民宿開業当初の我家と古民家の魅力
昭和37年に我が家は養蚕農家をやめて、民宿を開業しましたが、その頃の写真と思われます。
養蚕も下火になり、農業での収入も減少してきた折に、当時の白馬村の村長さんからの勧めで、夏の学生さんを対象にした民宿を開業したと聞いています。私が生まれる3年前のことです。
我が家は白馬村とは言っても、中心地から10km離れた南西の外れで、国道からも2kmほど入った山あいにあります。20軒ほどの小さな集落で、近所に友達も少なかった私は、小さな頃の休日の思い出といえば、お客さんに遊んでもらったことばかりです。お客さんのほとんどが常連さんでしたので、家族のようなお付き合いをさせていただいた方々が大勢いらっしゃいます。民宿は休日が稼ぎ時ですので、家族で旅行に行った思いではありませんが、お客さんに色々なところに連れて行ってもらいました。近くの観光地はもちろん、初めて糸魚川で海を見たのもお客さんと一緒でした。またお客さんと触れることで、田舎の良さを再認識でき、自分のふるさとを興味をもって見ることができるようになったと思います。もちろん、今でもその方々とは交流を続けています。
このようにお客さんたちと家族ぐるみのおつきあいをさせていただいているのも、今思えばこの古い家のお陰だと思っています。まるでおとぎ話に出てくるような、茅葺き屋根で板張りと漆喰の外壁。中に入れば囲炉裏が赤々と燃えており、太い梁と柱に、使い込んだ建具と立派な床の間。誰しも言うのは「ふるさとに帰ったような気分。」とか、「本当に落ち着く。」という言葉です。一度来た方は、ほとんどが二度三度訪れ、やがて常連さんになっていくというのも、この佇まいと雰囲気からくる物だと思います。
私は今、実家から遠く離れた広島県に住んでいるのですが、年をとればとるほど実家に帰った時の安心感というか、居心地のよさは増していくような気がします。古民家の良さと言うのはこういうことだと思います。時が経てば古めかしくなっていく最近の建物に比べ、年が経つほど味が出てくるのが古民家の魅力であると思います。
この家に生まれ育ち、自分の故郷として帰れることを本当に幸せに思うとともに、この家を今のまま後世に残していかなければならないという責任感に強くかられています。あと何年かしたら家に戻り、曽祖父から祖父へ、祖父から父へ受け継いできた、この古くて大きな家を私も守って行きたいと思っています。



