを探す。
見た目に振り回されない。
追い打ちをかけるように。
「オレはこの話しを聞いたときに、思いっきり腹が立った。母親にはもちろん、ヨシおじさんにも親父にも!何で被害被った奴が我慢しなきゃならないんだよ!いい子になって、笑ってやり過ごしたって何の解決にもなんないだろ!」
この言葉に嫁がすぐ反応した。
「先が見えないから進めないの!」
まさか嫁が。
先が見えないなんて。
Jですらショックを受けてた。
「お前こないだは実家から母親追い出す作戦立ててたじゃん。」
「引っかかってたことがあるから。」
「なにを?」
「みんなのゴールと私のゴールは違うんじゃないの?役割決めて、同じことに向かってるように見えてるだけで、その裏に何かある気がして。」
嫁は勘付いてたんだ。
何かは分からなくても。
親父も姉ちゃんもオレ達も。
進む方向は一緒だった。
親父は母親との離婚。
嫁は母親への復讐と絶縁。
オレ達と姉ちゃんは本当の親父の存在を遠ざける為。
目的はバラバラ。
それを嫁は何か変だなって気付いてた。
それぞれがケリつけなきゃいけないことなのに。
嫁が望んでることはスタートの時とゴールの時にみんなが同じ気持ちかどうか。
しかも母親とのことは絶対に失敗は許されない。
親父とも姉ちゃんとも話すことができない状況の中。
意志を確認することはできない。
自分の目で見ることができないみんなの決意は信用できないんだと思った。
嫁が計画を立てて動かないことはなかった。
今までは目の前に困ってる人がいて、本当に動くことが必要かどうか自分の目で見極められたから。
親父は本当に離婚を望んでるだろうか。
母親を追い出して実家に戻すことが親父の為になるのだろうか。
もう高齢だからこのまま姉ちゃんといた方が安心かもしれない。
何もかも見えないままで、動いて後悔しないのか確信が持ててない。
動けないことは迷いが生まれる。
突発的に揉め事が起きて止めに入るのとは違うから。
会えないってことが、これほど重要なことになるとは思ってなかった。