悪夢の金曜日から1日が明けた。


結局、夜中の間に病院からの電話が

鳴ることはなかった。

緊急事態にはならなかったようだ。


ホッとしていた矢先に、

ママの携帯に病院からの着信…。

何事だろう…。



ホッとしたような、

少し苛立っているような、

複雑な表情のママ。


問題なさそうなので、

ICUから一般病棟への移動の

電話だった。


病院から電話が鳴るときは

緊急事態だと思っていたから

こんな事で電話して欲しくなかった。


どれだけ、携帯への着信に恐怖心を抱きながら

長い夜を過ごしていたのか、

少しは察して欲しいと思った。


病室の移動に際して、

荷物をまとめて欲しいから

早く来てほしいとの事だったので

急いで支度して、予定より

少し早く家を出た。


とりあえずは意識を取り戻して、

寝返りもするし、

ミルクも飲んでくれました。


MRIも急ぐ必要はなさそうという判断から

明日以降に様子を見ながらという事に。

お騒がせ、ご心配をお掛けしました。


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人生生きていたらいろんな事あると思う。

どれだけ充実した人生を生きたって、

死ぬときに「未練」は残るもの。


だけど、「後悔」はしないように

生きるって事は可能だと思う。



いつ何があるかわからないこの人生。

是非、みんなにも「後悔」しない人生を。


一度きりの人生

どこで

誰と

何をして

どうやって

生きていきたいのか。


そして、あいさつを大事に。

あいさつが最後の会話になるかもしれない。


おはよう

いってきます(いってらっしゃい)

ただいま(おかえり)

