真空管式レコードプレーヤーの本当の魅力
10年くらい前にヤフオクで落札したナショナルのポータブルレコードプレーヤー。赤いプラスチック製で可愛らしいルックス、大きさはフタを開けると7インチのドーナツ盤シングルがちょうど載る大きさで、もちろんトーンアームを広げると12インチのLPもかかる。その時はちょっと昭和レトロで懐かしいなくらいに思っていた。真剣に聞く時は高級ターンテーブルで聴いてたし、特に気にしていなかったけどそのプレーヤーは真空管式だった。本体にスピーカーが付いてて、その場で音がなる小型のプレーヤー。
ロネッツやポールアンカ等を聴くとなんとも最高の臨場感で、これはただ単にレトロうんぬんではなくなにかあるなと思った。調べていくとちょっと驚きの構造をしていた。
オーディオ製品の場合、電気回路的にはどうなっているのが通常かというとまず音の入り口は小さいのでカセットでもCDでもラジオでもそのままではスピーカーを鳴らすことはできない。これをプリアンプという回路で大きくするのである。そしてプリアンプで大きくなった信号はそれでもまだスピーカーを揺らすだけのパワーはないので今度はパワーアンプにつなぐ。そこで初めてスピーカーが鳴る。プリアンプは簡単なものでもトランジスタで数石以上、ICオペアンプを使えば中では10石以上のトランジスタが入っていることはザラなので音はその分遠回りをする。そしてパワーアンプでもさらに回路があるので音はまた遠回りをして初めて耳に聞こえるのである。
真空管式のアンプが音がいいと言われるのはその基本の仕組みもあるだろうけど、増幅段や通過素子の段数の少なさにあると俺は思っている。余計な回り道をしないのである。段数は少なければ少ないほど原音に近くなるのだが、さすがに1段増幅のみ(つまり通る回路で素子は一個だけ)でプリアンプとパワーアンプを兼ねた回路というのはトランジスタでは不可能(イヤホンレベルなら可能だが)だ。真空管も真面目に設計すると最低でも2段は欲しいところである。通常は3段くらいで組んでいる場合が多い。
ところがだ、昭和30〜40年代くらいのポータブルプレーヤーはコスト優先で当然なるべく安く済む回路で製品を作ろうとするので真空管も少ない方がいいという判断かどうかはわからないが、ほとんどの場合たった一発の球で無理やりスピーカーを鳴らしているのだ!これにはちょっとびっくりした。確かに鳴ることは鳴る。いい音かどうかはちょっと怪しいけど普通に聞き流すには十分な音が出る。出力も実効値で0.5Wくらいはあると思う。0.5W ?? 小さいんじゃないの?って思う人がほとんどだろうけど、ガチの真空管式の0.5Wは全開にするとかなりうるさい。
ナショナルのプレーヤーも御多分に洩れず一発の球で鳴らしていた。しかも途中通過する余計な部品が一切ないので針からスピーカーまで一直線。こんなダイレクトな回路は見たことがない。
この回路が成立するためには高出力のカートリッジが必要になる。現在主流のMM型やMC型は発電量が少ないため高性能プリアンプで40倍以上ゲインを稼がないとパワーアンプに信号を送ることができない。当然真空管一発ではスピーカーを十分に鳴らすことはできない。昔はMMもMCも大変高価なシステムで安い家庭用品にはとても使えなかった。多くの庶民用のプレーヤーはクリスタル型というロッシェル塩結晶を使った圧電方式のカートリッジを採用しており、これが特性としてはあまりいいものではなかったが出力電圧が高いため真空管一発でも十分スピーカーを鳴らすことができた。
電磁誘導方式を一切用いずに真空管一発でスピーカーを鳴らす、これはもうほとんどパッシブの蓄音機に限りなく近いのである。このことがレコードに刻まれた音を再生する時に起こる量子的な変化に現在のターンテーブルとプリアンプの組み合わせとは全く違う次元空間の音を作り出すことに大きく寄与している。百聞は一聴にしかず、聴いてみればわかる。もちろん全ジャンル音楽の再生に向いているとは言わない。昔風の音源になればなるほど向いているが、マイケルジャクソンもイケた。
これが俺がこの時代のポータブルプレーヤーにのめり込んだ理由。あの当時の次元空間の音がする、それを再生できる能力がある、数字上のスペックには決して出てこない量子的な性能。 かなり仕入れたので整備して売れるものから売っていく。仕入れが大体9000円前後の場合が多いので整備内容にもよるが15000~25000円くらいになるケースが多いだろう。針は大量に仕入れたので問題ない。
そのうちアメブロでもツイッターでもFBでも宣伝すると思う。