ここには、何もありません。
少しの水と、二酸化炭素と、窒素と、酸素と、わたしがただ、あるだけです。
金も、名誉も、地位も、権力も、ここには存在しません。
モラルも、常識も、良識も、ここでは意味を持ちません。

 ここには、名前がありません。
名前を呼ぶ人も、名前を付ける人も、名前を知りたがる人も、ここにはいないからです。
ここにいるのはわたしだけで、わたしも名前を呼ばないからです。
わたしも名前を知らないのです。

 ここには、誰もいません。
いるのはただわたしだけで、わたしの目には誰も映らないのです。
誰かの目にも、わたしは映っていないのです。
だから、つまり、きっと、ここには誰もいないのです。

 昔、それは、わたしがここに存在するよりも、太陽が炎に飲み込まれるよりも、宇宙が膨張を始めるよりも昔。
一度だけ、誰かが、ここに名前を付けようとしたことがあります。

 「ここは、まるで楽園のようだ。何もないが、しかし、それゆえに清々しい。空の上を飛んでいるみたいに気分がいい。ここはさながら天の国、言うなれば、天国だ。」

 ここには、何もありません。
少しの水と、二酸化炭素と、窒素と、酸素と、わたしがただ、あるだけです。
存在意義も、存在価値も、自己も、自我も、欲も、善も、悪も、ありません。
わたしがただ、あるだけです。

それでもここは、まるで、天国のようです。
空気中を漂っているみたいに、心地良いのです。
萎れた花雪が溶けずに凍って
身体はもう為す術を知らぬので
途方に暮れた思いが燃え
さざめく無情に寄りかかれど
、夢のまま

本能以外の身が漂白に変わって
総てが光で出来ているので
この眼では何一つ視えず
流るる粒を堪え切れど
、夢のまま

日向の後ろで雨の音と赤に染まる
俗な背景は
まるで指先から響く
悲劇の愛しさ伝うような闇
逃れられないのです

影響された憂いの感性に
ただ似通う身を焦がすだけなので
服従することを厭わず
真実に両手を託せど
、夢のなか

哀しい痛みを霞は黙って見ている
炎はやがて燻ぶると
奇妙に惑わし
眠れぬ朝に委ねてしまう
闇まで 闇まで

鏡に打つけた破片が破片となって
縛り上げるほど突き刺す
癒えない理由など
既にここには無い日々でしょう
咎められないのです

消耗していくあの頃ゆめ
ここにひとつとして本当はあるの?
届かぬ儚い気持ちなら
自ら慰めてあげよう
、夢のまま

妄想でしか
自分の幸福を
見つけられないの

私はどこまで子供なのか
という課題にすら
呼吸を合わせられないほど
荒んだ日々が
寄せては返す波に飲まれ
真実は塩辛く錆びてゆくのです

涙はたびたび温度を変え
熱さも冷たさも意味を成さず
壺の中でもがいていました

とびきりの鬱と青
そのような様が再び現れ
白い建物
髪のかたまり
グレーな雰囲気
全ては・・・
誰に見られる事もなく私は
自分の寝息を聞きながら眠るのです

私は暗闇で俯いているようで
本当は暗闇にずっと居たいのだろう
暗闇から逃げたいようで本当は
光ある場所になど行きたくないのだ

矛盾の中でしか
素直に生きられないから
私は真実などを知らない
右手に握った妖魔から
したたる血液くらいしか

明け方
私の脳内で言葉が溢れかえる
抱えきれぬほど湧き出る
この粒たち
こぼれないように必死で全てを抱く
綴るのじゃない転がす
終わりがないところまでへ

あたしの世界へ入らないで
見せかけだけの影
透明になるまで暴いてやる
僕の中で嘲笑え

朝のフルーツ盛り合わせ
この際に建て前中毒
殺せ
殺しちまえ
善悪の境目が分からないやつらなど

殺せ
殺しちまえ
それは自分自身だったと

忙しなく動いていないと落ち着かないこの指を切り落としてしまったら
わたしは一生、無いはずの指を動かそうと指先に神経を集中させて
いつか気がふれるのかもしれない

そんな空想を反芻しては両頬を咀嚼する

跡形もなくなったものに意識を奪われるのは、気が狂うほどの苦痛と焦燥を内包している
そしてその苦痛と焦燥は永遠に朽ちることなく息をし続けて
脳を内側から萎縮させるように、わたしは苛まれ続けるのだろう

憂鬱が嘆く午前四時、
くだらない妄想で世界は加速するのだと知った

焦燥さえ忘れてしまいそうな、泡沫の日々を眺めるわたしは
空想と現世とが手をとり歩き出す瞬間も まばたきさえ携えることなく監視していた

犬の顔をした天使が赤いスプレーをまき散らし
整列した黒と白が世界を嘲笑う
目が覚めたわたしはふくらはぎを噛み千切り
痛む左眼を削ぎ落としながらコーヒーを飲んだ

この、夢と現実の美しいコラージュを
わたしの頭の中で呼吸する、現実主義者のあなたに見せてあげたい