法学教室 2024 年度演習 行政法設問集-2

 

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B地区住民が国に対して損害賠償を求めて国家賠償請求訴訟を提起するにあたり、本件砂丘が河川法施行令1条1項1号に該当することを前提として、以下の主張をすべきです。

1. 河川管理者の義務違反

  • 河川区域の指定義務:
    • 河川法6条3号、河川法施行令1条1項1号により、本件砂丘は「地形上堤防が設置されているのと同一の状況を呈している土地のうち、堤防に隣接する土地」に該当し、河川区域に指定されるべきでした。
    • 国土交通大臣は、本件砂丘が堤防としての役割を果たしていることを認識していたにもかかわらず、これを河川区域に指定しなかったことは、河川管理者の義務違反にあたります。
  • 河川管理義務:
    • 河川区域に指定された場合、河川管理者は河川法24条ないし27条に基づき、河川区域内の土地の占用、土石等の採取、工作物の新築等、掘削等を制限する権限を有します。
    • 国土交通大臣は、本件砂丘を河川区域に指定しなかったため、太陽光発電事業者による本件砂丘の掘削を制限することができませんでした。
    • 本件砂丘の掘削により、地盤高が計画高水位を大きく下回り、本件洪水による被害を拡大させたことは、河川管理者の管理義務違反にあたります。
  • 予見可能性と結果回避義務:
    • 国土交通省は、平成23年の事業再評価資料において、本件砂丘を自然堤防として扱っており、その重要性を認識していました。
    • したがって、本件砂丘が掘削された場合、洪水被害が発生する可能性を予見できたはずです。
    • 国土交通大臣は、本件砂丘を河川区域に指定し、掘削を制限することで、本件洪水の発生を回避できたにもかかわらず、これを怠ったことは、結果回避義務違反にあたります。

2. 国家賠償法2条の要件

  • 公務員の過失:
    • 国土交通大臣が、本件砂丘を河川区域に指定しなかったこと、および掘削を制限しなかったことは、河川管理者としての義務を怠ったものであり、過失があったと評価できます。
  • 損害の発生:
    • 本件洪水により、B地区住民は家屋全壊の被害を被っており、損害が発生しています。
  • 因果関係:
    • 本件砂丘が河川区域に指定され、掘削が制限されていれば、本件洪水の被害は発生しなかった可能性が高いです。
    • したがって、国土交通大臣の義務違反とB地区住民の損害との間には、相当因果関係があると認められます。

3. 主張のポイント

  • 本件砂丘の重要性:
    • 本件砂丘が自然堤防として機能しており、洪水防御に重要な役割を果たしていたことを、客観的な資料や専門家の意見等で立証することが重要です。
  • 河川管理者の認識:
    • 国土交通省が、本件砂丘を自然堤防として認識していたことを、事業再評価資料等の証拠で示すことが重要です。
  • 掘削と洪水被害の因果関係:
    • 本件砂丘の掘削により、地盤高が低下し、洪水被害が拡大したことを、洪水シミュレーションや専門家の意見等で立証することが重要です。

これらの主張を根拠に、B地区住民は、国土交通大臣の義務違反により損害を被ったとして、国家賠償請求訴訟で損害賠償を求めることができます。