花ものがたり
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浪花茨
<第四話> なにわいばら
いつも、お前はリラの花が咲く頃、
薄い透けて見えるような
たおやかで、楚々とした装いで、
辺り一面に咲き乱れる。
その花弁の可憐さは、
玄宗皇帝の心をも酔わしたであろう
中華の華。
一人の老婆が余りのお前の リラ(ライラック)
その生命力の強靭さに
ほとほと舌をまき、呆れ果て、
来る年も、来る年もお前を切り刻んだ。
しかし、お前はそれを耐え忍んだ。
私はお前の花姿に惚れ、
老婆に頼んで、数枝を貰い受けた。
数年後、お前は大きな株となり、
辺り一面を埋め尽くした。
そして、その時
私は老婆の心根が理解できた。
しかし、老婆は
既に冥界に旅立った後である。
末期癌の闘病生活の後。
老婆はお前のその強靭な生命力に
きっと嫉妬したのだろう。
一見、深窓の令嬢のごとき、
か弱さの中のどこに、
伐っても、切っても次の春には
以前にも増して枝葉を茂らせてくるお前に
恐怖感さえ覚えたに違いない。
今年はどんな鉢にお前を、
入れてあげようか。
どんなふうに、枝を張らせて上げようか。
古代中国の華よ、
広い揚子江の辺り一面を埋め尽くしてきた
楊貴妃の花よ。
2011-02-01
琵琶湖湖畔の寓居にて
六無斎