お弁当
父が作ってくれる料理が好き。昔から料理上手で、結婚した当初は母にお米の炊き方から教えたんだよ、と笑って話していた。父が拵える食事は味が濃い目。なんだかお店屋さんのごはんみたいだなと、子どもながらに思ってた。私が小学生の時、母は趣味でダンスを習っていて、家を空けることが度々あった。そんな夜はちょびっと寂しかったけど、お父さんが作ってくれたごはんを弟と3人で食べ、布団の中で父の話を聞くのを楽しみにしていた。お気に入りは「父の元にUFOがきて宇宙人に手術された話」と「学生時代レモンスカッシュのことをレスカって呼ぶのが格好良いと思ってた友達がオレンジジュースください!をオレジください!と店員に声掛けし伝わらなかった」というもの。当時は弟とお腹を抱えて笑い、もう一回話して!と何度もアンコールしていたけど...なんであんなに面白がっていたのか...。小4の時だったか。私の運動会と母のダンス合宿が重なってしまって。運動がてんでダメだった私は見に来て欲しくないとさえ思っていたので、合宿に行きなよと母に勧めた。問題は、お弁当。いつもは給食だけど、この日は特別。運動会が好きではない私の唯一の楽しみでもある。自分がつくるよ、と父が名乗りを上げた。あれを作ろうか、これを用意しなきゃなぁと、なんだか楽しそうにも見える。お母さんの海苔弁も、卵サンドも、海老フライも大好きだけど、父が作ってくれる初めてのお弁当に胸が高鳴った。運動会当日。みんなで輪になり、お昼ごはん。パカッと弁当箱を開けると、しょっぱい卵焼きやホウレン草とベーコンのバターソテーなどの定番おかずが色とりどりに並べられている。やっぱり味は濃い目で、ゴマが振りかけられた日の丸ごはんがすすむ。あれ?見たことないものがあるぞ。それはキレイな黄金色の”チーズ揚げ”。餃子の皮に、とろけるチーズを包み、カラッと揚げたもの。父のオリジナル料理らしい。噛むとキュウ〜と音がして、チーズはトロリと柔らかい。おいしい!お友達と交換こすることもなく、私はパクパクとたいらげた。それからしばらくして母は、家事や子育てや仕事との両立が難しくなったのかダンスを辞めてしまった。もう父がお弁当を作ってくれることもなくなったけど、見事”チーズ揚げ” は母に引き継がれた。そう、今ではうちのお弁当の定番おかず。