法学教室 2024 年度演習 行政法設問集
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Aさんの就学先指定に関する問題について、Xさんの希望を実現するために適した行政訴訟と、その適法性について検討します。
1. 提起すべき行政訴訟
Xさんは、Aさんを地域の小学校に通わせたいと希望しており、市教委によるC養護学校への就学先指定(本件指定)の取消しを求めることが考えられます。したがって、提起すべき行政訴訟は、行政事件訴訟法3条2項に基づく取消訴訟となります。
2. 訴訟の当事者
- 原告: Aさんの保護者であるXさん
- 被告: K市教育委員会
3. 訴訟の対象
取消訴訟の対象となるのは、市教委による本件指定です。県教委による本件就学通知は、市教委の通知を基礎としているため、本件指定の取消しを求めることで、本件就学通知の効力も失わせることができます。
4. 提起の適法性
- 処分性: 本件指定は、Aさんの就学先を決定するものであり、Aさんの権利義務に直接的な影響を与えるため、行政処分に該当します。
- 原告適格: Xさんは、Aさんの保護者であり、本件指定の取消しを求める法律上の利益を有するため、原告適格が認められます(行政事件訴訟法9条1項)。
- 出訴期間: 本件指定の取消訴訟は、行政事件訴訟法14条1項に基づき、本件指定があったことを知った日から3か月以内、または本件指定の日から1年以内に提起する必要があります。本件では、取消訴訟を出訴期間内に提起するものとします。
- その他: Aさんの就学先指定に関して、個別に規定された救済方法はないため、取消訴訟を提起することが可能です。
5. 主張のポイント
- 裁量権の逸脱・濫用: 市教委は、Aさんの障害の程度や医療ケアの必要性を考慮し、B小学校での就学の可能性を十分に検討すべきでした。しかし、市教委は、Xさんの意向や主治医の意見を十分に考慮せず、安易に特別支援学校適と判断しており、裁量権の逸脱・濫用があったと主張できます。
- 手続きの違法性: 施行令18条の2は、市町村教委が保護者と専門的知識を有する者から意見を聴くことを定めています。市教委は、Xさんとの面談を行ったものの、Aさんの主治医など専門的知識を有する者の意見を十分に聴取しておらず、手続きに違法があったと主張できます。
- 合理的配慮の欠如: 障害者権利条約や障害者差別解消法は、障害のある子どもが地域の学校で教育を受ける権利を保障しています。市教委は、Aさんが地域の小学校で教育を受けられるよう、合理的配慮を提供する義務があります。しかし、市教委は、B小学校における医療ケア体制の整備や人的支援など、必要な合理的配慮を検討しておらず、違法であると主張できます。
6. 証拠収集
- Aさんの診断書や主治医の意見書
- B小学校における医療ケア体制や人的支援に関する資料
- 市教委との面談記録
- 障害者権利条約や障害者差別解消法に関する資料
これらの証拠を収集し、主張を裏付けることが重要です。
7. その他
- 取消訴訟と併せて、国家賠償請求訴訟を提起することも検討できます。
- 訴訟と並行して、市教委との協議や交渉を継続することも有効です。
これらの検討を踏まえ、Xさんは、Aさんの就学先指定の取消しを求めて、取消訴訟を提起することが考えられます。