皆さんこんばんは。
映画好きが講じてマニアックな楽しみ方を研究しまくっているいわしでございます。
アクション映画とホラー映画をさらに楽しいものにしてもらうべく独自の目線と鑑賞の記憶から考察、論じております映画独論シリーズ第8回目です。

皆さんアクションの本場といえばまず思い浮かぶのは香港映画であり、カンフー映画という方も多いでしょう。
しかし、一般的にはカンフー映画の評価というのは決して高いものではありません。
昔の作品などは剣や拳法を使って若者たちが悪党を倒す、ストーリー云々よりもとにかく戦いっぱなし、同じような話ばかりという声も多く、実際に人物だけ違って展開は似たようなものが多いのも事実でした。

ドラマ好きな方はストーリー性がないカンフー作品をまず見ない方もいます。
しかし同じような展開で似たような作品であっても作品の描かれた歴史背景が分かると途端にそこには深みが出て、魅力的な作品に見えるものも多いのです。
今回の独論はカンフー映画をもっと面白く感じてもらうために中国の歴史を題材にしていろいろな紹介をしたいと思います。
なお今回はいささか世界史の授業っぽくなりますけどご勘弁くださいませ(笑)

まず今までにカンフー作品を含む中国を舞台とした歴史アクションは数千作品以上も作られてきているのですが、実はその9割は3つの時代における内容の物語です。

まず最初の時代背景は、『春秋戦国時代』
聞いただけでは分かりにくいですが、今大人気の漫画『キングダム』が描かれている時代はこの春秋戦国時代にあたります。
実写化され劇場公開された映画『キングダム』もそうでしたが、このあたりの作品群はのちに中国を初めて統一した『秦』を題材にしたものが多いのが特徴です。
しかもその多くはとある事件の関連ものになっています。
それが『始皇帝暗殺未遂事件』です。
秦が統一前に起こったこの事件は荊軻という暗殺者がのちの始皇帝となる瑩政を狙ったものの失敗。これには瑩政の関係者が暗躍していたことにより政争問題となった事件でした。
文献が古いうえに不確かな情報も多いのですが、陰謀論を絡めたアクションとして描いた作品が多く、大女優コン・リーが主演した『始皇帝暗殺』などはドラマ性も重厚な作品として知られています。
この時代を描いた作品はジャッキー・チェンが主演した『ラスト・ソルジャー』などもありますが、個人的におすすめなのはジェット・リーチャン・ツイィーらが出演した

『HERO英雄』

がおすすめです。

耽美的な人物設定と雅な映像美が圧倒的な本作ですが、それだけでなく敵国の刺客を倒したという暗殺者役のジェット・リーが秦王と謁見する中で繰り広げられる二転三転するドラマも見どころです。
しかしアクション的にはジェット・リーと対峙する刺客たちにドニー・イェントニー・レオン、マギー・チャンなど豪華なスターたちが扮し、華麗なワイヤーワークのアクションを繰り広げるのが見どころです。
個人的には達人的遭遇ともいえるドニー・イェン対ジェット・リーの対決が素晴らしいですね。


さて次の時代背景はぐっと進んで『清朝時代』
この時代は歴史カンフーアクションの実に5割が集中しているくらい多く作られている時代です。
題材としては清朝の二つの大きな事件が絡んでいます。
まず前期は『少林寺焼き討ち事件』
これには清朝の立国から連なる思想が原因で、清朝の主民族である『満州族』が前王朝の明の主民族であった漢民族を支配しようとしたことから始まりました。
復権を狙う漢民族は辮髪などを強制する満州民族に『こんなダセー髪型できるか!(嘘)』と言ったかいわずかとにかく反旗を翻し反清運動を起こします。
その急先鋒として清朝に狙われたのが少林寺だったわけです。
このあたりの作品群では巨大な清の軍勢に対抗する少林寺の拳士たちを描いたものが多く、結果南北に分かれた少林寺の有名な拳士たちが結集して立ち向かう内容や、敵に通じた拳法の宗家武当山との争いなどが描かれています。
特に清の軍に立ち向かった『広東十虎』や『少林五組』などは多くの作品で取り上げられている題材です。
魅力的な人物もたくさんいますが具体的なものは次回以降の独論でまた詳しく(笑)。

この時代を描いた作品は数多くありますが、その中でも最高峰の声が高いのは

『嵐を呼ぶドラゴン』

でしょう。

前述した清の大群に反旗を翻し戦う少林寺の門弟たちを描いた作品で、続編や前日譚なども含めると壮大な叙事詩といってもいいくらいの壮大なアクション巨編です。
クライマックスの次々と強敵と戦いながらも散っていく拳士たちもなかなかドラマ性が高く、カンフー映画入門としてもオススメな作品です。


