法学教室 2024 年度演習 行政法設問集-12

 

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A市の住民であるXが、A市市長Yに対して提起した住民訴訟(4号請求訴訟)について、本件支援金の支出が適法であるかを検討します。

1. 本件支援金を損失補償として支払う法的根拠

  • 損失補償の要件:
    • 損失補償は、適法な公権力の行使によって、特定の者が特別の犠牲を被った場合に、その損失を補填する制度です。
    • 本件では、A市がと畜場法等の法令に基づいてと畜場を廃止したわけではないため、適法な公権力の行使があったとは言えません。
    • また、本件利用業者は、と畜場の利用者であり、と畜場の廃止によって特別の犠牲を被ったとは言えない可能性があります。
  • 法的根拠の不存在:
    • したがって、本件支援金を損失補償として支払う法的根拠はなかったと考えられます。

2. 本件支援金を補助金として支払う要件の充足性

  • 補助金の要件:
    • 補助金は、地方公共団体が特定の事業を奨励するために、その費用の一部を交付するものです。
    • 本件では、A市議会が、本件利用業者が遠方のと畜場を利用して事業を継続するために必要な補償等について審議し、支援金を支出する方針を決めています。
    • したがって、本件支援金は、補助金としての性質を有していると考えられます。
  • 補助金としての要件の充足性:
    • A市は、本件支援金を「補償、補填及び賠償金」の節に計上しており、補助金としての予算措置を講じていません。
    • また、A市は、本件要綱所定の手続きをとっておらず、補助金の交付を受けた者に対する指導監督義務を怠っています。
    • したがって、本件支援金は、補助金としての要件を充足しているとは言えません。

3. 本件支援金の支出の適法性

  • 予算の流用:
    • 地方自治法220条2項は、歳出予算の款・項間の流用を禁止していますが、節間の流用は明文で禁止されていません。
    • 本件では、A市は、本件支援金を「補償、補填及び賠償金」の節から支出しており、節間の流用にあたります。
    • したがって、予算の流用自体は違法ではありません。
  • 裁量権の逸脱・濫用:
    • しかし、A市は、本件支援金を損失補償として支払う法的根拠がなく、補助金としての要件も充足していません。
    • また、A市は、本件支援金の使途について最終的に確認できないとしており、公金の支出に対する監視義務を放棄しています。
    • これらの点から、A市市長Yの裁量権の行使は、著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱・濫用にあたる可能性があります。
  • 違法な公金の支出:
    • よって、本件支援金の支出は、違法な公金の支出にあたる可能性が高いです。

4. 結論

  • 本件支援金を損失補償として支払う法的根拠はなかった。
  • 本件支援金は、補助金としての要件を充足しているとは言えない。
  • 本件支援金の支出は、違法な公金の支出にあたる可能性が高い。

したがって、Xの請求は認められる可能性が高いと考えられます。