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「雪田さん・・・狭いところですが、座って下さい。今、簡単な酒の肴を作りますから・・・焼酎でいいですか? 焼酎しか置いてないものでね・・・」
「何でもいいですよ・・・気にしないで下さい・・・」
台所で包丁の音がする。何かを切っているのだろう。
すぐに包丁の音は止まり、焼酎のコップと漬物を出してくれた。
「何ヶ月ぶりになるかもしれませんよ・・・私の家にお客が来ることは・・・ハハハ・・・楽しい・・・それで、雪田さんは、どうして新開刑事と仲がいいのですか?少し羨ましいですな・・・まぁ、乾杯しましょうや・・・」と、コップを持ち上げた。
「仲がいいというよりも、新開刑事の管轄エリアに僕の店があって、暇つぶしに来るのです。最初は、強盗事件の聞き込みで来たのです。それからの付合いになりますね。昔、僕も探偵会社にいたものですから何となく気が合ったのです。それ以来・・・腐れ縁的な変な付合いとなりました・・・」
「そうでしたか・・・最初は、少し偏屈な人だと思いましたが、付き合ってみると温かみのある人だと思いました。私の娘の時も・・・本気で心配してくれて、東京からここまで来てくれたのです・・・本当に優しい人です。一緒に働くことができるのなら私は新開さんの署に配属になりたいと思ったことも何度もありました・・・」と、目には光るものがあった。
スッポンの今野という呼び名とは程遠いという顔つきで焼酎を一気に飲み干した。
「娘さん? あの・・・あそこの仏壇の?・・・」と、尋ねると。
「えぇ・・・娘です。生きていたなら十二才になります。一人娘でした・・・」
「差し支えなければ・・・何があったのでしょうか?」と、重い雰囲気となっていた。
「聞いてくれますか? 今から、八年前になります。幼稚園までの通学路で事件は起こったのです。朝の8時でした。女房に連れられて歩いていたところに、信号無視をした車が突っ込んできたのです。娘の信号は青でした。それは、目撃者の証言で確認されています。そして、娘は轢かれてしまったのです。幸いなことに女房はかすり傷だったのですが、娘は、頭を強く打っていて即死状態だったのです・・・」
「・・・犯人は・・・捕まったのでしょう?」
「・・・いえ・・・逃走しました。若い男と女が乗っていたということは分かっていますが、ナンバーも偽造されていたものと分かりました。大型の黒色の外国の車ということまでは・・・所轄の警察は必死で捜査しているのですが、今もって犯人に結びつく情報はありません。私も非番の時は捜査していますが・・・車の塗料の一部が道に落ちていたのですが、新車の時の塗料と違っていて探すことが難しいのです。色を塗り変えた車だと思います・・・なかなか見つけることはできません・・・残念ですが・・・さらに、急ブレーキもかけていないのでタイヤ痕が残っていなかったのです・・・」
「そうでしたか・・・それは大変でしたね。しかし、娘さんのことを思うと、何としても犯人を捕まえたいと思いますね。何か、他に証拠のようなものはないのですか?」
「えぇ・・・何も・・・ただ、ひとつ不思議なことがあります。娘の命日は、11月の十八日なのですが、その日になると娘が死んだ場所には花が置いてあるのです。最初は、近所の人が置いてくれていると思ってて感謝していたのです。しかし、何年も続くので、私なりに調べてみたのですが、近所の人にはいないということなのです。交差点のそばの人に尋ねたら、命日になる日の深夜に車の止まる音がして誰かが花を置いているというのです。人の気配はするのだけど、暗くてはっきりとは分からないというのです。それで、三年前から命日の前日に張り込んでみたのですが、私の存在を見たかもしれませんが、命日の数日前や数日後に花が置かれるようになったのです。何とも不思議なことです。もしかしたなら・・・犯人ではないかと思っていますが・・・私を避けるように花が置かれているのです。どこの誰なのか?」
「不思議ですね・・・僕も思うに・・・犯人ではないかと?罪ほろぼしとして花を置いていると・・・」
「そうだと思っています。しかし、その後、所轄の刑事も見張っていたのですが、私たちの裏をかいたように花が置かれるのです。本当に不思議です・・・しかし、本当の犯人なら、そんな危険なことをすることはないのではないかと思うようになりました。何故なのかと?・・・」
「それで、毎年、花は置かれていると?・・・」
「昨年は、花はありませんでした。しかし、私の署に花が届くようになったのです。死んだ現場に置かれていた花よりは、かなり小さくなり、定形外の郵便として届いたのです。差出の消印は、日光中央郵便局になっていましたが、どこかのポストに投函されたものだろうということです。本局や特定局では扱っていないということでした・・・」
「今年は・・・明後日ですね・・・また、郵便なのでしょうか?」
「それは分かりません・・・が、おそらく届くのではないかと・・・一応、明日の夜には張り込むことにしています。それと、日光市内の全てのポストにも刑事や事務方の警官が張り込むことになっています。皆、私の無念を晴らそうとしてくれているのです。時効までには何とかしたいと・・・娘と女房が不憫でなりません・・・」と、スッポン今野の目から大粒の涙が流れ落ちた。
「奥さん? ここにはいらっしゃらないのですか?・・・」
「はい、娘の事故死で精神的におかしくなったのです。それで、塩原の精神病院に入っています。少しずつですがよくなっているのですが、まだ、精神的に不安定なのです。医者からは退院しても問題はないというのですが、本人が私に会いたがらないのです。多分、自分が娘を殺したような気持ちになっていて会いたくないのかもしれません。私としては、すぐにでも家に戻ってほしいのですが・・・」
「・・・何となく分かるような・・・気がします・・・」
「雪田さん・・・すいませんね。私的なことで・・・さぁ・・・もう一杯・・・いきましょう・・・」
と、今野さんは言うのだが、こんな話を聞かされてから、では、飲みましょうという気持ちにはなれなかった。
僕は、再び娘さんの写真を見た。
笑顔の可愛い女の子だ。僕は心の中で手を合わせていた。
そして、昔のことが蘇ってきた。
僕の母親も同じように轢き逃げにあって死んだのだ。
僕が、小学五年の時の夕方のことであった。
僕が学校から帰ると、大勢の人が家に集まっていた。その中には警官の服を着た人もいた。
僕は、子供ながらに何か大変なことがあっということを感じていた。
ほどなくして、父がかけつけた・・・そして、僕を連れて病院へ向かったのだ。
遺体安置所には、父だけが入った。
僕には見せられないという母の姿だと聞いた。
母は、夜の食事の買出しのために、自転車に乗りスーパーへ向かっていた時の事故であった。
その時の、かすかな記憶が蘇ってきたのだ。
幸いなことにトラックを運転していた犯人は自首して逮捕された。
僕のその時の記憶は少ない。少ないというよりも思い出したくないのかもしれない。
父が肩を落とし、母の棺にすがる後姿だけを鮮明に記憶している。
母の葬儀の記憶はない。僕にとっての母は生きているのだと信じていたかったのだと思う。
轢き逃げという悪質な犯罪を何としても防ぐという気持ちは強かった。
それで、警官になろうと思っていたのも事実であったが、警官の採用試験に落ちてしまった。
それから僕の人生は大きく変わったように思えてならない。
もし、警官になっていたなら、間違いなく交通警官になっていたと思う。
十一年間の母の思い出だけが心の中に閉まってある。
とても優しかった母の記憶が・・・・
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■人生ちょっとのさじかげん