花ものがたり
<<花によせて>>
Pierre de Ronsard
<第三話> ピエール・ドウ・ロンサール(P・R)
それは5年ほど前の、ある小春日和の日でした
<ピエール・ドウ・ロンサール>が急に欲しくなり
近在の薔薇を扱うSHOPを散策していた時のことです。
春の日差しが強くなる頃でしたので、
苗はなかなか手に入りません。
前年の秋ごろ、ナーセリー(育苗業者)にでも頼まないと。
半ば諦めてた、或る日、何の気なしに
近所の花屋兼育苗業者の店頭の前を
通り過ぎようとした時でした。
バスの往来する大通りの傍にそれは在りました。
店頭の花木や草花などが埃にまみれ
今にも息切れしそうな・・・・・・
こんなところにはP・Rなんて無いさ
今にも通り過ぎようとした時
溢れ返るような草花の真ん中の奥のほうに
偶然、その子を見つけました。
眼と眼が一瞬合いました。
心の耳に
<オッちゃん、私を連れってて>
か細い女の子の声が聞こえてきました。
身の丈十数センチの
それでも可愛い花をしっかり付けていた。
そして、午後の昼下がりには
もう、私の家のベランダに、
彼女は素焼きの鉢に収まって
春の日を燦々と浴びて
満足そうな顔をして、まどろんでいました。
翌年には、大きな鉢に植え替えられ、
たっぷりと薔薇の専用の土と肥料をもらって、
あっという間に1m程の娘になっていました。
隣の大輪の黒いつる薔薇が終わりに近づいた頃、
数十輪程の見事な花をたわわに付けました。
<どう、オッチャン、素敵でしょ>
娘は誇らしげに、私に語り掛けます。
その後、株は2つに分けられ、
一株は琵琶湖の見えるベランダに
そして、もう一つは、「比良山」の見えるベランダに・・・
毎年季節になると
近所のお家にお裾分けされ
近くを通る人の眼に
微笑を送るのでした。
今年も剪定の季節がまたやって来ました。
彼女の鋭い棘に刺されながら、
5月を待つのです。
<オッチャン、アリガトネ>・・・・・
娘のハッキリとした声が
今年も、心の耳に届いてきますでしょう。
琵琶湖湖畔の寓居にて
2011-01-31
六無斎