２００６年に
シュヴァンクマイエル監督が来日した時、
歓迎パーティを開催することになって
その会場に監督をお連れして
タクシーで移動した時の話です。
物凄い渋滞で
パーティには
大幅に遅れそうでした。
パーティ会場に
その旨を連絡し、
監督にも
渋滞にハマったことを詫びました。
そして、
エアコンは寒くないか、
水は欲しくないか、
トイレに行きたくなったら
止めるので言ってくれ、など
私は、かなり気を使いました、というより、
オロオロしておりました。
そんな私に監督は言いました。
「君はいろいろ気を使ってくれているが、
あまり気を回さないで欲しい。
今のこの状態は
全く君の責任ではない。
しょうがないことだ。
折角だから
東京の街並みの景色を
楽しもうじゃいか。」
この時間帯（夕方）に
車はまずかったか、と反省したり、
でも、高齢の監督（当時７３歳）を電車の乗り継ぎで
連れ回すのもどうなんだろう、と考えたり、
だったら、もっと早くに出発するべきだった、と
再び反省したりしている中、
その監督の言葉には
とても救われました。
そして、
監督は
続けて言いました。
「私の不遇の時代に比べれば、
大した時間じゃないよ。」
監督は
１９７３年から１９７９年まで
その制作姿勢を政府に疑われ、
映像制作を禁じられていました。
その時のことと
比べておっしゃったのでしょう。
監督は続けて
「１９７０年代は
政府に禁じられて、
作品が作れなかった。
今は、お金が
十分に集まらなくて
作れない。
そう考えると
時代は何も変わっていない。
だから、
ジタバタする必要はないのさ。
今、できることを一生懸命やればいいんだ。
今できることは
東京の景色を見ることだ。
あれは”東京タワー”じゃないのか？
君は、見たことあるのか？
実際、近くにあると、
気がつかないものだろう。
この機会にしっかり
”東京タワー”を目に焼き付けようじゃないか。」
監督は
数々の作品を作り出していますが、
金策は、いつも大変そうで、
作品制作は、思うようにいつも
進んでいないことの吐露だったみたいです。
東京タワーのことですが、
私は浜松町に住んでおり、
当時は毎日
東京タワーまで
ジョギングをしていたので、
東京タワーを見ない日はなかったのですが、
「そうですね。
東京タワー、こんな近くにあるんですね。
気づかなかったです。」
とつい言ってしまいました。
監督は
「私のチェコで長い間
同じところに住んでいるが、
近くに肉屋があるのを最近知ったよ。
私は、それを知らなくて
遠くまで肉を買いに行っていたよ。」
後でわかったのですが、
その肉屋は
最近、できたばかりの肉屋だったそうです…。
でも、監督のおかげで
落ち着いた気分になれて、
監督と一緒に
”東京見物”をさせていただきました。
それでようやくパーティ会場の近くに到着しました。
一方通行が多くて
会場の前ではなく、
少し離れたところに降りたのですが、
２０分ぐらいの遅刻ですみそうでした。
でも、
タクシーを降りたところに
八百屋があり、
監督が
”へちま”を見つけ、
初めて見たのでしょう。
その形と触感の虜になり、
結局、１時間の遅刻になりました。
八百屋のご主人が怪訝な顔で
こっちを見るので、
「彼はシュールな映画の
監督なんだ。」と説明し、
申し訳ないので、
その”へちま”と
フルーツのセットを買いました。
”へちま”を
見つめる監督は
先日書いた
”骨”を語る時と
同じ表情でした。
↑ご参考までに…
監督がへちまを見つめている間、
私は、実は「パーティに早く行かなければ…」
という気持ちは実はあまりなく、
会場に「あと３０分ぐらいかかる」とだけ連絡し、
監督の気が済むまで
八百屋の主人と話をしながら
待っておりました。
少し
話は脱線しますが、
私は”集中する”のが苦手で、
集中するまで、ものすごく時間がかかります。
でも、昔から
勉強でも仕事でも
”いい成果”を出した時は
”没頭した時”だけです。
”ゾーンに入る”という言い方を
しますが、
いつも、
”ゾーンに入った状態”になれるよう
苦労しています。
でも、監督は
すぐに”ゾーン”に入ります。
だから
素晴らしい作品をたくさん作られるのだろうなあ、
と思うのですが、
自分なんかとくらべて
おこがましいのですが、
私と監督の違いってなんだろうと
へちまを見つめる監督を見て、
考え込みました。
私は”気を遣いすぎるのだろうなあ”。
それは、”集中するため”には
”雑念”なんだろうなあ…。
でも、”気遣い”って
世の中で生きていく中で
絶対必要だよなあ、
などと考えていたら、
私も”気遣いについて考えること”に没頭してしまっておりました。（笑）
”へちま”を堪能した監督から
「行くぞ。」と言われ、
ハッとして、
八百屋の主人にお金を払って
パーティ会場に向かいました。
集中力…。
「興味に対しての素直さ」なのかなあ、と
思いましたが、
未だ答えは出てきません。
でも、わかっているのは
集中は”頑張ってするもの”ではなく、
”集中してしまうもの”なのでしょう。
ラストは私のモノローグになってしまい、
失礼しました。
でも、監督から学ぶものは
とても多いです。
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