おやすみ

そして、ありがとう。


最低でもこの5つだけは、

どんなときも忘れないでほしい。


僕らも、今回の事で過保護にならずに。

自由にさせてあげられる環境を

つくってあげることで、

「後悔」しないように。

気を付けながら育てていきます。


あらためて、たった6ヶ月の怜旺が、

ちゃんと家族になっていると感じました。

家族の一員になっているんだね。

心配してくれてありがとう。





この時は、この先問題なく回復していくものだと、

信じて疑うことはなかった…。
それを聞いて安心した僕は、

そのまま付き添い入院になってもいいように

荷物をまとめに自宅へ戻ることにした。


病院に向かう途中、携帯が鳴る。

ミルク飲んでくれたと安堵の声。

いや、うれし涙で途中から声が出ていなかったかな。

つられて涙が出てくる。

今まで感じたことのない感情が溢れてきたような気がした。


病院に着くと、待合室に先に到着していた両親とまっきーの姿。

そして、2人の先生から色々と説明を聞いていた。

面会出来るまでしばらく待たなければならなかった。

母親から離れるのは、怜旺が誕生した時にNICUに隔離された時以来。

きっとさみしがっているだろうな…。


ようやく面会の許可が出る。

ICUの中にある、怜旺の病室へ案内される。

ベッドに仰向けになって天井を見上げる怜旺。

点滴のチューブを口に咥えてモグモグやっている。

なのに声を掛けてもあまり反応がない。

まるで無意識かのよう…。

怜旺の笑顔が見たくて何度も何度も名前を呼んだ。


ようやく、少しだけこっちを向いて目を合わせてくれた。

動きは気だるそうだが、いつもの怜旺と変わったところはないように思えた。

そうしているうちに、だんだんと自分達の事を思い出してくれたのか、

表情が柔らかくなってくるのがわかった。


怜旺が好きな「いないいないばあ」をしてみる。

さらに表情が緩んだ。

もう少しで笑顔と笑い声が戻ってきそうだ。

そんな中、すぐ横のモニターが鳴る。

心拍数の異常を示して赤いランプが点滅した。

慌てて看護師さんに声を掛ける。


保険を掛けて、ダブルでカウントをしているものが

まれに2つともカウントされてしまうことがあるという事だった。

300オーバーという、ありえない数値を示していても、

こんな事態だとやっぱり心配になってしまう。

安心して怜旺から離れて、待合室へ。


面会時間が終わる。

怜旺を先生に任せて、後ろ髪を惹かれるように病院を後にする。

緊急の着信に控え、携帯電話のマナーモードはオフ。

音量も最大にしておく。

何事もなく、明日が迎えられるように

ただただ祈るだけだった。
119番してから、

そう待たずして救急車が到着。


すぐに乗り込むも病院は決まっていない…。

状態を確認するために、いろいろと検査しているようだ。


そうしているうちに痙攣が起きる。

どうやら血液中の酸素が足りていないようだ。

酸素量を増やす措置を施してもらう。


瞳孔の大きさも、左右の目で違う。

この状態があまり良い状態ではないことを示しているらしく、

市内の総合病院へ向かう準備をしていたのをやめて

もっと大きな病院へと向かうためにドクターヘリの

出動要請が出された。



救急車は、市内のヘリポートへと移動し始める。

その間も、怜旺の状態や施した措置を

手際よく無線で連絡して、引き継ぎをしていた。


ドクターヘリが到着すると、

搭乗するに当たっての説明も特にはなく、

シートベルトとヘッドホンをするように指示されて

すぐに、県内の総合病院へとヘリは飛び立った。


この頃には、怜旺は意識を取り戻して

目は少し開けられるようになっていた。


ただ、顔色はまだ悪く、手足の指先も紫色をしている。

目と脳、そして末梢神経への影響が心配だ…。


車なら1時間半程掛かる距離を、

あっという間に飛び越えて

10分余りで病院に到着した。


すぐに治療と検査。

付き添いで一緒に病院へと飛んだ

まっきーも病室へは入れず、

怜旺だけが集中治療室へと運ばれていった。


その頃、僕も仕事をしていた横浜から

急いで戻っている最中だった。


首都高の小菅の辺りだっただろうか。

まっきーから電話。


こんなことになってしまって、

自分を責めているようだった。


かわいい我が子が目の前で

命の危機に瀕している…。


不安と絶望、そして後悔が

同時に押し寄せてきて、

パニックになっていたのだろう。


僕は、とにかく気持ちを落ち着かせようと

一生懸命に励ました。

そして、怜旺の無事を信じて

ただただ祈っていた。


そんな中、病室から

怜旺の大きな鳴き声が聞こえる。

そして、先生方の笑い声も聞こえてきた。


どうやら山は越えたみたいだ…。
11:02 着信…

11:05 着信…


仕事中に、まっきーとおかんから

立て続けに着信。


ちょうどカフェがオープンした時間。



カフェで事故か…?

それとも怜旺…?!


いつも、だいたいカフェの電話がつながらないとか、

エスプレッソマシンが調子悪いとか、

そんな電話が多いのに、

今回はなぜかイヤな予感がしていた。



すぐに、折り返し出来ない状況だったので

目の前にいた弟に代わりに電話させる。


電話しながらみるみると顔色が変わる弟。

血相を変えて、今すぐ折り返し電話を掛けろと言う。



「やばい、やばい…怜旺が…」


「はやく…はやく電話掛けたほうがいいよ!」



どうやらイヤな予感が当たってしまったようだ…。


心の準備を整えて、折り返しの電話を掛ける。

まっきーは出ない…。

おかんに掛ける…。


表現し様の無い声で一生懸命に

今の状況を伝えてくれた。


どうやら、眠っていたはずの怜旺が

カフェのオープン準備中に目を覚ましたらしく、

動き回ってベッドから落ちてしまったらしい。


ちょうど、6ヶ月が過ぎた頃から

ゴロゴロと寝返りが素早くなって、

脚力も強くなってハイハイしそうな

感じになってきた矢先だった。


寝室に戻ると、ベッドの上に怜旺がいない…。

よく見ると、布団ごとベッドの下の狭い場所に

挟まるようにして落ちていたらしい。


慌てて抱き上げた時には、

既にぐったりとしていて、

こんにゃくのよう。


目は上に上がってしまっていて、

白目をむいている…。

呼吸が止まってしまっている。


そして、身体も冷たくなっていて

血色の悪い紫色に変色している。


頭には大量の汗。

そして、布団にはビッショリと少し大きめの

シミのようなものが出来ていた。

呼吸が出来なくて、何か吐いたのだろうか…。



まっきーは、そんな状態の怜旺を抱えたまま

叫びながら、カフェにいたおかんを呼びに行った。


すぐに、救急車を呼ぶように言われたが

気が動転していて何番に掛けたらいいかも

わからなくて、110番に掛けようとしていたそうだ。


その間、怜旺はおかんの腕に預けられた。

こんな小さな赤ちゃんに、人工呼吸して良いのかもわからない…。

とりあえず、胸のあたりを必死にさすってやると、

小さく息を吹き返した!


苦しそうに…

不規則に…

小さく…

小刻みに呼吸し始める。