後期の題材のキーワードは『扶清滅洋』です。
これにかかわる大きな事件が『アヘン戦争』『太平天国の乱』でした。
この二つの事件から強力な外国勢と戦う拳法家の話やのちに辛亥革命につながる革命家と清との戦いを描いた作品が多く作られることとなります。
ジェット・リーの再ブレイク作品となった人気シリーズ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズもこの二つの題材に則った作品群です。
とみに悲劇的に描かれることも多く、辛亥革命近辺を扱った作品ではカンフー作品よりも戦争アクションやスペクタクルアクションに特化したものも少なくありません。
歴史アクションとしても秀逸な作品が多いのですが、あえてオススメを一つ上げるとするならばオールスター出演作品となった

『孫文の義士団』

を挙げたいと思います。

辛亥革命前夜を描いた歴史アクションで主演もドニー・イェンニコラス・ツェーレオン・ライと豪華。彼らが香港に革命の会議に訪れる孫文を500人もの清からの暗殺者から守るために命懸けで戦い抜くという物語です。
150分近くの長丁場でありながら飽きさせないアクションと重厚な人物の描き方と物語。何より名もなき彼らが未来のために壮絶に命を散らす悲愴感が素晴らしい作品です。
人間ドラマとして面白い作品が多いので、太平天国の乱時代の裏切りと友情を描いた『ウォーロード』などもいいですね。


さて最後は近年となる太平洋戦争時代の中国。
満州事変から始まる日中戦争を背景にした作品が多く描かれています。
ここでの設定は侵略してくる旧日本軍相手に必死の抵抗をみせる傑物たちが主で作品の多くは日本軍は冷酷非情なものとして憎々しげに描かれています。
現在でも抗日運動のプロパガンダとして利用されることの多い題材ですが、その代表格として知られるのが

『ドラゴン怒りの鉄拳』

を中心とするいわゆる『精武門』関係作品です。
ここで主人公として描かれるチェン・シンという若者が日本軍の息のかかった武道家たちによって謀殺された師匠の仇を討つという内容が王道の物語となっています。
ブルース・リーの主演によって空前のヒットとなったこの作品はその後もジャッキー・チェンジェット・リー、ドニー・イェンらが続編やリメイクに主演し現在では若手アクションスターの登竜門的な意味合いにもなっています。

さてここまで論じてきましたが勘のいい方は気付いた方もいるのではないでしょうか?
そう中国の歴史上もっともドラマチックな時代である『三国時代』がないことを。
歴史的にも偉人の多い三国時代ですが、意外にもカンフー映画として個人を題材にしたものは少ないです。
歴史的なイベントとしても赤壁の戦いなど個々のアクションよりも戦術や周囲の人間ドラマに重きを置いたものが多く、映画よりもむしろ長編のドラマとして取り上げられることが多いのが特徴です。
あのジョン・ウー監督の大作『レッド・クリフ』でも前後編にわたって壮大な戦術と三国の重要人物の群像劇を中心に描いていて、アクションの見せ場は個人よりもその集団スペクタクルのほうが強く出ています。
もちろんドニー・イェンが関羽を演じて有名な『過五関、斬六将』のエピソードを描いた作品もありますが、この作品でもアクション一辺倒ではなく関羽と曹操の奇妙な友情とドラマを描いた作品となっていました。

いかがでしたでしょうか?
何気なく単調に見ていたカンフー映画もこうした歴史背景があると分かれば少し見方も変わるのではないでしょうか?
戦うにもそれぞれに理由があり、その歴史背景に応じたドラマがあるわけです。
そう思うとチープな風景をバックに戦い続けるアクションにも深いドラマ性を感じるのではと思います。
今回紹介した作品を入門編としてカンフー作品に興味をもってもらえれば幸いですね。

さて今回の独論はここまで。
次回以降も皆さんがアクションやホラー作品に興味を惹かれるようなネタをお送りしたいと思います。
次回をお楽しみに(^^)/

 

これまでの独論アーカイブスです

 いわしの映画独論第1回『アクション映画のトレンド格闘技って?』


いわしの映画独論第2回『ハリウッドアクション女優の系譜』


いわしの映画独論第3回『次世代、第2の○○』問題を斬る(笑)


いわしの映画独論第4回『アクション俳優のブレイクに“アレ”は欠かせない』


いわしの映画独論第5回『アクション女優の系譜第2弾!~アジアンアクション女優編~』


いわしの映画独論第6回『意外な邦画アクションの歴史と冬の時代』


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